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上司は知らない。部下が本当に思っていること。精神科医の本から見えた、いまのマネジメントの盲点

先日、精神科医のさわさんが書かれた『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)という本を読みました。

さわさんのクリニックには、学校に行けなくなった子どもを持つ親や、リストカットを繰り返す若い人など、さまざまな悩みを抱えた方が相談に訪れます。

著者ご自身も、母親との関係に悩み、離婚後はシングルマザーとして二人のお子さんを育ててこられました。長女の不登校に悩んだ時期もあったといいます。

この本を読んで、私は「これは親子関係の話であると同時に、職場の上司と部下の関係そのものだ」と感じたのです。

「失敗させない」ことが、必ずしも正解ではない

親は、「子どもに失敗させたくない」と思うあまり、交友関係に口を出したり、先回りしてレールを敷いたりしてしまいがちです。

しかし、親の役目は、子どもを失敗から遠ざけることではなく、「失敗をどう乗り越えるか」を支えることです。
これは、職場でもまったく同じです。部下が失敗しないように、細かく指示を出し、先回りして手を出す。私が部下に目をかけなければ、と。背景にはメサイアコンプレックス、つまり「自分が救わなければ」という過剰な使命感もあるのかもしれません。

そもそも、失敗とは何でしょうか。期待していた通りの結果が出なかったら、それは本当に「失敗」なのでしょうか。
受験に落ちたとき、親が「失敗だった」と決めつければ失敗になります。しかし、「ここまで努力した経験は必ず次に生きる」と捉えれば、それは単なる通過点です。

仕事でも同じです。
部下がミスをしたとき、

上司が
「いい経験をしたね」
「よくチャレンジした」

そう受け止められれば、それは失敗ではなく、成長の材料になります。

自分の価値観を、無自覚に押しつけていないか

さわさんは、娘さんが小さい頃、公文、ピアノ、バレエと、習い事でスケジュールを埋め尽くしていたそうです。それは、ご自身が子どもの頃に親にしてもらってきたことでした。親は、自分が育てられた価値観を、無意識のうちに子どもに重ねてしまいます。

上司も同じです。自分が受け継いできた価値観を「当たり前」と思い、部下にもそれを求めてしまう。その価値観が、今の時代や、その部下に本当に合っているかどうかを考えていなければ、それはただの押しつけになってしまいます。

「こうあるべきだ」と思ったときこそ、その価値観はどこから来たのか。今、目の前にいる相手に本当に必要なものは何か。一度、立ち止まって考えてみる必要があるのではないでしょうか。

「期待」は、ときに呪縛になる

さわさんは、子どもの頃、母親から

「あなたはもっとできるはず」

「もっとがんばりなさい」

と言われていたそうです。そのたびに、「がんばれない自分はダメなんだ」と自分を責めるようになりました。

母親は、「医師になりたかった」という自分の果たせなかった夢を、子どもに託していたのです。親の期待は、善意であっても、子どもにとっては重い呪縛になります。

上司と部下の関係も同じです。上司の理想を部下に背負わせるのではなく、本人がどうしたいのか、どうなりたいのか。そこに耳を傾けることが、今のマネジメントには求められています。

「期待」ではなく、「応援」を伝える

だからといって、「期待していない」と言えばいいわけではありません。大切なのは、「期待」ではなく「応援」です。

さわさんがアメリカに住んでいた頃、

“I’m proud of you.”

という言葉をよく耳にしたそうです。結果ではなく、努力や存在そのものを認める言葉。日本語にすると少し照れくさいですが、上司が部下に”I’m proud of you.”と自然に伝えられるといいのではないでしょうか。さんざん、あなたの職場でも、「相手を尊重しましょう」、「人権を大切に」と言われているわけですから。

上司は、自分の「夢」を語れているか

本書にも書かれていますが、人生に正解はありません。自分で選んだ道を、自分で正解にしていくしかないのです。

だからこそ、部下が上司に求めているのは、「こうあるべき」「こうあってほしい」という期待や押しつけではありません。「この人は、どんな思いで、この会社で働いているのか」それを知りたいのです。

研修で「あなたの夢は何ですか?」と聞くと、答えに詰まる管理職が少なくありません。

「頑張って部長になれればいいかな」

「部下と会社の成長が夢」

与えられた仕事を全うすることに慣れてしまい、会社での役割と本来の自分との区別がつかない人や、主語が自分ではなく、会社(他人)なのです。

「休みがホントに欲しいこと・・・・」

「NISAをやってみたい・・・・」

「しばらく、墓参り行けてないので・・・」

これは「夢」ではなく、「TO DOリスト」か、「日常の願望リスト」…
叶えたい夢を、語れない人が多い会社が実在するのです。

部下が、上司の何を知りたがっているか、ご存じでしょうか?
この上司は、この会社で何を(夢)叶えたいと思っているのか?

