「日本の職場文化」カテゴリーアーカイブ

「見て見ぬふりという名のもう一つのハラスメント ― 正しいと思いながら、黙り続けた人たち ―

先日、ある企業様とハラスメント研修の企画を進めていたときのことです。

担当者の方とは何度も打ち合わせを重ねました。
表面的な法令知識ではなく、

なぜハラスメントが起きるのか。
なぜ職場で誰も声を上げなくなるのか。
なぜ優秀な人ほど沈黙してしまうのか。

そんな組織の本質に踏み込んだ内容でした。

打ち合わせのたびに担当者は熱心に耳を傾け、

「これは必要ですね」
「今の組織に足りない視点だと思います」
と何度も話していました。

私も手応えを感じていました。

ところが実施直前になって突然連絡が入ります。

「申し訳ありません。内容を大きく変更していただけないでしょうか」

詳しい理由は聞きませんでした。
聞かなくても、おおよその見当はついたからです。
おそらく上層部から何らかの指摘が入ったのでしょう。

私は早速、依頼には応えます。

本質をえぐる内容を削り、
誰も不快にならず、
誰も反発せず、
誰も責任を感じなくて済む、
そんな無難な内容へと作り替えました。

研修そのものは無事に終わりました。

しかし、本当に印象に残ったのはその後です。

昼食の席で担当者がポツリとこう言いました。

「実は僕も、最初の案の方が良かったと思っているんですよ」

私はため息が出ました。
ああ、またこの光景か。
という感情です。

なぜなら、こういう場面を私は何度も見てきたからです。

「本当は分かっている」

 彼は何が問題なのか分かっていました。
何が組織のためになるのかも分かっていました。
何が本質的な課題なのかも理解していました。

だからこそ最初の企画に共感していたのです。

それなのに最後は変わった。

なぜでしょうか。

答えはそれほど難しくありません。
正しいことを通しても、自分の評価には直結しないからです。

しかし上司に逆らえば評価が下がるかもしれない。
面倒な人間だと思われるかもしれない。
出世コースから外れるかもしれない。

だったら黙って従った方が安全です。
だったら波風を立てない方が楽です。

だから従う。
だから飲み込む。
だから見送る。

そして終わった後になって、
「本当は私もそう思っていたんです」
と言う。

私はこの言葉を聞くたびに複雑な気持ちになります。

だったら、なぜその時に言わなかったのか。
だったら、なぜ現場のために声を上げなかったのか。
もちろん私も分かっています。

生活があるからです。
家族がいるからです。
住宅ローンがあるからです。
評価があるからです。

だから責める気にはなれません。
しかし同時に思うのです。
それは本当に仕方のないことなのでしょうか。

「保身は、やがて傍観になる」

 多くの人は勘違いしています。
ハラスメントの問題は加害者だけの問題だと思っています。

怒鳴る上司。
威圧的な管理職。
人格に問題のある人。

確かにそういう人がいます。

しかし現場で本当に多いのは別の人たちです。

見ている人です。
気づいている人です。
おかしいと思っている人です。
でも何もしない人です。

つまり傍観者です。

そして傍観者の多くは悪人ではありません。
むしろ真面目で責任感のある人たちです。
だから厄介なのです。

悪意があるわけではない。
傷つけたいわけでもない。

ただ、自分を守りたいだけなのです。しかしその沈黙が、誰かを追い詰める。

『本当は反対だったんです』という便利な言葉

 私が一番怖いと思うのはここです。
何もしなかった人ほど、後になってこう言います。

「本当は私も反対だったんです」
「私も被害者のようなものなんです」
「上が決めたことなので」

確かにそうでしょう。
被害者の側面もあると思います。

しかし、その言葉は同時に責任から距離を取るための便利な言葉でもあります。
組織の決定には従う。

でも責任は負いたくない。
上司には逆らわない。
でも自分が賛成したと思われるのも嫌だ。

だから、
「本当は違ったんです」
と言う。

そうやって自分の良心だけは守ろうとする。

私はあの担当者の言葉を聞いたとき、そこに人間の弱さを感じました。
彼は被害者だったのかもしれません。

しかし同時に傍観者でもあった。
そして、おそらく私たちの多くもそうです。

「本当に恐ろしいのは組織の空気」

 こういう人が一人なら問題ありません。

しかし会社の中に十人、二十人、百人と増えていくと何が起きるでしょうか。

誰も本音を言わなくなります。
誰も異論を唱えなくなります。
誰も責任を負わなくなります。

その代わりに増えるのは言い訳です。

「仕方がない」
「上が決めたことだから」
「会社だから」
「現実はそんなものだから」

こうして組織は少しずつ思考停止していきます。

そして不祥事が起きる。
ハラスメントが起きる。
誰かが壊れる。

そのとき初めて全員が言うのです。

「まさか、こんなことになるとは思わなかった」

本当にそうでしょうか。

気づいていた人はいたはずです。
違和感を持っていた人もいたはずです。

ただ、誰も動かなかっただけです。

「あなたはどうですか」

 この話を読んで、
「ひどい担当者だな」
と思った方もいるでしょう。

しかし私はそうは思いません。
なぜなら、あの担当者は特別な人ではないからです。

どこの会社にもいるのかもしれません。
そして、もしかすると私たち自身もそうかもしれません。

本当は違うと思っている。
本当はおかしいと思っている。
本当は声を上げるべきだと思っている。

それでも黙る。

波風を立てたくないから。
嫌われたくないから。
損をしたくないから。
評価を下げたくないから。

それが人間です。

だからこそ問われるのです。

組織の空気に流される傍観者であり続けるのか。

それとも

違和感に向き合うのか。

その選択です。

ハラスメントは突然発生するものではありません。
誰かの暴言から始まるものでもありません。

もっと前から始まっています。

違和感を覚えながら口を閉ざした瞬間。
見て見ぬふりを選んだ瞬間。
「仕方がない」で済ませた瞬間。

その小さな沈黙の積み重ねが、やがて組織を蝕んでいくのです。

知識を学んだ後、あなたは何をするのか。

問われているのは、
「ハラスメントの知識」ではなく、明日からのあなたの「生き方」です。

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この記事を書いた人
藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
研修プランナー/講師/産業カウンセラー

