「褒める」ことを条例にした町に学ぶハラスメントをなくすヒント

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相手のよいところを褒める習慣を街ぐるみではじめる

『兵庫県多可町議会は、2018年12月26日町民らが家族や友人、職場の同僚らのよいところを見つけ、言葉で伝え合うことで地域活性化を目指す「一日ひと褒め条例」を12月定例会で議員提案し、全会一致で可決。2019年1月1日より施行している。住民や事業所、町の理念条例。町議会は「疲弊した感情が充満する世の中で人間の原点に立ち返り、心豊かでにぎわいのある町にしたい」とのこと。

この多可町役場、条文では「1日に1度は人をほめる、または感謝の気持ちを伝える」「人の良い言動や成果を見つけ出し、積極的にコミュニケーションを図り、風通しの良い職場をつくる」とある。同商工会の若手議員らと町議会が今年2月に意見交換した際、ネット上で匿名のまま人を批判する風潮を問題視する中で「町を元気にする条例をつくろう」との案が浮上。条例は、町、住民そして事業所の姿勢を示すもの』(2018年12月27日:神戸新聞NEXT引用)

「ハラスメント対策だと? 寝た子を起こすからウチの会社はまだ早いよ!」と言って逃げ回っている社長がまだまだいる日本の会社において、今年から施行されているこの条例の話題は素晴らしいですね。是非、この運動が成功して町が活性化していくことを心から期待したいと思います。褒める習慣が何十年もない人に突然、褒めることを強いても大変でしょうから、自分たちの風土や組織にあったやり方をじっくりと模索していかれたらよいなと思い、応援したい気持ちになりました。

会社の「あいさつ運動」は本当に効果があるのか?

このニュースを聞いたときに、ふと会社の「あいさつ運動」を思い出しました。朝、出勤しても、挨拶すら出来ない部署、部下を褒めたり、部下のいいところをみつけることが出来ない上司は世の中に沢山います。このようなコミュニケーションがギスギスしている職場の状況を憂いて、「そうだ!あいさつ運動だ!」と声高に挨拶運動をまるで何かのキャンペーンのようにやっている会社をよくみかけるのですが、問題はその中身。

あいさつも実は運動期間中だけ。おまけに、自分の嫌いな人には挨拶しないで、好きな人だけに挨拶する、という本末転倒なことが起きているのです。おまけに「あいさつは部下からするものだろ!」と自分から声かけをしない上司もいる始末。悲しいことにトップには、この現場の実態が情報として上がってきません。期間が終わると、見事にいつものギスギスした職場に戻ります。

これを『やってるフリのあいさつ運動』といいます。

脱!「やっているフリのあいさつ運動」

経験上、このやっているフリのあいさつ運動をしている会社は、水面下では意外とハラスメント問題を抱えていることが多いのです。人事もちゃんと知っていたりするのです。だから何をしたら職場が良くなるか分からないので「とりあず」あいさつ運動をはじめるのです。

あいさつ運動を否定するつもりはありません。 あいさつ運動をはじめるときに、気になるポイントがあります。

いい大人がいまさらですが、
①「なぜ、職場のあいさつを運動化するのか?」
②「何のために職場であいさつをするのか?」
③「そもそも職場であいさつをする目的って何ですか?」

こんなこと説明する必要ないだろうと説明もせずに、「元気にあいさつをしましょう。声をかけあう職場にしましょう」とスローガンとともに社内文書が流れ、おまけにバッチまで配り「あとは頑張ってね!」と経営陣は現場任せです。 一方で「そんなことないよ、ちゃんと声かけしてるよ」と反論の声も聞こえてきます。 その中身を聞いてみると、こんな上司もいました。

上司「最近、頑張っているね~!」
部下「はぁ。。」
上司「元気!?絶好調だね~!」
上司「いいね!!すごいよね~!さすが~!」
部下「何がすごいんだよ。また、はじまったよ、、、」

部下への声のかけ方がわからない上司たち

ベテラン上司から聞こえてくる会話です。

上司は「何に対して頑張っている」と考えて、部下を褒めているのでしょう? 部下のどのような点が「絶好調!」なんでしょう。 褒める理由をよく考えて声をかけない上司は、必ず、部下から見透かされます。 部下は、想像以上に上司の言動をよーく見ているものです。 まずは、あいさつ運動をはじめるまえに、ちゃんと3つのポイントを説明した方が効果が上がると思います。

特に上司には、何気ない「あいさつ」には、部下を観察する習慣をもたせる狙いがあること、部下育成のためには普段の部下の様子や、部下のよいところに着目して部下に仕事を任せる時の情報として普段からストックしておくこと、部下からも話しかけてやすいような空気をつくることが大切です。

報連相なんて簡単にいいますが、部下は、嫌いな上司には絶対に相談なんかしません。あいさつを通じて、部下のメンタルヘルスに注意を払ったり、ハラスメントが起こらないように、小さな意思疎通のズレが起きないように自分と相手の会話を通じて意識的に関係を整えていくことも大事です。 ハラスメント問題をおこさない職場づくりには、非常に大切な着眼点だと思います。

大事なメッセージは「考えるあいさつ」を習慣化しましょう、ということです。昔、私が通ったジムのトレーナーさんに「筋トレは筋肉のどこに効くのかを考えながらやることが大事」と言われたことを思い出し、あいさつ運動も一緒だなと思いました。そう考えると、「運動」とはまさにあいさつを通じて職場のコミュニケーションや組織風土を整えるトレーニングかもしれません。

もう一度、多可町の条分を繰り返します。

「1日に1度は人をほめる、または感謝の気持ちを伝える」「人の良い言動や成果を見つけ出し、積極的にコミュニケーションを図り、風通しの良い職場をつくる」

是非、みなさんの会社のあいさつ運動を、部下との関係性を整えるチャンスにしてはいかがでしょうか? こんな取るに足らない小さな取り組みがハラスメントをなくすことにつながっていくのですから。

藤山晴久

ハラスメント研修企画会議
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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。立教大学経済学部卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を実施してきた。