部下は知りたがっているんです。

「話しかけづらい上司。仕事で何が嬉しいのか?」

「残業ばかり。仕事のためだけに生きている!?」

夢を語れない上司がいる会社から、部下は去っていく
夢を語れない上司がいる会社から、部下は静かに去っていきます。
数字に追われるばかりのマネジメントがなされていては、現場の社員が憂鬱な顔になっても当然。

そんな上司のそんな姿を見ると、部下もあなたの子どもも、夢をなくしてしまう。
働くこと自体の魅力が薄れて、食べていければそれでいい、という価値観がまかり通ってしまう。
そんな会社の不都合に苛立ちを感じ、つまらないと感じる人は、退職していくか、海外に出ていってしまうかもしれません。

大きな声では言えませんが、離職のきっかけは、上司だったのです。

20代の社員は、上司の姿に10年後、20年後の自分を重ねています。だからこそ、上司は自分の言葉で、自分の夢や価値観を語ってほしいと私は思っています。

今、部下が上司に本当に思っていることです。

是非、本書を手に取ってください。

参考文献:『子どもが本当に思っていること』(精神科医さわ著、日本実業出版社)

「断れないと悩む社員に教えたい 京都流「NO」の伝え方

「NO」が言えない本当の理由

職場で、冗談のつもりで言われた一言にモヤッとする。
「これもお願い」「あれもついでに」と雑用を押しつけられる。
そんな経験、ありますよね。

でも、相手に対してはっきり「それは嫌です」「やめてください」と言うのは、簡単 ではありません。人間関係がこじれるかもしれない。職場の空気が悪くなるかもしれない。
そう考えて我慢してしまうのは、あなたが弱いからではないのです。

「NO」を受け入れられない人たちの存在

研修の現場で、私がいつも感じている課題があります。
多くの企業でアサーティブコミュニケーション、つまり「自分の意思をはっきり伝えましょう」という教育が行われています。確かに大切なことです。しかし、それだけでは不十分なケースがあるのです。

なぜなら、相手の「NO」を理解できない人が、一定数存在するからです。
実際に研修後、こんな声を聞くことがあります。

「やめてくださいと言ったら、『俺の言うことが聞けないのか』と言われた」
「『生意気だよ』『もう二度とお前に仕事ふらない』と捨てセリフを吐かれた」

相手が境界線を示しても、それを受け入れられない。
「やめて欲しい」という気持ちよりも、「俺の気持ち」を優先する。
相手が「NO」と伝えているのに、それを無視して、自分の思い通りにしようと押し切ってくる。

こうした言動こそが、職場にハラスメントを浸透させているのです。
もしかすると私たちは、伝え方を学ぶ前に、まず「相手は自分の所有物ではない」という当たり前の境界線を、痛みを伴ってでも再認識するプロセスが必要なのかもしれません。

いきなり「NO」と言うのは、ハードルが高い

  研修をしていると、「断り方がわからない」「角が立たない伝え方を知りたい」という相談をよくいただきます。アサーティブコミュニケーションを学んでも、いきなり正面から「NO」と伝えるのは、やはりハードルが高いという声も多いのです。
そんな方に向けて、今回ご紹介したい一冊があります。『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子著、日経BP)という本です。

  この本では、京都の人ならではの「NOの伝え方」が紹介されています。京都の人は、真正面から「NO」と言いません。たとえ相手にはっきり伝わらなくても、わかる人にはわかる言い方で、距離を取るのだそうです。これは、長く日本の都として敵も味方も受け入れてきた土地だからこそ育まれた知恵なのでしょう。
京都流のコミュニケーションは、職場でも十分に参考になります。
 ただし、そのまま使うというよりも、是非あなたなりに味付けをして、より伝えやすい言葉に変えてみてください。

京都人の「NO」の伝え方 7つのケースから

本書に掲載されている事例から、京都人の「NO」の伝え方を紹介しましょう。

ケース1:それほど親しくない相手から無理な依頼をされたとき。

京都流の返しは、 「いえ、うれしいですけど、ちょっと。もっと合っている方を探しましょうか」
正面から断らなくても、「私は引き受けるつもりはありませんよ」というメッセージが伝わります。

ケース2:パシリのような扱いをされたとき。

「かえって遅なりますえ」 「今からでしたら、明日になりますえ」
急に、無理な仕事を振られそうな場面で、これは使えそうですね。

ケース3:教える義理のない情報を求められたとき。

「それは教えられません!」と突っぱねるのではなく、 「そんなややこしいこと、よう知りませんわ」 「聞いたこと、あらしまへんなあ」
と、あえてとぼける。これも、角を立てずに距離を取る技です。