「人を追い詰めるのは個人だけではない」29歳のとき、前日まで食事を共にしていた取引先の経営者が、翌朝、組織不祥事の責任を背負い、訃報の知らせを朝刊の一面で知る。その後、自身も過酷な労働環境のなか、周囲のパワハラも加わりパニック障害を発症し、解雇を経験。自身の経験を原点に、ハラスメントを組織風土・ガバナンス・リスクマネジメントの視点から分析し、研修として提供している。

アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
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そんな思いで、このブログを書いています。

#管理職
#傍観者
#見て見ぬふり
#ハラスメント

パワハラじゃない。     でも確実に人を潰している“無礼”の正体 ― パワハラ以前の問題が職場を静かに壊す。

「パワハラは許されない」

日本でもかなり広がりました。法制度も整い、研修も実施され、企業は対策を進めています。

でも現場はどうでしょう。

怒鳴る、脅す、人格を否定する -そういった“わかりやすいハラスメント”は確かに減ってきた。なのに、組織の疲弊感がなくならない。そんな会社が、まだたくさんあります。パワハラの報道も止まりません。

研修の現場でも感じます。
「制度を整えたのに、なんとなく職場の空気が重い」
「ハラスメント研修をしたのに、また相談が来た」

という声を、人事担当者から聞くたびに、私はこう思うのです。

問題は、パワハラの始まりはもっと「手前」にあるんじゃないか、と。

「礼節を欠く態度」が、じわじわと職場を壊す

  今回紹介したいのは、Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior(2026年)に掲載されたレビュー論文「Workplace Incivility(職場無礼行為)」(Magley, Kabat-Farr, Malcore, Walsh)です。

25年分の研究を丁寧に整理した論文ですが、その問題提起は非常にシンプルです。
「職場に蔓延する“礼節を欠く態度”が、個人の心身だけでなく、組織の生産性までむしばんでいる」論文ではこれを incivility(インシビリティ) と呼んでいます。

特徴は三つです。

• 強度が低いこと
• 相手を傷つける意図が曖昧であること
• 相互尊重という職場規範に反すること

つまり、怒鳴るわけでも、脅すわけでもない。
でも「なんか感じが悪い」「軽く扱われた気がする」と感じる行動です。
日本の職場で思い当たる場面を挙げるとすれば、こういうことです。

会議で話を途中で遮る。
「は?」「で?」という返しで相手を萎縮させる。
ため息をつく。
目を合わせない。
感謝やねぎらいの言葉を省く。

雑な指示や投げるような依頼が当たり前になっている。

どれも単体では「ちょっと嫌だな」で終わりがちです。
ところが、この“ちょっと”の積み重ねが、じわじわと組織を蝕んでいく。
それが論文の主張です。

75% -「例外」ではなく、「普通に起きている」

  論文が示す職場の無礼行為の経験率は、推定75%です。
4人いれば3人が経験しているレベルです。

いじめやハラスメントより発生頻度が高く、世界規模で見れば生産性損失は巨額だとされています。
ここで重要なのは、無礼が「悪い人がやる特殊な問題」ではないという点です。

忙しい。
余裕がない。
成果プレッシャーが強い。
役割が曖昧。
上司が不公正。

こうした条件が重なると、無礼は日常化します。
組織の「当たり前」として起きるのです。

そして日本の職場は、この条件をいくつも抱えています。

長時間労働。
曖昧な職務定義。
感情労働。
年功序列の名残。
同調圧力。

無礼が起きても、
「まあそんなもんだ」
「あの人はそういう人だから」
と片付けられてしまう。


なぜ見落とされるのか-「意図が曖昧」
という厄介さ


 パワハラは、優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えて、
就業環境を害する言動として定義されています。
ところが無礼は、「傷つける意図が曖昧」であることです。

だから現場では、こういうことが起きます。

やった側は、
「そんなつもりはなかった」
と言う。

見ている側は、
「大げさに騒ぐほどではない」
と感じる。

受けた側は、
「自分が敏感なだけかもしれない」
と思ってしまう。

組織は、
「ハラスメント案件としては弱い」
と判断する。

この構造そのものが、無礼を温存します。
白か黒かではなく、グレーの量で組織を壊していく。
ここがパワハラとの決定的な違いであり、日本で最も見落とされやすい
ポイントだと私は感じています。

無礼は「感染」する

  論文で興味深いのが、無礼が拡散するメカニズムの説明です。
一つはスパイラルです。
無礼を受けた人が別の誰かに八つ当たりする。
目撃した人が同じ態度を学習する。
やがて低強度の無礼が、より強い敵対行動へと変わっていく。

もう一つは「認知の感染」です。

無礼を経験すると、人は他人の言動を悪い方向に受け取りやすくなります。
これまでなら気にならなかった一言や態度まで、「自分を軽く扱っているのではないか」と感じやすくなるのです。

