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出来る上司は何をやっても許される!?      ハイパフォーマー上司 のパワハラ

2020年6月1日、パワハラ法制化が始まりました。労働施策総合推進法第30条の2(2019年5月改正)において、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とあります。

ハラスメント防止の主体は「事業主」である

      事業主とは代表取締役はじめ経営者クラス、拡大解釈すれば、経営者の代理人としてのマネジメントのメンバーも含まれます。職場でパワハラが起きないような予防法、対処法を講じると同時に、一番大事なポイントは「事業主」自身が絶対にパワハラをしてはならないと労働施策総合推進法第30条の3に明記されています。

今、24時間本当に働き、結果を出して今のポジションがある「事業主」が勘違いをお越し「オレは大丈夫」「これくらいいいだろう」と問題となる「事業主」が引き起こすパワハラ状況が組織を悩ませています。今回は、結果を出してきた上司のハラスメント問題についてご紹介したいと思います。

もう、部長のパワハラに誰も手を付けられない

とある会社のA部長の話である。非常に成績優秀で、入社30年営業一筋、彼の部門の功績で今の会社の売上を支えている。輝かしい実績と裏腹に、自分と同じ能力をマネージャークラスに要求し、部下本人の実績からは信じられないくらい高い目標設定を毎年課し、部下には無理とは絶対言わせないことで有名である。

 当然のことながら、どんなに優秀な部下でも途中からついていくことができずに、脱落し退職したり、メンタルヘルスで休職する部下も実際にいる。 A部長の口癖は、「オレはハラスメントなんかしない。絶対に大丈夫、自信がある。」「部下の為に、おれは指導しているんだ。今の若い奴らは、パッションが足りない。メンタルヘルス?意味がわからない。いつか俺の苦労や気持ちが分かる日がくるはず。(絶対にこない)なんでこんなにデキの悪い若手ばかり人事はよこすんだ。なんど同じことばかりいっても実らない連中ばかりで困ったよ」           (あなたが耕したり、水をやらないから実らないのでしょうと言いたい)

ここまでは、「昭和の典型的なマネジメントあるある」で、あまり珍しくないのかもしれませんが、問題は、この部長の上司である取締役や、執行役員が彼の言動一切をかばうという状況が問題なのです。ある意味、功労者であるA部長が、今の時代パワハラ行為と言われても仕方がないことは分かっているが、もし今、彼を突然会社を辞めさせたりすれば、ウチの会社の売り上げが急激に傾くことの方が経営状況として危ない事実を知っているからなのです。絶対に社長の耳には今の職場の状況が伝わらないように、課長クラスからの要望などは受け流そうとしているのです。

疲弊している課長クラスもA部長本人に対して「パワハラしてますよ」とは言えないし、内部通報したものなら報復人事が待っているだろうし、時間が経過するのを待つしかないと内心おびえながら、大人しくしているのです。 恐らく課長一人、二人が勇気を振り絞って取締役に直訴しても答えは明白です。恩義のある上司を裏切ることになる、内部通報制度はチクることになるといった認識があり、負の集団浅慮のメカニズムが作用しているのです。 このような職場が形を変えて日本にはびこっているという事実を、あえて「事業主」の皆さんと共有したいと思います。

社長のパワハラに手をつけられないのか?

よく「当社ではハラスメント研修は、実は実施出来ません」というご相談を頂きます。 理由をお聞きしますと、

B担当者「実は、社長はいつもセクハラで色々とありまして、あの、その、この、、、」

C取締役「私ね、あと三か月で退任でね。私がいる間は面倒だから、やらないよ」

こんな答えが返ってきます。

とある中小企業では、LINEが大好きな社長が、部長へ時間外の私用スマホへのLINEが休むことなく届くのです。業務のことはさておき、社員の悪口やバカにしたような内容といった程度の低い内容ばかり。 極め付けは、元旦に社長からラインが届いたことでした。 「明けましておめでとう。さて、先日の予算の件だが、どうなった?」 元旦くらい休ませて欲しいと部長。 これが日本の会社の実態です。

社内の誰もモノが言えないわけですから、労働局など外部に相談、通報する以外方法がないのですが、実際には雇用されている間は、行動に移さない人が多いのも事実です。従業員が個人で少額で加入できるハラスメント保険が今の時代に流行る理由も納得出来ます。