ケース4:忙しいのに、訪問客がなかなか帰ってくれないとき。

「長いこと付き合わせてすみません。お忙しいのにありがとう」
こう言われると、相手も自然と腰を上げます。ちなみに、京都人は客に帰ってほしいときはぶぶづけ(お茶漬け)を出す、という話を聞きますが、実際にはそんなことはしないそうです。

ケース5:侮辱されたり、ハラスメントを受けたときの秀逸な返し方

私が「なるほど!」と思ったのが、 「私にはいいですけど、ほかの人に同じこと言ったら事件ですよ」
という返し方です。

「私はいいですけど」と一歩引いた姿勢を見せつつ、「事件ですよ」と、冗談では済まされないことを容赦なく伝えています。こう言われたら、「それ、ハラスメントですよ」と指摘されるより、相手に強烈な違和感を残すのではないでしょうか。
ハラスメントをする人ほど、自分の発言を自覚していないものです。答えたくない失礼な質問をされたときは、 「今、~(相手の発言)とおっしゃいました?」
と聞き返すのも有効だそうです。

ケース6:「奥さんとうまくいっていないんだよね」などと言われたとき。

「言いにくおしたら、私から奥さまに言うたげまひょか?」
口調は柔らかいですが、「あなたがつけ入る隙はないですよ」と一線を引いています。
縁を切りたいと思っても、職場の人間関係は、簡単に切れるものではありません。特に相手が上司や取引先であればなおさらです。だからこそ、「優しいけれど隙を見せない」対応が必要になります。

ケース7:名前を間違えられたとき。

「〇〇さん(間違えられた名前)は、今、外出していると思いますよ」
これもいいですね。相手の間違いを指摘しつつ、場の空気は壊しません。小さな笑いを起こす効果もあります。私も藤田さん、藤本さん、とさんざん間違えられてきましたので、最近は何とも思いませんが(笑)

京都人の基本にある三つの型

本書では、京都人のコミュニケーションの基本として、 「挨拶」「クギを刺す」「断る」という3つのパターンが紹介されています。

たとえば挨拶の 「どこお行きやすの?」
これは行き先を聞いているわけではありません。「私は敵ではありませんよ」というサインを送っているのです。こう聞かれたら、正直に行き先を答える必要はありません。「ちょっとそこまで」と返せばOKです。

次に、クギの刺し方。浅知恵を披露する人に 「よう知ったはりますなあ」 「よう勉強したはりますなあ」 と言うのは、一見ほめているようですが、そうではありません。クギを刺されたことに相手が気づかないケースもありそうですが、「気づかなければ、それはそれでいい」というのが京都の人のスタンスのようです。

断るときによく使われるフレーズが、 「考えておきます」
基本的に、京都では「考えときます」は「NO」の意思表示。たとえば習い事などをやめるときも、「やめます」とは言わず、「しばらくお休みします」と伝えます。

職場にも必要な「沓脱石(くつぬぎいし)」の距離感

京都人のプライベートゾーンについてのエピソードも印象的です。
京都の町屋には、玄関に沓脱石という踏み台のような石があります。近所の人が訪ねてきても、家には上がらず、ここに足を置いて玄関先に腰かけて話をします。靴を脱いで家に上がるときは、相応の手土産が必要。手土産を持っていないときは、「どうぞ」と言われても断るのがマナーです。

京都人の「他人との距離感」は、職場でも参考になるのではないでしょうか。同じ職場で働く人とは毎日顔を合わせる間柄ですが、だからといってプライベートに踏み込んでいいわけではありません。靴を脱いで家に上がりこむような距離感ではなく、沓脱石で話すくらいの関係性でつき合うのがちょうどいい。その感覚を持つことは、ハラスメントを防ぐことにもつながると私は思っています。

大人の対応は、必ず周囲が見ている

 「相手を傷つけずに、でもしっかり線は引く」というのは、なかなか高度な技ですが、職場で実践すれば、きっと一目置かれると思います。
職場では、当事者だけでなく、周りの人の目があります。京都流の伝え方では本人には伝わらなくても、周囲の人たちはそのやりとりをちゃんと見聞きしています。あえて衝突を避け、言いにくいことをやんわり伝える。こうした対応をしていれば、「あの人は大人だな」「一枚上手だな」と周囲に人から評価されるはずです。また、こういう返し方もあるんだと、周囲も学ぶはずです。

是非、本書を読んで、職場の中で活かしてみてください。

伝え方も大事。そして、人間関係に線を引く、境界線を引くことの重要性を、我慢をせずに、今こそ全員が認識し、守らなければならない。
本書を読んで、私は強くそう感じたのです。

参考文献:『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子著、日経BP)

藤山 晴久

ハラスメント研修企画会議 主宰

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。