つまり、無礼は「見え方」まで変えてしまう。
職場の会話が刺々しく感じられ、疑心暗鬼が広がる。
これは、現場感覚とぴったり一致します。
一人の態度が悪いと、なぜか全体の会話が荒れていく。
誰かが雑に扱われているのを見ると、
「丁寧にするのが馬鹿らしい」
という気分になる。

あの“職場の雰囲気の悪化”は、まさにこの拡散メカニズムで説明できます。

パワハラ対策をしても、なぜ組織が回復しないのか

 論文が示す影響は広範です。
無礼を受けた人は、仕事満足が下がり、組織へのコミットメントが下がり、
離職意図が上がる。
パフォーマンスや市民行動が下がり、反生産的行動が増える。
睡眠悪化、ストレス、情緒的消耗など、健康面にも影響が出る。
事件化しなくても、組織の土台が静かに削られていくのです。
私がここを一番怖いと思っています。

 日本企業は「明確なNG」は止められても、相手への配慮や敬意を欠くコミュニケーションは残りやすい。
するとハラスメント対策をしても、組織が回復しない。
さらに論文は、無礼の発生が個人の資質よりも、職場の気候や規範といった「文脈」によって強く左右されることを示唆しています。

対策は「個人にマナーを教える」だけでは足りません。

本気で本気で取り組むなら、「何をしてはいけないか」だけではなく、「どのような態度を大切にする職場なのか」を明確にする必要があります。
その意味で、インシビリティ(無礼)の問題は、今後の組織づくりに不可欠なテーマになります。

「昭和的な当たり前」に刺さる論文

  日本のパワハラ議論は、どうしても「強い言動」「優越関係」「適法・違法」に寄りがちです。
もちろんそれは重要です。

でも現場では、もっと手前の段階で問題は起きています。

乱暴な口調。
目を合わせない。
雑な依頼。
話を遮る。
無視する。
感謝を伝えない。
説明を省略する。

こういった“日常の無礼”が、職場を荒らし、人を辞めさせ、成果を落とす。

そして日本では、これが
「仕事なんだから我慢しろ」
「昔からこうだった」
「空気を読め」
で正当化されやすい。

論文は、無礼が低強度で曖昧だからこそ、ラベルも貼られず、改善もされず、拡散し続けることを丁寧に論じています。

日本の職場文化の盲点に、まっすぐ刺さる内容です。

パワハラ対策の次の一手として
パワハラ対策を考えるとき、私たちは「強い加害」だけを見てしまいがちです。
でも本当に組織を壊しているのは、「雑さ」「冷たさ」「軽視」の積み重ねかも
しれない。

この論文は、その“パワハラ以前”の問題を照らしてくれます。
ハラスメント対策を再発防止まで持っていきたいと考えている人事担当者や
管理職のみなさんに、ぜひ一度手に取ってほしい論文です。

そして最後に、こんな問いを投げかけたいと思います。

パワハラをなくそう。
もちろん、それは大切です。

でも組織を壊しているのは、必ずしも怒鳴り声ではありません。

話を遮ること。
感謝を言わないこと。
雑に頼むこと。
相手を軽く扱うこと。

そんな小さな無礼の積み重ねが、職場の空気をつくります。

あなたの職場では、どんな態度が「当たり前」になっているでしょうか。

パワハラ対策の次の一手は、その問いから始まるのかもしれません。


参考文献
Magley, V. J., Kabat-Farr, D., Malcore, S. A., & Walsh, B. M. (2026). Workplace Incivility. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 13, 325–352.
※本記事は上記論文の内容をもとに執筆しています。職場の「無礼」が個人だけでなく組織全体に与える影響について、さらに詳しく知りたい方は原典をご覧ください。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
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#パワハラ

#インシビリティ

#不機嫌ハラスメント

「ちゃん付け」と「不機嫌」で人は壊れる “普通の指導”が通用しない時代

2025年「ちゃん付け」が違法と認定された

職場で女性を「〇〇ちゃん」と呼び続け、
容姿への言及もあったケース。

裁判所は、

違法なハラスメントと認定しました。

問題は言葉ではなく関係性

年齢差。
性別。
職場での立場。
繰り返し。

これらが重なったとき、

尊厳の侵害になります。

「悪気はなかった」が、通用しない時代に
入ったのです。

2026年春 “不機嫌さ”を含む継続的な心理的負荷が
労災と認定された

若手社員が亡くなった事案。

長時間労働も、明確な暴言もない。

それでも、
継続的な心理的負荷が認定されました。

問題になった“普通の言葉”

「今作ってもしょうがないじゃん」
「いつまでもお客様じゃどうかな?」

よくある言葉です。

なぜそれで壊れるのか

フォローがない。
関心がない。
評価が曖昧。

これが重なると、

人は無力感を感じる。

本質は「累積」

弱い負荷の積み重ねが、人を壊す。

フキハラ(不機嫌ハラスメント)

態度。
空気。
言い方。

それらも、見られる時代になりました。

つまり、

“普通の指導”そのものが問われています。

これは、
「厳しくしてはいけない」という話ではありません。

問われているのは、

相手を育てる関わりになっているか。

そこです。

2つの事例が示すこと

どちらも、

強くない。
日常的。
悪意がない。

それでも壊れる。

無礼は見過ごされない

無礼は今、

「問題にならない問題」ではなくなりました。

最後に

怒鳴らないから、安全ではありません。

むしろ危険なのは、

無関心。
無視。
雑さ。

壊れる職場は、

怒鳴り声より“無関心”が多い。

一行で言うと

「無礼を許していないか」

それが、職場の分かれ目です。

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この記事を書いた人

藤山 晴久

ハラスメント研修企画会議 主宰

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。

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「任せない上司」が、組織を壊す。ホワイトハラスメントの本当の正体