繰り返しになりますが、このような職場が形を変えて氷山の一角であるという事実を、あえて「事業主」の皆さんと共有したいと思います。

部下側のロジックとしては、今、騒動を起こして自分がクビになれば次の勤め先がないし、周りも大人しくしているし、自分だけが我慢すればいいんだと、自分に納得させようしている人もいるようです。徐々にメンタルが蝕まれていく状況に心から胸が痛みます。

これまでの事例からもおわかりのように、どの事業主も自分勝手であり、相手のことはお構いなしです。自分の言動に罪の意識はありませんから、自分の言動が相手を傷つけるとは思いませんし、想像力も欠如しています。そんな会社に限って、「顧客主義、従業員同士の感謝、奉仕の精神」など真逆な言葉が額縁に飾られ、朝の理念の唱和だけが虚しく繰り返され、何ら理念が体現されていないのです。

なぜ、職場の「あの上司」はハラスメントをするのか?

なぜ、あの上司はパワハラをやめないのか? 自分の行為に気付かないのか?基本的に自分がパワハラをしているつもりなどない人が多いことはこれまでの事例からお分かりの通りです。 以前、ブログで職場で「パワハラ」と言われやすいリスクを潜在的に持っている人、または、周りから「パワハラ上司」とみられている人のタイプを5類型に整理してご紹介しました。 今回の「事業主」のハラスメント行為者にも当てはまる点があると思い、再掲したいと思います。 ご参考になれば幸いです。

パワハラをする人の5つのタイプ

他責型

• いつも人のせいにする人

• 犯人探しの職場、人の失敗をあげつらうのが大好きな人

• 部下を悪者にし、手柄を横取りしても自分の昇格のためには犠牲を厭わない人

自己中心型

• 自分だけよければいい人

• 自我の強い人

• 昔も今もいじめっ子

• 相手を傷つける言葉、噂をするのが大好きな人、相手がどう思うかはお構いなし

• 部下に皆責任を転嫁する(自己保身)

• 精神年齢の幼稚型(見た目は60歳、精神年齢は3歳児程度)

• 相手をいじめることで、実は自分を認めて欲しいという自己承認欲求が強い心理状況 (愛情不足とも言う)

ストレス発散型

• 仕事や将来に対する不安を部下や後輩に当ることで解消しイライラしている人

• 日頃のプチストレス発散として部下へパワハラする人(人の心を傷つけても気づかないほど、心の幼い人)

• 噂を広めて、相手が困っている姿を観てあざけ笑う人

ポジション型

• 「俺の言うことだけ聞いていればいいんだよ、余計なことするな」

• 認めてくれる自分の上司の前だけでは、おべっかを使い、上司のいないところでは 周囲のメンバーに対する性格がきつく豹変する人

• 人を見下すことに、優越感を感じるのが大好きな人 • 部下の前でやたら、威張り散らす人

性差別型

• 「女のくせに、俺より昇格するのは許せない」

• 「「男のくせに、そんな力仕事もできないの!ダメね」

類型化して感じることは、これらのタイプの根底には、一様に心の幼さや性格的な歪み、エゴがあるように感じます。年齢も、職位も、経験も一切関係がありません。「個」の問題です。 あなたの上司も、自分の正当性を主張し、自分はよい子でいたいのです。だから、自分に対する他人の評価が自分の考えと違うと、とても耐えられません。

さて皆さんの上司はいかがでしょうか?、上の表に1つでも当てはまる項目のある方がいたら要注意です。

「どんなに高業績者であってもハラスメント行為をする社員は絶対に許さない」とトップメッセージを繰り返し発信する経営者もいます。            反対に、「別に今回のパワハラ法制化、罰則規定ないんでしょ」といって後回しにする事業主がいる会社もあり、本当に様々です。

有事の今だからこそ、皆さんがお勤めの会社の事業主一人ひとりのパワハラ問題に対する向き合う姿勢が、本気で問われているのです。

パワハラ法制化後、皆さんの経営者はどこまで本気でパワハラ問題に向き合うのでしょうか?

ハラスメント研修企画会議 主宰 藤山晴久

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。立教大学経済学部卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を実施してきた。