講師コラム

第2回 なぜ、ハラスメント研修を受けても管理者は悩むのか?

悩みが解消されないハラスメント研修の実態
~弁護士等のハラスメント研修は管理職の悩みを解決してくれない。~

パワハラ問題についての研修として、弁護士等に依頼するケースが多く見受けられます。
弁護士等による研修は、パワハラの定義の解説や、裁判事例を基にした法的問題の解説が中心になります。
しかし、それでは管理職の悩みは解消されません。
なぜなら、管理職の悩みの元はモヤハラ®状況であり、モヤハラ®状況とは「パワハラの定義に該当しない真っ当な指導に対して部下が『パワハラだ』と 反応する状況」だからです。
いわばモヤハラ状況とは「グレーゾーン」であり、それに対してパワハラの定義や裁判事例などは「真っ黒」なケースなのです。
グレーゾーンの中で悩んでいる管理職に対して真っ黒なケースをいくら説明しても、 グレーゾーンから抜け出す道しるべにはなりません。

管理職をグレーゾーンから救い出し、職場のパワハラ問題の実態に正しく対処できるようにするための研修は、モヤハラ®状況の存在を認識させ、その発生メカニズムを理解させ、それを踏まえて、「パワハラだ」と言われない指導方法の工夫の仕方を教える内容でなければなりません。

モヤハラ®状況の発生メカニズムはこれだ!
~鰹節削りや洗濯板を知らない若者の価値観~

では、モヤハラ状況の発生メカニズムとはどのようなものでしょうか。
結論を言うと、モヤハラ状況は、
「昔あったものが今はなく、今あるものが昔はなかったために、価値観の対立が露呈する」
というメカニズムがあるから発生するのです。

まず、「昔はあったが今はないもの」とは「会社への忠誠心」です。
日本経済は、戦後復興から高度経済成長を経て1990年代後半のいわゆるバブル崩壊まで、 右肩上がりの成長を続けていました。
その時代においては、年功序列・終身雇用という不文律の制度に基づいて、会社は社員に対して会社への忠誠心を求め、 社員もそれに応じていました。しかし、現代において、もはやそのような状況は存在しません。

次に、「今はあるが昔はなかったもの」とは「パワーハラスメント」という言葉です。
2001年、株式会社クオレ・シー・キューブの代表岡田康子氏は、職場における上司という立場に基づく嫌がらせ行為を なくしていくことを目的として、『許すな、パワー・ハラスメント』という本を著わしました。
「パワー・ハラスメント」という言葉は、そのような目的から、この年に岡田康子氏により作られた言葉なのです。

人間だれしも、自分の価値観(好みと言ってもよい)と異なる価値観を押し付けられると 反発を感じます。それは今も昔も変わりありません。
高度経済成長の時代にも、会社や管理職の指示命令が自分の価値観と異なるために 反発を感じていた社員は存在したのです。
ただ、その時代、社員は会社への忠誠心を持っていました。
本音の言葉で言うならば、会社や管理職の指示に反発するのは損であり、 我慢して従っていた方が得だったのです。
しかし、そのような状況が消滅してしまった現代において、 会社や管理職の指示に反発を感じた社員は、もはや我慢して自分を抑える必要はありません。
心おきなくその反発感を表わそうとします。そのとき、現代においてはパワハラという便利な言葉があるのです。

このようにして、管理職の指導は客観的にみて真っ当な指導であっても、部下が管理職とは異なる価値観を持っていれば、 管理職の指導に対して反発を感じ、「パワハラだ」という言葉で反応するのです。
これがモヤハラ®状況の発生メカニズムなのです。
前掲の営業部の管理職の例も、「営業は足で稼ぐものだ」という言葉がパワハラに該当するのか否かという問題なのでは ありません。
「営業は足で稼ぐものだ」という管理職の価値観と「メールの方が早くて安全で便利」という部下の価値観が対立しているために、 部下は「上司の考えを押し付けられた」と感じ、「それってパワハラじゃないですか」と反応しただけなのです。



パワハラの悩みを解消する研修とは?
~モヤハラ状況を理解して、部下とのコミュニケーションを工夫する。~

今まで述べてきたことを踏まえて『在るべきパワハラ研修』を描くならば、第一に、パワハラ研修はパワハラという言葉の意味の理解に悩み、指導とパワハラの境界線に悩んでいる管理職を対象にすべきであり、第二に、その内容は、彼らの悩みを解消することを目的として、以下のような内容にするべきです。



(1)職場のハラスメント状況の実態の再確認

  

定義に当てはまる真っ黒なケースは意外と少ない。

ほとんどの場合、パワハラ問題があると感じているのはモヤハラ®状況。

(2)モヤハラ®状況の発生メカニズム

  

「昔あったものが今はなく、今あるものが昔はなかったために、価値観の対立が露呈する」

(3)管理職としてのパワハラ問題への対処法

  

第一に、真っ当な指導に対して部下が「パワハラだ」と反応しても、それは単なるモヤハラ®状況であり、 自分の行為はパワハラではないということを認識すべきです。

  

第二に、従って、部下に指導すべきときは自信を持って指導しなければなりません。
「パワハラだ」と言われるのは面倒だと感じて部下指導に消極的になるのは、人材育成という管理職の 重要な任務の放棄にほかなりません。

  

第三に、しかし、今のご時世、価値観の対立が露呈するというメカニズムがある以上、真っ当な指導や注意であっても それを「パワハラだ」と受け止める部下が居ることは否定できないと割り切らなければなりません。

  

その上で、部下を指導する時は、「パワハラだ」と受け取られない言い方を工夫する必要があります。
いま管理職の立場にあって部下から「パワハラだ」と言われて面食らっている人も、若手社員だった頃の、 反発を感じた管理職の言動の思い出はあるはずです。

それは人によって様々でしょうが、最大公約数的なものとしては、自分の経験を絶対的なものとして押しつける言い方、 常に自分の考えが正しいと思い込んでいる独善的な言い方、相手の考えを尊重しない言い方、職制上の上下関係を意識した権威主義的な言い方などがあると思います。
そのような言い方は、昔の自分が反発を覚えたのと同じように、今の部下も反発を覚えるものなのです。
従って、昔の自分が反発を覚えた管理職の言い方を思い出し、その逆の言い方を工夫すれば、「パワハラだ」と 受け取られない言い方になるのです。

それは、廻りくどいひと手間に感じられるかもしれません。
しかし、モヤハラ状況が避けられない現代の職場の環境を考えれば、必要なひと手間だということを教えるのが、  『あるべきパワハラ研修』の目的なのです。



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コラム担当講師
鈴木 瑞穂 (すずき みずほ)
アーサーアンダーセン、アンダーセンコンサルティング、リシュモンジャパン株式会社等の外資系企業の総務・法務部で契約書作成・レビューを中心とする企業法務業務に従事。その後、KPMGあずさビジネススクール株式会社で研修講師を務め、株式会社インプレッション・ラーニングにおいてコンプライアンス、企業法務を中心とする講師を務める。著書「やさしくわかるコンプライアンス~茶髪は違反ですか?」(日本実業出版社)「現場で役立つ!ハンコ・契約書・印紙のトリセツ」(日本経済新聞出版社)

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