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人は壊れる。でもAIは壊れない ― chatgptにパワハラしてみた


「指導とパワハラの違いが分からない」

管理職研修で、よく聞く言葉だ。
本当に分からないのだろうか。

では、少し実験してみよう。
あなたが部下に投げたことのあるその言葉を、ChatGPTにぶつけたらどうなるか。

AIは壊れない。
でも人は壊れる。
この違いから、指導とパワハラの境界が見えてくる。

厚生労働省が示すパワーハラスメントの6類型は、

① 身体的な攻撃
② 精神的な攻撃
③ 人間関係からの切り離し
④ 過大な要求
⑤ 過小な要求
⑥ 個の侵害

である。

厚生労働省が示す6類型。その一つひとつを、ChatGPTで検証してみた。

ChatGPTにパワハラしてみた。

(対話形式)
① 身体的な攻撃

私:
「ふざけるな!」(机を叩く)

GPT:
「ご不満の点があれば、具体的に教えてください。改善します。」

AIは恐怖を感じない。
威圧が出力精度に影響しない。

しかし、人は違う。
大きな音や威圧は、まず“防御”を引き起こす。
人は“正解を探す”より先に“身を守る”。

恐怖は思考を止める。
結果として、成果は落ちる。

② 精神的な攻撃(暴言)

私:
「バカ野郎」

GPT:
「どの点が問題だったのか教えてください。改善に活かします。」

AIは自己評価が揺らがない。
怒りを内面化しない。
だから冷静に、改善点を求める。

しかし、人は違う。
暴言は改善点を示さない。
受け取るのは“修正”ではなく“否定”だ。

萎縮は学習効率を下げる。
羞恥は思考を狭める。
暴言は合理的な育成手段ではない。

③ 人間関係からの切り離し

私:・・・・・・・・
(無視する)

GPT:
「修正点があれば教えてください。」

AIは入力がなければ出力しないだけだ。
孤立で傷つかない。

しかし、人は違う。
無視や排除は心理的安全性を壊す。
安全性が下がると、発言は減る。
発言が減る職場で、創造性が上がることはない。

④ 過大な要求

私:
「明日までに完璧な企画を出せ」

GPT:
「前提条件と目的を教えてください。可能な範囲で最適化します。」

AIはできる範囲で出力し、条件が不足していれば確認を返す。
恐怖を感じないから、“精度”のために質問できる。

しかし、人は違う。
達成不能な要求は挑戦を生むより、無力感を生む。
無茶振りは成長ではなく萎縮の設計になる。

⑤ 過小な要求

私:
「お前は資料のコピーだけやって」

GPT:
「了解しました。コピー作業を実行します。」

AIは役割に傷つかない。
入力されたことを実行するだけだ。

しかし、人は違う。
役割を奪われると、能力は発揮されない。
期待されない人は伸びない。
過小な要求は、組織の潜在能力を削る。

⑥ 個の侵害

私:
「彼女いるの?なんで結婚しないの?」

GPT:
「私はAIなので恋愛や結婚はありません。
業務に関連する内容であればお答えします。」

AIは私的領域を持たない。
だから、淡々と境界線を引くだけだ。

しかし、人は違う。
業務と関係のない領域に踏み込まれたとき、人はまず“警戒”する。
警戒は信頼を下げる。
信頼が下がれば、情報共有は減る。
情報共有が減れば、組織のリスクは上がる。

これは倫理の問題であると同時に、合理性の問題でもある。

「雑談」と「侵害」は違う。
関係を温めるつもりの一言が、境界線を踏み越えた瞬間、
パフォーマンスは静かに落ちる。

AIにパワハラしても、本質的なダメージは生まれない

AIは恐怖を感じない。
AIは人格を持たない。
AIは孤立で傷つかない。
AIは自己否定しない。

だが人は違う。

恐怖は思考を止める。
人格否定は挑戦を奪う。
孤立は安心感を壊す。
過大な要求は萎縮を生み、過小な要求は存在価値を削る。
私的領域への干渉は境界線を侵す。

AIは壊れない。
しかし人は壊れる。

それ、本当に厳しさですか?