クリーンな職場の、静かな異変

「また、新しい言葉が増えたのか」

ネットで見かけた「ホワイトハラスメント」という文字に、
私は一瞬、ノートパソコンを閉じそうになりました。
ハラスメントのインフレ。
そんな言葉が浮かぶほど、今の世の中はレッテル貼りに
躍起になっているように見えたからです。

けれど、読み進めるうちに、心のどこかにあった違和感の正体が
形を成していくのを感じました。
それは、「良かれと思って言わないこと」が、実は相手のためではなく、
自分を守るための壁になっていないか、という問いです。
過剰な遠慮が成長を阻み、関わらないことが孤立を生む。

「何を言うか」と同じくらい、「何を言わないか」が組織の体温を
奪っているのではないか。

いや、でも、本当に問題はそこにあるのか?

皆さんと一緒にこの問題を考えたく、再びパソコンに向き合いました。
それを確かめるために、まずこの数字を見てください。

中途入社1年以内の社員の56.9%がこの言葉を認知し、13.6%が実際に経験しています。さらに、その経験者の71.4%が「1年以内に転職したい」と回答しています。
出典:マイナビ「中途入社1年以内の社員に聞いた”ホワイトハラスメント”に関する調査」(2026年4月9日発表、n=1,446名)

これは単なる「優しすぎる職場」の問題ではありません。仕組みの問題です。

「優しいのに苦しい」―これは異常事態です

その「配慮」、本当に相手のためになっていますか

現場で語られている声を見てください。

「先輩が先回りして全部やってしまう」
「責任のある仕事を任せてもらえない」
「仕事が途中でも定時だから帰らされる」

これらはすべて、”配慮”として行われています。
しかし、受け取る側が感じているのは安心ではありません。
自分が必要とされていない感覚です。

ダンベルを取り上げて、何が育つのか

人は、適切な負荷の中でしか成長しません。
筋肉と同じで、壊れない程度の重みがなければ強くなりません。
ホワイトハラスメントとは、部下からダンベルを取り上げ、
「無理しなくていいよ」と言いながら、成長の機会そのものを奪う行為です。
これは優しさではありません。時間差で効いてくるキャリアの破壊です。
みんな正しい。でも、何かが足りない。

語られている。でも、届いていない。

  この問題は、すでにネット上でも議論されています。
現場の声とネット上の議論を4つに類型化すると、以下のようになります。

若手の声:
「このままで大丈夫か」
「怒られないが、正解も教えてもらえない」
「責任ある仕事を任せてもらえない」
「市場価値が上がらない気がする」
“ぬるさ”そのものが、不安になっています。

上司の声:
「何を言ってもリスクになる」
「指導したらパワハラと言われそう」
「言葉選びに疲れた」
「関わらない方が安全」
関与しないことが最適解になっています。

ネット世論:
「甘えではないか」
「贅沢な悩み」
「昔はもっと厳しかった」
「ホワイトの履き違え」
世代論・価値観論に矮小化されています。

専門家の見解:
「心理的安全性の誤解」
「ぬるま湯ではない」
「フィードバック不足」
「評価基準の曖昧さ」
優しさと放任が混同されています。

しかし、それでも何かが決定的に足りないような気がします。
すべて”現象”の説明で止まっているからです。

問題は「優しさ」ではありません

「自己保身」論の限界

よく言われるように、これは「優しすぎる問題」でもあり、
上司の「自己保身」の問題でもあります。確かにそれは正しいです。
しかし、それでもまだ浅いと言えます。

取り違えているのは「責任」の定義です。
本当の問題は、「責任とは何か」を取り違えていることです。

その「報告」、上司は安心できていますか?

「責任を取る」は、実は成立しない
多くの管理職がこう言います。「私が責任を取ります」と。
その言葉には、チームを守ろうとする誠実な気持ちがあります。
それ自体は、大切なことです。

ただ、構造的に見ると少し違う側面があります。
本来の意味での「責任を取る」とは、損失を自分で被ることです。
株式会社という仕組みにおいて、それができるのは株主と投資家だけです。
経営者も管理職も、現場の社員も、損失そのものを引き受けることはできません。
つまり、私たちにできるのは
「責任を取ること」ではなく、
「責任を果たすこと」です。
この違いは、小さいようで決定的です。

2種類の「果たす責任」、あなたはどちらを果たしていますか

「果たす責任」には、2種類あります。
一つ目は、自分に課された仕事をやり遂げること。
役職も年次も関係ありません。これは働くすべての人間が負う、
最低限の責任です。

二つ目が、任された仕事について「上司が安心できる状態を作る」こと。
これをアカウンタビリティといいます。

報連相とアカウンタビリティ、ゴールが違うと気づいていますか?
報連相は、「正しく伝える手段」を教えてくれます。
いつ、何を、どう伝えるか。それ自体はとても大切なことです。

でも、アカウンタビリティが問うのは、その先です。
「伝えた結果、相手は安心できているか」。
手段を守ることと、結果を出すことは、同じではありません。
「一応、報告はしました」
「送りました、伝えました」

