「ちょっと注意しただけでパワハラ」は本当か?
「最近の若手は、少し厳しく言うとすぐ『パワハラですよ』と反論してくる」
こんな嘆きを、管理職の方々から頻繁に耳にします。一方で、若手社員は「上司の指導のしかたに問題がある」と感じている。この“感じ方の差”が、現場の摩擦を大きくしているのは間違いありません。このような溝は、なぜ生まれるのでしょうか。
文化庁が実施した、令和6年度「国語に関する世論調査」から、興味深い事実が浮かび上がってきました。若手が「パワハラ」という言葉を使う背景には、言葉に対する感覚そのものが世代によって大きく異なるという構造があったのです。
データが示す若手世代の言葉感覚
文化庁の調査では、「SNSの普及によって、社会で使われる文字や語句、また、社会における言葉の使い方に影響があると思いますか」という問いに、約9割の人が「影響があると思う」と答えています。
その中でも私が注目したのは、20代の人の言葉への意識です。
「誤解を招くような言葉がよく使われている」と答えた人は、全体で49.3%だったのに対して、20代では63.2%。また、「相手の立場を考えないやり取りがよく行われている」と答えた人は、全体で57.3%、20代では65.0%にのぼります。
「あなたがSNSを利用するとしたら、そこでのコミュニケーションの質を高めるために、あなたはどのような点に気を付けたいと思いますか」という問いへの回答にも、20代の意識の高さは表れています。
「誤解を招くような言葉を使わない」と答えた人が全体で67.3%だったのに対して、20代は74.4%。
「発信する前に十分に内容を吟味する」は、全体で62.9%、20代は67.1%。
「相手の立場に立ってやり取りする」は、全体で58.9%、20代は65.0%。
つまり、20代の若手世代は、言葉の「正確性」「吟味」「配慮」を極めて重視していることがわかります。
上司世代との決定的な認識ギャップ
さらに興味深いのは、世代によって「SNSの普及が、社会における言葉の使い方に及ぼす影響」の捉え方が異なることです。
例えば、60代、70代では76%以上の人が「短い言葉でのやり取りが増える」と回答していますが、若手世代は、既にSNSでの短文コミュニケーションに慣れています。20代以下の人の半数以上が「書くときも話し言葉のような言葉遣いが増える」と回答していることからもわかるように、カジュアルな言葉遣いは、既に標準になっています。
60代、70代の約50%は、「年齢や立場などを気にしない言葉遣いが増える」と回答していますが、20代はその半分の24.9%に過ぎません。上司世代には「礼儀がなっていない」と映る言葉遣いが、若手にとっては「フラット」で当たり前のコミュニケーションスタイルなのです。世代間に言葉に対する認識のギャップがあるのは、無理もないといえるでしょう。
「上司世代には若手の言葉遣いが礼儀を欠いているように見え、若手世代には上司の言葉が配慮に欠けているように見える――この認識のズレが、職場の誤解を生んでいます。」
「雑な指導」が許せない本当の理由
では、なぜ若手社員は、上司の指導を「パワハラ」と感じるのでしょうか。
今の20代の人たちは、学校教育やSNSの影響で『相手を尊重するコミュニケーション』を意識する機会が多い世代です。
この調査からもわかるように、SNSを利用する際は、「よく吟味して」、「誤解を招く言葉を避け」、「相手の立場を考える」ことを心がけています。
ところが、50代、60代の上司には「昔ながらの叱り方」をする人たちが少なくありません。若手社員にとって、上司の旧態依然の指導は次のように受け取れるのです。
説明不足で感情的な叱責 = 「十分に吟味されていない言葉」
一方的な決めつけ = 「誤解を招く言葉」
背景を聞かずに叱る = 「相手の立場を考えないやり取り」
これらはすべて、SNSで自分たちが「問題だ」と認識している言葉の使い方そのものです。
20代の会社員と話していると、彼らはよくこう言います。「上司から叱られたくないわけではありません」と。むしろ「成果のために必要な指摘は受けたい」。ただ、「叱られ慣れていないので、メンタル耐性が弱い」と自覚しつつ、「雑な指導」を受け入れることができないのです。
「パワハラですよ」は反発ではなく、訴え!?
上司の「昔ながらの叱り方」——大声で叱る、人前で叱るといった言動は、若手社員には、「攻撃的で配慮に欠ける、不適切なコミュニケーション」と映っているのではないでしょうか?
「パワハラですよ」という言葉は、単なる反発ではありません。「この指導は不適切です」という訴えなのです。
調査では、「SNSによるコミュニケーションの質を社会全体で高めていく上での課題」として、全体の62.7%が「人を傷つけたり挑発したりするような言葉がよく使われている」ことを挙げています。特に20代は74.4%、30代は73.0%にのぼります。ここから推測できることは、この世代の人たちは、SNSで自分たちが気をつけている言葉の配慮を、職場でも同じように求めていると私は思います。
若手社員は「叱られたくない」のではない
若手社員は「叱られたくない」のではなく、「雑に扱われたくない」のです。SNS時代を生きる若手世代にとって、「吟味」「配慮」「正確さ」は、言葉を使う上で当然の基準です。一方、上司世代では、「言いたいことを言う」「思ったことを伝える」ことが優先されてきました。
この基準の違いを理解せず、「最近の若者は打たれ弱い」「すぐパワハラと言う」と片付けてしまえば、溝は深まるばかりです。
指導者に求められる「アップデート」とは
では、「パワハラ」と訴えられないようにするには、どうすればいいのでしょうか。
答えは、「若手世代が自分たちに課している基準を、上司自身もクリアすること」です。
具体的には、次のことを実践します。
1.「発信する前に十分に吟味する」
叱る前にいったん立ち止まり、自分が感情的になっていないか確認します。AIに壁打ちしてから指導するのも有効です。
2.「誤解を招く言葉を使わない」
「ちゃんとやれ」「しっかりしろ」といった曖昧な表現を避け、具体的に何がどう問題なのかをわかりやすく伝えます。
3.「相手の立場に立ってやり取りする」
例えば部下がミスをしたときは、なぜそのミスが起きたのか、背景や事情を聞きます。「困る部下は、困っている部下」という視点を持ちましょう。
4.「存在を認めて、行動を正す」
「よく頑張っているね」と相手を認めた上で、「ここは変えていこう」と伝えます。人格ではなく行動にフォーカスし、次の具体行動を一緒に決める。
求められているのは、指導する側の「アップデート」です。言葉の基準が変わったことを認識し、若手世代が当たり前だと思っている配慮を、上司自身も実践する。それが、パワハラと言われない指導への第一歩なのです。
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この記事を書いた人
藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
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