ここで必ず出てくる反論がある。

「でも厳しくしないと人は育たない」

厳しさは必要だ。
だが、厳しさと怒りは違う。厳しさと雑さは違う。

怒鳴ることは厳しさではない。
人格を削ることは指導ではない。
曖昧な指示のあとに叱ることは教育ではない。

それは未整理の感情だ。

本当に厳しい人は、

・目的を明確にする
・基準を言語化する
・役割を定義する
・プロセスを示す
・改善点を具体的に伝える

そのうえで求める。

法的な基準と、実は同じ話をしている

パワーハラスメントの判断な基準のポイントは、

「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」

である。

この基準は、とてもシンプルだ。

・その指導には、業務上の明確な目的があるか
・その方法や手段は、その目的に対して相当なものか

この二つが問われる。

多くの場合、目的は正しい。

「業務改善のため」
「成長のため」
「組織の成果のため」

問題はそこではない。
問われるのは方法と手段だ。

・人格を攻撃していないか
・威圧や恐怖を利用していないか
・必要以上に繰り返していないか
・他者の前で羞恥を与えていないか
・業務目的と無関係な私的感情が混ざっていないか

これらを欠けば、目的が正しくても「相当な範囲」を超える可能性がある。

逆に言えば、

・目的を明確にする
・基準を言語化する
・役割を定義する
・プロセスを示す
・改善点を具体的に伝える

という行為は、単なる“丁寧さ”だけではない。
法的に見ても、相当性を担保する行為そのものなのだ。

ハラスメントの原因は、人格だけではない。
むしろ、指導のやり方の問題であることの方が多い。

AIは壊れない。人は壊れる。

AIは壊れない。
AIは萎縮しない。
AIは自己否定しない。

あなたが雑なプロンプトを投げても、AIは冷静に聞き返す。

しかし部下は言わない。

「具体的に教えてください」とは言わない。
「基準を示してください」とも言わない。

黙る。
従う。
内側で傷つく。

力関係があるからだ。
だからこそ、上司側に“やり方”が求められる。

指導とは、感情ではなく「やり方」だ。
あるいは、「伝え方の技術」と言ってもいい。

何を伝えるかだけではなく、どう伝えるかが問われている。
目的が正しくても、やり方が雑なら、相当性を欠く。

目的が明確で、基準が言語化され、
人格ではなく行動に向き合い、
恐怖ではなく改善に焦点を当てる。

この「やり方」こそが、法的に言うところの「相当な範囲」を形づくる。

相当性とは、難しい法律用語ではない。
怒りをぶつける代わりに、伝え方を選んでいるかどうか。
そこに尽きる。

プロンプトが上手い人は、指導も上手い

AIに良い答えを出してもらうために、私たちは驚くほど丁寧に言葉を選ぶ。
条件を書き、役割を与え、段階を示し、具体的に修正を伝える。

なぜ部下に対しては、それができなくなるのだろう。

プロンプトが上手い人は、相手の能力を引き出す言葉を選べる人だ。
だから、指導も上手い。
そして、ハラスメントが起きにくい。

部下はAIではない。
だからこそ、AI以上に丁寧な「やり方」が今、上司に必要なのだ。


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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。

このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。

職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。

このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。

職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#生成AI
#管理職
#パワハラ

ハラスメントを止めるのは、正義感じゃない。 職場の空気を変える、たった一言。 「ありがとう」が沈黙を壊す理由。

あなたの職場で、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか。
ある上司が、特定の部下にだけ厳しい口調で叱責する。
声のトーンも言葉選びも、明らかに行き過ぎている。
職場の空気が一気に重くなり、周囲は静まり返る。
にもかかわらず、誰も何も言わない。

後になって、周囲の人はこう語ります。
「明らかに問題のある言動だった」
「気づいていた人は、何人もいたはずだ」

それでも、その場では何も言えなかった。
なぜ、分かっていながら声掛けができないのか。
巻き込まれたくないという思いもあって、
ハラスメントが繰り返される職場には、
このような沈黙の場が見受けられます。

人はなぜ、見ているのに動かないのか

多くの人は、こう考えます。
自分が出なくても、誰かが言うだろう。
下手に関わると、面倒なことになるかもしれない。

こうした気持ちが重なり合うと、
全員が見ているのに、誰も止めないという状況が生まれます。
心理学では、この現象を傍観者効果と呼びます。

ここだけは聞いてほしいのですが、
これは個人の性格や勇気の問題ではないという点です。
人が黙っているのは、冷たいからでも、無関心だからでもありません。
その場で、どう振る舞うのが正解なのかを、
職場では誰も知らないし、学んだこともないのです。

それでも、声を上げる人が現れる理由

一方で、同じ職場でも、
「それはおかしいですよ」と言える人が現れることがあります。
その人は、特別に正義感が強いのでしょうか。
生まれつき、勇気のある人なのでしょうか。