それは伝えただけです。

上司がしっかりと受け取ったことを確認して、上司が安心した状態でなければ、
その仕事はまだ終わったとはいえないのです。
報連相は「正しく伝える」。アカウンタビリティは「安心できる状態を作る」
この違いは、小さいようで決定的です。

「任せる・任される」の本質

 「任せる」とは、仕事を渡して終わりにすることではありません。
上司にとって「任せる」とは、部下に仕事を預けることだけではありません。
部下が安心して仕事ができる状態をつくることです。
部下にとって「任される」とは、単に仕事を受けることではありません。
報告とともに、上司が常に安心できる状態を上司に返すことです。
これが、心理的安全の本質です。
つまり、安全な職場とは、上司と部下が一緒につくる環境のことです。

部下は、失敗も成功も隠さず、情報を上げます。
上司は、事実をありのままに受け止めます。
たとえマイナスの情報であっても、人格を否定することはありません。
その安心があるから、情報は正しく流れます。

責任の連鎖が、組織を動かす

  ホワイトハラスメントは、この「任せる・任される」の本質が
互いにわかっていないところから生まれます。
本来、責任の連鎖はこう機能しています。
上司が任せる→部下がアカウンタビリティを果たす→上司が安心できる→
さらに任せる。この循環が、組織を動かしています。

しかし、任せなければその連鎖は最初の段階で止まります。
任せない→部下がアカウンタビリティを果たせない。
負荷をかけない→成長が止まる。
任せないから、正しい情報も上がらない。

見方によっては、アカウンタビリティを果たす機会そのものを
奪っているとも言えます。その結果、責任の連鎖が断ち切られます。

ホワイトハラスメントとは、責任関係の崩壊です。

信頼は「覚悟」でしか生まれない
部下が見ているのは、優しさではないとしたら?

もちろん、任せることには怖さが伴います。失敗させるリスクもあります。
だからこそ、多くの上司が無意識にブレーキをかけます。
しかし、部下が見ているのは優しさではありません。
任せてもらえるかどうかです。

任せない上司は、こういうメッセージを発しています。

「お前にはまだ無理だ」

「私は責任を負いたくない」

この二つは、必ず伝わります。その瞬間、上司はどう見えるか。
覚悟がない。
信頼できない。
プロとして見られない。

そして最後に、静かに去っていきます。

甘さではなく、責任の関係へ

ホワイトハラスメントは、新しい問題ではありません。
もちろん、すべての上司がそうだと言いたいわけではありません。
しかし、この傾向が広がっているのは事実です。
ホワイトハラスメントは、新しいハラスメントではありません。
責任を果たす関係が崩れた結果です。

本来の組織とは何か?
本来の組織とは、必要な指摘ができる、任せることができる、情報が正しく
流れるそんな「責任の連鎖」が機能している状態です。
そこでは、厳しさは暴力やパワハラではありません。機能です。
必要なのは、責任を果たす覚悟です

甘い関係は、もう終わりにしましょう。
必要なのは優しさではありません。
信頼でもありません。責任を果たす覚悟です。
任せるとは、丸投げではないです。責任を分解し、見える形にして渡す。
そして、互いに共有することです。
上司には、任せる覚悟が必要です。
部下には、任された責任を果たす覚悟が必要です。

どちらか一方では、成立しません。
その双方向の関係が機能してはじめて、職場は本当の意味で安全になります。
正しい情報が流れ、人が育ち、組織が動きます。

ホワイトハラスメントに悩んでいる方へ。
問題はあなたの感受性が強すぎるのでも、職場が優しすぎるのでもありません。
「任せる・任される」という関係の本質が、まだ共有されていないだけです。

それは、変えられます。

この記事を書いた人

藤山 晴久

ハラスメント研修企画会議 主宰

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#ホワイトハラスメント
#パワハラ
#責任
#部下指導
#育成

ルールでは、空気は変わらない ― 「企業風土」が新語・流行語に選ばれた今 ハラスメントを生まない組織の“空気づくりとは?東京ステーションホテルに学ぶ、企業風土のつくり方

2025年12月1日、「新語・流行語大賞」が発表されました。

大賞は「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」。

賛否両論あったようですが、私が注目したのは、そこではありません。「企業風土」という言葉が、新語・流行語に取り上げられるくらい関心が高い言葉のひとつとして、ノミネートされていたことに驚いたのです。

なぜ今、「企業風土」なのか

企業風土とは、要するに組織に漂う”空気”のことです。
価値観、考え方、暗黙のルール——目に見えないけれど、確実に人の心と行動を左右するもの。
2025年も(というか、ずっと)、不祥事やハラスメントのニュースが絶えませんでした。
働き方改革、ジェンダー問題、ハラスメント。昔なら「まあそういうもんだよね」で済まされていたことが、今は、職場の枠を飛び越えて、社会全体の問題として注目されています。
つまり、社会全体が「組織の空気を変えなきゃヤバい」という段階に入っている。
だから「企業風土」が流行語になった。そういうことだと、私は勝手に解釈しています。
企業風土とは、組織の土壌です。
職場で日々、どのような意思決定がなされ、どんなコミュニケーションが生まれるのか。そこで働く人たちが毎日どんな想いで働いているのか。
それらすべてを形づくる、目に見えないけれども、組織の空気をつくるものが、企業風土でしょう。

ハラスメントが起きやすい組織の共通点

ハラスメントが起きやすい組織とは、どんな職場でしょうか。
この問いを投げかけると、多くの方が「コミュニケーション不足」を真っ先に挙げます。
たしかにそれも一因です。しかし、厚生労働省の調査(令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」)を見ると、もっと根本にある要因が見えてきます。
ハラスメントを受けた方に、所属する職場の風土を問う質問では、以下のような職場風土が挙げられています。

