講師コラム

ハラスメントといわれない、リーダーシップ(部下を勇気づける法)

徐々に通用しなくなった「ダメ出し」

 皆さんは「ダメ出し」という言葉をご存知のことと思います。「この企画はダメだ。目的が明確ではない…」「今度のプレゼンは、冒頭からダメだ…」など、「ダメ出し」はよくない部分に焦点を当て、仕事のやり直しや、それに言及する意味で使われています。皆さんもダメ出しをした、された経験をお持ちではないでしょうか。
 スポーツの現場でも、教育の現場でもダメ出しは広く行なわれていますので、私たちの心にはダメ出しがしみついているといっても過言ではありません。「よいところを伸ばす」よりも「ダメなところを修正する」ことに、より意識が向けられがちなのです。
 しかし、時代は徐々に変わっていきます。現在の道徳教育の学習指導要領では、「自尊感情や社会性などを育成する」ことが明確に取り入れられており、皆さんが学んだ頃よりも「自分を大切にする」ことにこだわるジェネレーションが続々と社会に出てきています。個人差はあるにせよ、ダメ出しへの耐性が年代ごとに低くなっていることを現場で体感している人も多いと思います。よかれと思って善意で「改善点」を指摘しているのに、「人格否定された」「パワハラを受けた」と針小棒大に受け取る部下がいて、頭を抱えている人もいるかも知れません。過去と同じようなダメ出しは通用しなくなってきていることを、そろそろ自覚すべきだと思います。

部下の不適切な行動は5%だが、その5%に95%の注目をする

 皆さんの部下で「遅刻する」「あいさつをしない」「同じ失敗をくり返す」ような人はいませんか?ではその部下は「いつも」たとえば毎日遅刻しているのでしょうか?どんな状況でも「全然」あいさつをしないのでしょうか?
 私たちが日常行なっている、朝起きる、顔を洗う、朝食を取る、メールをチェックする、会議に出る…といった行動は「適切な行動」です。この適切な行動は、「善行」ばかりでなく「当たり前の行動」が殆んどです。上記の遅刻する部下は、適切な行動がどのくらいできていますか?どのくらいできていませんか?
 下の図のように、人の一日は殆んどが適切な行動で成立しており、不適切な行動の頻度は5%程度に過ぎません。しかしながら「適切な行動」は当たり前で、意識して注目しないと見逃してしまいます。反面「不適切な行動」は評価側の期待に沿わず、怒りのスイッチに触れることもあるので、注目の頻度は完全に逆転してしまいます。

怒りの根底にある感情

 そして、「不適切な行動」に注目して声をかけられると、その頻度が増えます。さらに威圧的な態度で「ダメ出し」をされると、行動や感情そのものが萎縮したり、注意をされても何も感じなくなってしまったり、最悪の場合は「逆ギレ」をされてしまうこともあります。

「ダメ出し」から「ヨイ出し」へ

 アドラー心理学では「ダメ出し」の対極にある「ヨイ出し」の実践を推奨しています。ヨイ出しとは、「その人の適切な行動に注目し、その事柄に対して積極的に言葉に出して伝えることです。この「言葉に出して」がキモです。日本では「以心伝心」「沈黙は金」に表されるように、言葉ではなく「察し」の文化が醸成され、察することが美徳とされてきました。しかしここでは、「注目・関心を向けられた行動は、その頻度が増える」ので、ヨイところを捜して、そこに声をかける「ヨイ出し」を積極的に実践していきましょう。
 言われた側は、「アラ探しばかりされているわけではない」「この上司は公平に自分をみてくれている」という気持ちを持つことができます。これが部下の自己肯定感を高め、やる気を高め、組織の活性化につながります。

正しい注意の与え方

しかし、部下のダメなところを放置することはできません。以下の2点で正しい注意を与えましょう。

  • ① 「ヨイ出し貯金」を実践部下のヨイところ(行動面・言動面)を、日頃から目にかけ、常に2~3個リニューアルして記憶しておく。部下が多い方は、貯金通帳のように何かの紙にメモをすることをおすすめします。ただし、絶対に部下に見られないように実践しましょう。
  • ② 「ヨイ出し」の後、改善点を私見として伝える(あいさつをしない部下に対して)「君のヨイところは2点ある。1点目は…、2点目は…です。これは私が感じていることだけど、あいさつの数を増やしてくれると、私も嬉しいし、メンバーともいい関係が作れると思うよ。どう思う?」
     このとき、二人きりで正しい注意を与えてください。決してメンバーや他者のいる前で行なわないようにしましょう。そして、賞賛のみをするときは、その部下がいないところで、なるべく多くの人がいる前で賞賛しましょう。
「ほめる・しかる」指導ではなく「勇気づける・正しい注意を与える」指導を

 「ほめる・しかる」指導法は、上の立場から部下の適切な行動を評価し、失敗や不適切行動には、しかって自分がよいと信じる行動を強制する、アメとムチの「操作型リーダーシップ」です。
 「勇気づける・正しい注意を与える」指導法は、横の立場から部下の適切な行動・失敗・不適切な行動に対して、共感的な態度で「どうすればよくなるか」を一緒に考える「自発誘導型リーダーシップ」です。

怒りの根底にある感情

 とはいえ、「ほめる」と「勇気づける」は全く別物というわけではありません。上の図のように重なる部分もあります。この重なっている部分が「ヨイ出し」です。
 部下、部署さらには会社の発展を願うのなら、部下を「勇気づけ・正しい注意」を与えましょう。あなたから勇気づけの輪が波紋のように広がっていくことを祈念して、筆を置かせていただきます。3ケ月の連載にお付き合いください、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。



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コラム担当講師
宮本 秀明  (みやもと ひであき)
有限会社ヒューマン・ギルド 取締役法人事業部長
研修講師。民間企業、官公庁、学校など幅広い分野において、アドラー心理学をベースとした様々なビジネススキル、コミュニケーション研修を担当。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。

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