あなたの中に「ブラック上司」はいませんか?
 「なんでこんなこともできないんだ?」
 「またミスした…本当に使えないな」
 「もっと頑張らないと。こんなんじゃ甘えてる」
 誰かに責められているわけではない。なのに、脳内で繰り返されるこの暴言。
 まるでブラック上司のように、自分自身を追い詰めてしまう。
 そんな「自分責めの習慣」に、心当たりはないでしょうか。
 私はこれを、「自己パワハラ」と呼んでいます。
 自己パワハラが生み出す「負のスパイラル」
 自分を責め続けると、やがてこう思い始めます。
 「自分は嫌われる存在だ」
 「好きになってもらえるはずがない」
 「自分には価値がない」
 この思考パターンは、職場での振る舞いにも影響します。過度に遠慮する、意見を言えない、評価を素直に受け取れない。結果として、本来のパフォーマンスが発揮できなくなるのです。
 冷静に考えてほしい、この事実
 少し過激な言い方をします。
あなたが亡くなって一年も経てば、ほとんどの人間関係は忘れ去られるでしょう。職場での評価も、あの日のミスも、すべて記憶から消えていきます。
 そして、あなたの頭の中で繰り返されている自己批判の声も、あなたが死を迎えた瞬間、削除されたデータのように完全に消去されます。
 だからこそ、今考えるべきは「自分にパワハラする思考を、どう手放すか」ではないでしょうか。限られた人生を、自分を責めることに使うわけにはいきません。
 自己パワハラの「損益計算書」
 冷静に分析してみましょう。
自分にパワハラしても
 •    給料は上がらない
 •    評価が良くなるわけでもない
 •    スキルが向上するわけでもない
 •    むしろ、メンタルが削られパフォーマンスは下がる
 さらに言えば、自分を責めている人は、他人からも避けられやすくなります。
 なぜなら、自己否定の強い人は、無意識に周囲にもネガティブな空気を広げてしまうからです。「この人といると疲れる」と思われてしまうのです。
 結論はシンプルです。自己パワハラは、百害あって一利なし。
 Well-beingを削る「内なる攻撃」
 「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉をご存知でしょうか。
 これは単なる健康ではなく、身体的・精神的・社会的に満たされている状態を指します。今、多くの企業や経営者が注目している概念です。
 しかし、いくら会社が働き方改革を進めても、あなた自身が「責めグセ」から抜け出せなければ、真のWell-beingは手に入りません。
 自己パワハラの強い人には、こんな特徴が見られます:
 •    成果を出しても、満足できない
 •    人の目や評価に敏感すぎて疲弊する
 •    小さな失敗に過剰に落ち込む
 •    褒められても、素直に受け取れない
 これらはすべて、内側からWell-beingを削る「見えない攻撃」の影響です。
 
では、どうすれば自己パワハラをやめられるのか?
 答えはシンプルです。「自分に優しくする」「自分を責めない」こと。
 しかし、ここで多くの人が直面する壁があります。
 自分を変えようとすると、周囲が邪魔をしてくるのです。
 「そんな甘いこと言ってるから成長しないんだ」
 「自分に優しくする?それって逃げじゃないのか」
 特に日本の職場では、まだまだ「厳しさこそ美徳」という価値観が根強く残っています。
 だからこそ、自分を変える前に、周囲からの「反論」をかわす技術を身につける必要があるのです。
 反論に巻き込まれないための「3つの視点」
 視点1:「正しさ」で戦わない
 よくある反応:
 「それは時代遅れですよ」
 「今は自己肯定が当たり前の時代です」
 推奨する返し方:
 「そういう考え方もありますよね」
 「最近は違うアプローチで成果を出す人も増えてきていますね」
 “自分が正しい”を主張するのではなく、”多様な価値観がある”と示す。これが対話を続けるコツです。
 視点2:相手の不安を理解する
 「厳しく育てられてきた」「苦労して乗り越えてきた」
 そんな背景を持つ相手にとって、「優しくする・甘やかす」という考えは、自分の努力を否定されているように感じられるのです。
 推奨する返し方:
 「○○さんのように、厳しい環境を乗り越えてこられた経験には説得力があります」
 「だからこそ、私は今、自分なりのやり方を試してみたいと思っています」
 一度、相手の過去を認める。すると、こちらの意見も通りやすくなります。
 視点3:距離を保つことも「戦略」
 すべての人と分かり合う必要はありません。
 価値観がどうしても合わない相手には、戦わず・屈せず・巻き込まれずのスタンスで、心理的距離を保つことが重要です。
 推奨する返し方:
 「ありがとうございます、参考にします」
 「私は少し違うやり方を試してみたいと思っています」
 これは「受け入れるふり」ではなく、自分のWell-beingを守る知恵です。
 ケース別・実践的な対話例
 ケース1:「そんな甘い考えじゃ通用しない」と言われたら
 「たしかに、甘えと紙一重になることもあるかもしれません。ただ、感情を整えることで集中力や成果が上がった実感があるんです」
 ケース2:「俺の若い頃はもっと厳しかった」と言われたら
 「そういう環境で成果を出してこられたんですね。今はまた違うやり方で力を引き出す方法もあって、私も模索しているところです」
 ケース3:否定ばかりしてくる先輩に巻き込まれたくないとき
 「ありがとうございます。少し整理して考えてみたいので、また改めてご相談させてください」
 言い返さずに使える「かわし言葉」集
【否定されたとき】
 →「そういう考えもありますよね」
 
【強く指摘されたとき】
 →「なるほど、少し違う視点かもしれません」
 【自分の立場を守りたいとき】
 →「私も今、自分なりのやり方を試しています」
 【会話を終わらせたいとき】
 →「ありがとうございます、考えてみますね」
 ぶつからなくていい、ずらせばいい
 「自分を責めないで生きるなんて、甘えじゃないか」
 「周囲が厳しいのに、自分だけ楽になっていいのか」
 そんなふうに感じることもあるかもしれません。
 
でも、今はこう考えています。
 ぶつからずに”ずらす”という選択こそ、自分を守る知性。
 自分のWell-beingを整えることは、結果的に他人へのやさしさにもつながります。メンタルが安定している人の方が、良いパフォーマンスを発揮でき、チームにも貢献できるのですから。
 「甘やかし」ではなく「回復力」
 「自分を甘やかしていいのか」
 「こんな自分を肯定してもいいのか」
 そう迷う気持ちもあるでしょう。
 しかし、自分に優しくするということは、「回復力(レジリエンス)」を育てることに他なりません。
 厳しさ一辺倒で乗り越える時代は、終わりを迎えています。
 どうか今日、自分にこう声をかけてみてください。
 「よくやってる」
 「今の自分も、悪くない」
 「今日は、もう十分」
 あなたへの問いかけ
 今日一日を振り返って、自分にかけた言葉を思い出してみてください。
 それは、信頼する部下や同僚にもかけるような言葉でしたか?
 もしそれが厳しすぎるものだったなら、明日は少しだけ優しい言葉に変えてみませんか。
 「頑張ってるよ」でも、「お疲れさま」でも、「今日もよくやった」でも構いません。
 どうか、あなた自身があなたのいちばんの味方でありますように。
#自分で自分にパワハラする人たち