1 人手不足
2 従業員の年代に偏りがある
3 上司と部下のコミュニケーションが少ない
4 残業が多い/休暇を取りづらい
5 女性管理職比率が低い
6 失敗が許されない
7 ハラスメント防止規定が未整備
8 他部署や外部との交流が少ない
9 業績が低調
10 男性ばかりの職場

この結果から、はっきりと言えることがあります。
ハラスメントを防ぐためには、「働きやすさ」という土壌づくりが欠かせない。
残業が多く、休めず、人手が足りず、日々ギリギリの中で働いていれば、組織の空気はどうしてもギスギスします。
心に余裕がなければ、丁寧なコミュニケーションなどできるはずがありません。
私が企業研修で現場を訪れると、「ハラスメント対策の前に、この労働環境をどうにかしてほしい」という本音をよく耳にします。
ハラスメント問題には、労働環境の問題も起因しており、社員個々の意識改革と同時に、本気で組織が変わらなければ、人の意識は変わりません。

東京ステーションホテルに学ぶ、組織の空気と企業風土のつくり方

では、具体的にどうすれば「よい企業風土」は育まれるのか。

そのヒントを教えてくれるのが、『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』という本でした。

東京ステーションホテルは、110年の歴史を持つ小規模ながらファンの多い名門ホテルです。

一般的なホテルのリピーター率は10~30%。でも、このホテルは平均約40%。多い月は60%を超えるそうです。

なぜか?

私は、スタッフ一人ひとりの高いホスピタリティを生む企業風土にあると思います。

本書では、ホテルで働く11人のスタッフの声が紹介されています。そこには、「よい企業風土ってどう育まれるのか」を知るヒントが詰まっていました。
昔から、CSやホスピタリティの観点から、外資系ホテルやアミューズメントパークの舞台裏を取り上げた本は沢山ありました。しかし、日系のホテルで、しかも東京駅の中にあるという非常に特殊なホテルを取り上げている点が大変気になったのです。
読み進めるうちに、働きやすい職場をつくるためのヒントがエピソードとともにちりばめられており、是非、このブログの読者の皆さんにも読んで欲しくなり、いくつか大切だと思うエピソードをご紹介させてください。
そして、それらのエピソードは大きく2つに分けられることに気づきました。

「理念」と「環境」——この両輪があってこそ、企業風土は育まれるのです。

【理念編】組織の「核」をつくる

まず「北極星」を決める

東京ステーションホテルがある東京駅丸の内駅舎は、2003年に重要文化財に指定され、2007年から5年間かけて大規模な保存・復原工事が行われました。
工事中は休業。再開業する際に、総支配人の藤崎斉氏が開業メンバーと一緒に決めたのが、「北極星」となるビジョンです。

「この先の100年も、東京の中心で輝き続け、語り継がれるホテルであろう。
先人たちの積み重ねと、このヘリテージに感謝して」
迷ったときに立ち戻れる”言葉”をチームでつくる。
これこそが、企業風土の「核」になるんです。

「江戸城を造ったのは誰ですか」

ホテルの再開業にあたり、総支配人の藤崎斉氏は、工事に携わった数百人の職人さんたちにも、それぞれの思いを書いてもらうことにしました。

なぜか?

彼らもまた、このホテルの歴史をつくる当事者だからです。この建物に関わったすべての人の思いを、形として残したかった。
ところが、最初は反応がなかったそうです。
職人さんたちは黙々と仕事をする方が多く、「自分たちの思いなんて」と遠慮していたのかもしれません。
そこで藤崎氏は、ある朝礼でこう語りかけました。
「江戸城を造ったのは、太田道灌でも徳川家康でもない。数多くの大工さんたちです。
東京駅をつくっているのは、あなたたちです」

この言葉に、職人さんたちの空気が変わったといいます。
歴史に名を残すのは、指示を出した殿様でも将軍でもない。この手で石を積み、木を削り、実際に形をつくった職人たちこそが、真の作り手なんだ——そう認められたとき、職人さんたちは初めて「自分もこの歴史の一部なんだ」と実感できたのでしょう。
自分の仕事が歴史の一部になる——そのことに気づくと、人は誇りを持って働けるようになります。
組織の空気が変わる瞬間とは、こういう”意味づけ”が生まれたときなんだと思います。

このとき、職人さんたちが書いたメッセージの一部は、今もホームページで公開されています。

ぬいぐるみのためのオレンジジュース

もうひとつ印象的だったのが、結婚式のエピソード。
新婦が「昔からずっと一緒にいるから」と、ぬいぐるみを席に置きたいと依頼したとき。
スタッフはぬいぐるみの前にオレンジジュースをそっとサーブしたのです。
誰かに言われたわけじゃありません。マニュアルにも載っていません。
「ぬいぐるみは家族の一員です」——その一言を受け取ったスタッフが、自分で考えて、行動した。

私はここに、企業風土の本質を見ます。
“自分で考えて動ける”人が育つ土壌。これは、命令やルールでは絶対に生まれません。

“Our Promise”という行動指針

同ホテルには、マニュアルとは別に「Our Promise」という行動指針があり、研修でもよく話し合うそうです。
ポイントは、「正解を教える」のではなく、「自分はどう行動するべきか」を自分で考える機会をつくること。

