ネットニュースで話題となっているマルハラ「。」
「マルハラ」とは、LINEなどのアプリを使ったビジネスコミュニケーションの際に、上司などからの返答が「。」で終わっていると、「不安」「怖い」いう若手の意見が増えているという状況のことです。
私も研修の現場で、受講生から同様の質問も受けたことがあるのですが、
実例を交えながら、この問題について考えていきたいと思います。
この話を一旦、整理する必要がありますね。句読点の問題を不安に感じる人がいることと、不安に感じた人が、その気持ちを「ハラスメント」という言葉で相手に伝えることを、分けて考えたいと思います。
目次
文章の句読点を不安に感じる人がいる
そもそも、若手が句読点の打たれた文章を読んで「怖い」「圧力」と感じるのは、読み手の主観です。圧力と思うことは自由ですが、その感覚自体はハラスメントではありません。ちょっと眉唾でしたので、実際に複数の高校生、中学生にも直接聞いてみたのです。実際には、「怖い」とは思わない人も多数います。「人によるのでは?」とのこと。生の彼らの声をきくと、どうしてもメディアの情報だけを鵜呑みにすることの怖さを感じてしまいます。
私たちは、国語の時間に句読点を習い、手紙や、メールも、ガラケー時代のショートメールも、何の疑問をもたずに句読点を打って文を書いてきました。むしろ、正しい句読点をつけないと気持ち悪い気分の人や、学校のテストだったら点数をひかれる、或は、上司にその報告書を指摘されることもあります。
「怖い」と感じる人の言い分としては、短いことばでキャッチボールするLINEのやりとりの中に、句読点は用いることはなく、反対に句読点が多用されると「怖い」と感じるのがその根拠のようです。
つまり、句読点を用いないLINEでのコミュニケーションが前提なのです。
LINEと手紙、どの媒体に軸足を置くかによって考え方も全く異なるでしょう。単に世代によって異なる価値観の違いにすぎません。
LINEの使いかたの本は読んだことはありますが、LINEでの文章の打ち方や文章構文の本は見たことがありません。
上司も悪気はない
LINEを使っているベテラン組が、長すぎるその文章に、子供や若手から「その文章はLINEではなくメールですと」突っ込まれたという話はよく聞きました。チャットもいまほど普及していない時代は、「文章とは、丁寧にかかないと失礼にあたる」と思ったベテランもいたでしょう。チャットというツールを知らない人からすれば、単純にメールの書き方をそのままLINEという媒体で使っているだけのことで悪気はありません。短い言葉だとかえって失礼にあたらないかと思う人もいたものです。
最近では、リモート会議でTeamsなどチャットを使う機会がこの数年で劇的に増えたので、感覚的にはその違いが理解できるベテランも増えたのではないでしょうか。
上司のメールが怖い
研修の現場でお客様から同様の悩みをもちかけられたことがありました。その課長は、部下の新人社員から「自分が指示したメールが怖い」とういことで相談をもちかけられたとのこと。具体的に指示したメールの内容で「怖い」と指摘された文章を私も拝見したのが次の一文。
「この資料を3日後までに作ってください。お願いします。」
この文章のどこにハラスメントの要素があるのでしょうか?
本当に句読点をつけるとパワハラか?
怖いと相手が感じることは自由ですが、怖いと感じたその気持ちを「ハラスメント」という言葉を使って表現しては、誤解を生みます。言われた上司も驚きますし、反対に職場の人間関係がギスギスします。これでは、上司も何も言えなくなってしまいますね。
句読点をつけた文章を相手に送ることがハラスメントになるならば、日本中の文章はすべてハラスメントになりませんか? この記事もハラスメントですね。句読点を外せば、ハラスメントにならないのでしょうか?もっと読みにくくなります。まずは、これは定義にもとづく「ハラスメント」ではないことをはっきりと申し上げます。
さらに、その上司は実際に、部下にどうすれば怖くない?と聞いたそうです。
部下の驚愕の答えとは・・・
「この資料を3日後までに作ってください!お願いしますm(__)m」
これなら怖くないとのこと。
なんと、笑顔マークや!があれば、安心して仕事ができるとのこと。
この会社は、スラックといったチャットツールは使用せず、メール一本の会社。一方でこの会社はリモート会議中、チャットでは、他の上司や先輩も、絵文字も飛び交っているとのこと。しかし、この課長は、チャットの絵文字は「遊び」であり、仕事で使うものではない、という価値観を信じて疑わず、抵抗感があるため、チャットでも絵文字などは使えないとの一転張り。最後まで並行線でした。
私も20代のお客様から実際に、「よろしくお願いいたします!m(__)m」と普通にメールも届きますが、特に不快になったことはありません。30年前ならいざ知らず、時代が変わったなぁとほほえましく感じています。
会社のビジネスマナーもそろそろ転換期がきているのかもしれません。そうはいっても、そんな優しいムードに流されてばかりもいられないのです。色々な場面に応じた、様々な形式の書類がありますから、句読点にいちいち振り回されているわけにはいかないのです。
違いは「間違い」ではない
提案があります。
上司もいちいち目くじらを立てずに、これまでのオフィシャルなビジネス文章は別としても、普段の何気ない会話といった場面でのLINEやチャットを使うときは、「吹き出し自体が、一つの区切り」と考えてみてはいかがでしょうか?
そうすれば、「吹き出し=句読点」と考えれば、句読点はいらないものと捉えられませんか?「そういものだ」と割り切れる!?かもしれません。
今回のSNSを代表とするような句読点の問題、明らかにハラスメントとは言えないような世代により異なる価値観の違いの問題。この「違い」は決して「違い」であって「間違い」ではない、とういこと。
LINEやチャットで完結するビジネスであれば問題ないでしょうが、取引先や社外の方へのメール、相手の会社の社風、TPOに応じた対応といった厳然とした事実を歪める必要はありませんので、(慶弔に関する文章など)その点はもう一度、丁寧に説明しましょう。そして、これは定義に基づく「ハラスメント」ではないことも丁寧に伝えてください。
「いいから黙ってマルつけろよ!」
最悪のパターンは、上司が「つべこべいわず、いいからマルつけろ!」と怒ってしまうことですね。それこそパワハラになりかねません。まずは、怖いと感じる相手の気持ちを受け止めてください。今回のマルハラに関連する記事を読むたびに、個人的に気になることは、どうも、職場内の普段からのコミュニケーション不足が垣間見えるのです。
人間関係に終止符を打たないために
マルハラは、定義に基づくハラスメントではありませんので、「ハラスメント」という言葉を使わないで、その不快な自分の想いを伝える努力をしてみましょう。こんな些細なことでも話し合える関係をつくって欲しいものです。
そして、ハラスメントを「ウザい」「やばい」「キモイ」と同じくらいライトな感覚のまま、職場で使うことは控えましょう。
「句読点」が引き金となり人間関係に「終止符」を打たないようにすることを心がける、そんな余裕が私たちに必要かもしれないですね。
しかし、この〇〇ハラ。いい加減やめて欲しいと思うのは私だけでしょうか?
藤山晴久(ふじやま はるひさ)
ハラスメント研修企画会議 主宰
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役、産業カウンセラー。立教大学経済学部卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。
現在、ハラスメント・コンプライアンス研修講師として登壇。