これ、ハラスメント対策でもまったく同じなんですよね。
ルールをつくって終わりでは、ハラスメント体質の風土は変わりません。
社員一人ひとりが「自分ごと」として捉え、能動的に動ける環境をつくれるかどうか。
言い換えると、周囲にパワハラをする人がいたときに、傍観者にならず、「自分だったらどう行動するべきか」をいざ、という時に備えて平時から考えておくこと。しかも、1人で考えるのではなく、仲間と共有しておくことが大切です。

【環境編】理念を支える働きやすさ

しかし、どんなに美しい理念があっても、それを実践できる「環境」がなければ絵に描いた餅です。
東京ステーションホテルが素晴らしいのは、理念を支える「働きやすい環境」が徹底的に整備されている点です。

仕事への敬意を、形にする

同ホテルでは、清掃スタッフを敬意を込めて「アテンダント」と呼びます。
中には、定年まで勤め、その後もシニア雇用で活躍するベテランスタッフもいるそうです。
ハウスキーピングは時間との戦いになりがちですが、同ホテルではシーツの交換だけを担当するスタッフを配置することで、アテンダントが丁寧に清掃できる仕組みを整えています。

また、作業ワゴンを廊下に置かないというルールをあえて設けています。重要文化財である駅舎の雰囲気を壊さないためです。効率より、価値を優先する。その判断が、スタッフの誇りをさらに高めているのだと感じました。

働く環境そのものへの投資

本書を読んで驚いたのは、バックヤードまで美しく整えられているという点です。
「水平・直角・並行・垂直」という原則を徹底し、スタッフ食堂には絵画が飾られ、エスプレッソマシンは使い放題。従業員食堂の入口には、宿泊客からのグッドコメントがずらりと貼られているそうです。

制服はすべてセミオーダー。チームワークを重視するあまり、「仲良くできない料理人は採用しない」と明言しているほどです。
こうした環境づくりは、一見すると「コストがかかる」と思われるかもしれません。

しかし、私がハラスメント研修で多くの企業を見てきた経験から言えるのは、働く環境への投資こそが、最も効果的なハラスメント防止策だということです。
余裕のない職場では、どんなに研修を重ねても、人の心は変わりません。

逆に、「自分は大切にされている」と実感できる環境があれば、人は自然と他者を大切にするようになります。

詳しいエピソードは、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが、東京ステーションホテルの取り組みから学べることは、どの組織にも応用可能だと思います。

企業風土は「理念」と「環境」の両輪でつくられる

東京ステーションホテルの事例から見えてくるのは、企業風土は「理念」だけでも「環境」だけでもつくれないということです。
「北極星」のようなビジョンがあっても、人手不足で余裕がなければ、スタッフは自発的に動けません。
逆に、どんなに労働環境が整っていても、「何のために働くのか」という意味づけがなければ、人は誇りを持てません。

理念が「心」なら、環境は「体」。

両方が健全であってこそ、人は気持ちよく働き、自発的に動き、組織の空気は良くなっていくのです。
人手不足、長時間労働、休めない環境――こうした土壌を放置したまま、「コミュニケーションを大切にしましょう」というスローガンを掲げても、現場には響きません。

まずは、働きやすい環境をつくること。

そして、働く意味を共有すること。

企業風土とは、一人ひとりの小さな選択と行動の積み重ねでつくられるもの、そしてその積み重ねこそが、ハラスメントのない、働きやすい職場をつくることにつながることだと、読後、改めて感じました。

『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(上阪徹著、河出書房新書)、みなさんもぜひ読んでみてください。

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309254968/

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

近くにいるから、嫌いになる ― リモートワークでやっと消える!?昭和のハラスメント

あなたの職場のテレワーク、快適ですか?

一方で、一見テレワークが上手くいっているように見える、オフィスを廃止し始めた会社、既に浸透し上手く活用が出来ている会社があると申し上げましたが、表向きの話で、かなり深刻な問題も抱えている実態があります。

テレワークも全国的に見ると、まだまだこれから始める企業も多い状況です。東京に本社がある一部上場企業であっても、オフィスを廃止し始めた会社、既にテレワークも浸透し、取り組みが先に進んでいる会社がある一方で、テレワークでは自宅待機で何もできないということで、結果的に、公には言えませんが、かなりの人が出社している実態の会社があり(業種業態により千差万別ですが)実は、現場ではかなりテレワークの取り組みに差があることが垣間見えます。

私の職場は、洗濯機の上

現在、「自宅」が「職場」になったのはいいものの、「執務スペース」がないのです。終日、ダイニングテーブルで仕事ができる人は恵まれている方で、洗濯機の上、車の中、下駄箱の上など、かなり工夫しながら、仕事をしている実態がうかがえます。自宅に自分の個室を持っている人がどれくらいいるでしょうか?ましてや都内の一人暮らしのワンルームのアパートは坪数も多くありません。一体どこで仕事をすればいいのか悩み、だんだんと休みと仕事の境がなくなり一日家にいることでイライラしてくる若手もいるようです。おかげで50代は椅子が身体に合わずに腰痛が悪化し、オンライン会議が増えることで老眼が進む人もいます。さらに、困ったことに会社から備品の補助金がない会社が多いのです。また、通信費用や増える電気代も全部自分持ちに対する不満の声も漏れ聞こえます。

今、多くの方がZOOMやTeamsなどに慣れたのはいいものの、仕事をする環境が思うように整わない一方で、一番の問題は、社長や役員もテレワークで自宅にいる方も多く、その実態を意外と知らないで豪邸に住んでいる経営層は関心がなかったりするのです。なにせ「豪邸」ですから!

 まだまだ課題を抱えるテレワーク問題。今回は、そのなかでもテレワークがもたらす働き方や生産性是非とは別に、実は、テレワークを行うことで昭和のハラスメントが自然と消えていくことが調査でわかったのです。

2020年3月に当社では日本の職場のハラスメント問題について実態調査を行いました。対象は、全国1,000人(20代~50代、男女、会社員(一般職、管理職、経営者)、公務員・教職員・非営利団体職員、派遣社員・契約社員のビジネスパーソンでした。

 その中で、次のような質問をしました。

「最近、職場での男性上司(先輩)のやめてほしいことや鼻につくこと(ハラスメントの芽)」

を教えてください。という設問を設けました。

真っ黒なハラスメントではなく、今は上司の言動でイラっとする程度ですが、このままその言動を放置すると「嫌いな感情」が芽生え、将来ハラスメントになる可能性がある言動を聞いてみました。

「部長、今、おならしましたよね。」って上司に言えますか?

ランキングは以下の通りとなりました。

1位 理不尽なマネジメント系

2位 マナー系

3位 高圧的なマネジメント系

今回、職場でのビジネス「マナー」がハラスメントの芽になっていることに着目し、さらに自由回答で一体現場でどのようなことで不愉快に感じているのか「マナー」について取り上げました。以下の自由回答例をご参照ください。

「貧乏ゆすりをしてやたらと机を揺らしまくること」(20代男性)

「堂々とオナラをして周りに迷惑をかける、悪びれることもない」(20代男性)

「鼻をほじったり、清潔感のないことをすること」(20代男性)

「トイレに行ったのに手を洗わない時がある。」(30代男性)                                                                                        

「周囲に全く気を遣わずに音を出して食べる。その咀嚼音が許せない。」(40代男性)                                                                        

「遠慮なく音のないおならをして後で臭いにおいが漂ってくること」(40代男性)                                                                           

「口が臭く、面と向かって話をすると我慢できない」(50代男性)                                                                                   

「大きいげっぷを人前ですることをやめてほしい」(50代男性」                                                                                     

タンをだすような気持ちの悪い咳払いや咳、くしゃみのときの声の大きさなど、

音が出る行為に腹が立つ」(20代女性)                                                                                                        

「指を舐めて資料をめくるのをやめてほしいです。」(30代女性)                                                                                    

「業務中なのに、自分の机で爪を切ること。」(30代女性)                                                                                          

「タバコやコーヒーとミックスされた加齢臭。耐えられないので、思わず口呼吸になる。」(30代女性)                                                          

「作業音がうるさい、ロッカーを閉めるとき・引き出しを閉めるとき」(40代女性)                                                                      

「あくびを連発して、他人のモチベーションを下げる。」(50代女性)                                                                                

「目の前でワイシャツをズボンに入れ直すこと」(50代女性)                                                                                       

「机で昼食の際の咀嚼音、その後のゲップ、爪楊枝のシーシーしながらの業務指示」(50代女性)                                                          

「話し声が大きくて、こちらが仕事をするのに気が散る」(50代女性)                                                                               

「タバコの匂いがきついところ。すうのは構わないが、マナーとして」(20代女性)

テレワークでハラスメントの芽を摘むことが出来ることが分かった!!

皆さんの職場には、このような上司はいないでしょうか?!

しかし本当に部下は上司の言動をよく見ているものです。たまに上司と同じ口癖やしかり方をする部下もいますが、物理的に一緒にいる時間が長いとうつるんでしょう。しかし、悪い癖もうつる点が一番厄介なのですが、、、

ハラスメントの問題は、ある日突然起こることではありません。日常の職場での些細な上司やメンバーの言動に対する不快感が少しずつ積もり積もって、嫌悪感からその気持ちを「ハラスメントだ!」と表現してしまうのです。

その多くの人は不快な気持ちを我慢しているのです。例えば、職場で「部長、今すかしましたよね」とはさすがに面と向かって言えないと思います。1000名のコメントを集計した中での非常に多かった声を並べましたが、個人的にも思い返せば「こんな上司いたな」と思わず昔の上司の顔が浮かびました。ご健在ですと80歳です。

しかしよくよく冷静に考えますと、このような言動はテレワークになるとそのような上司とも会うことがなくなり、不快な言動を毎日見たり、聴いたりしなくなっても済むのです。

テレワークは、昭和のハラスメントの芽の防止には一定の効果があります。テレワークでハラスメントの芽を摘むことが出来ることが分かったのです。繰り返しになりますが、テレワークでは、各自の職場は自宅です。これまで多くの方が集まって嫌がっていたマナーの側面から不快に感じているタバコ、不潔、声の大きさ、くしゃみ、職場のマナー、これらすべてパソコンの画面からは完全に遮断されます。

せめて出勤した日だけ我慢する(それもどうかと思いますが)、テレワークの日数が増えればテレワークがハラスメントの芽のような問題の減少に一定の効果があることを改めて再認識させられました。

それでも、ipadをスワイプするときに指で舐めて、画面が唾液でドロドロになっているおじさんがいるのも事実ですが、、、、一方で、画面共有を使えば、もうあなたの資料を上司に舐められることはありません。

しかしながら、人間は不思議なもので、テレワークが始まれば始まったで、またそのシステムを巧みに使ったハラスメントなども増えているのです。イタチごっこの状況です。

こちらは別の機会にご紹介したいと思います。

あなたはテレワークで、上司の不快な言動ストレスからうまーく避けてみませんか?

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

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