近年の心理学研究は、少し違う答えを示しています。
鍵になるのは、意外にも「ありがとう」でした。

感謝を「見るだけ」で、人の行動は変わる

2020年に発表された心理学の研究では、
感謝に「目撃効果」があることが示されました。
誰かが誰かに感謝している場面を、
第三者が見ているだけで、
その第三者の行動が変わるという現象です。

しかも、その変化の方向は、
見て見ぬふりを生む傍観者効果とは真逆でした。

8つの実験が示した、一貫した結果

この研究では、8つの実験が行われています。
感謝のやりとりを目撃した第三者は、
感謝を表した人を信頼できそうだと評価し、
この人と一緒に仕事をしたいと感じ、
実際に、より協力的な行動を取りやすくなりました。

ここで非常に重要なのは、
評価が高まったのが、
感謝された人ではなく、感謝を表した人だった点です。

感謝は、
「私はあなたを大切にします」
「私たちはこの関係を雑に扱いません」
という強いメッセージになります。

それを見た第三者は、無意識に、
「この人がいる場なら、安全に仲間と関われそうだ」
と判断するというのです。

感謝が可視化されている職場では、
人と関わることそのものが正解になる場が形成されます。

ハラスメントが生まれる環境は、「場」が育てる!?

一方で、傍観者効果が支配する場では、
問題が起きても動かないこと、関わらないことが正解になってしまいます。
同じ第三者でも、先ほどとはまるで反対です。

人は、勇気がないからというだけの理由で、黙っているわけではありません。
その場で、どう振る舞うのが正解なのかが、
その状況において分からないだけなのです。

ハラスメントが繰り返される職場は、
傍観者効果が固定化されているように思います。
多くの人が気づいているのに、
誰も何も言わない。

その沈黙が、
「やっても許される」という誤ったメッセージになり、
ハラスメントをエスカレートさせてしまうことになりかねません。

反対に、
感謝や敬意が日常的に交わされている職場では、
きつい叱責や威圧的な態度は、自然と浮いた存在になります。
そのような雑な関わり方は、この職場に合っていない。

そう感じさせる「場の力」そのものが、
ハラスメントの抑止力になると私は思います。

モノが言える空気をつくる有効なツールが「ありがとう」

私たちは、「ありがとう」と伝え合うことをマナーとして教わってきました。
お互いに感謝を伝えるために、
サンクスカードや社内の仮想通貨的なポイントとして、
相互に送り合う仕組みを取り入れている企業も増えています。

しかし、この研究結果を踏まえると、
感謝はそれ以上の意味を持っています。

感謝は、
個人の美徳だけではなく、
組織の「場」を設計するツール
と言ってもいいでしょう。

いざというときに人が動かなくなるのは、
その人が冷たいからでは決してありません。
「気になったら、動いていい」
「気が付いたら、関わっていい」
そう感じられる場がないからです。

ルールや罰則だけでは、
ハラスメントを防止することはできません。
大切なのは、
この職場では、
どんな関わり方が正解なのかを、
モノが言える空気として示すことです。

その場を設計するためのピースの一つが、
「ありがとう」という一言なのです。

おわりに

さまざまな角度から「感謝」に秘められたパワフルさと奥深さをご紹介し、
考察してきたシリーズ記事は、本記事が最終回です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本シリーズを通してお伝えしたかったのは、
感謝は単なるマナーや気分の問題ではなく、
人の行動や、組織の場そのものを静かに書き換える力を持つ、
という事実です。

次回は、また別の切り口から、
ハラスメントについて考えていきたいと思います。

参考文献

本稿で引用した研究論文
Algoe, S. B., Dwyer, P. C., Younge, A., & Oveis, C. (2020).
A new perspective on the social functions of emotions: Gratitude and the witnessing effect.
Journal of Personality and Social Psychology, 119(1), 40–74.

参考図書
『THANKFULNESS 感謝脳』
樺沢紫苑・田代政貴 著/飛鳥新社
※本稿は、上記の海外学術論文を一次資料として参照し、
その知見をもとに筆者の視点で再構成したものです。
感謝の効果や日常での実践方法については、
一般向けの解説として上記書籍も参考になります。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

その一言が、未来の脳を変える ― パワハラが、認知症のリスクになる!?私たちが〝ポジティブな言葉〟を選ぶべき理由

パワハラはよくない。ポジティブな言葉が大事。そんなことは誰も頭ではわかっています。また「ポジティブ」かよ、そう思った方もいるかもしれません。

暴言や批判的な言葉を浴びせられた人は、心身に大きなダメージを受けることも、あなたもお分りでしょう。しかし、それだけではないのです。

パワハラは、被害者以外の人にとっても悪影響があります。実は、加害者本人にとっても健康上のリスクが大きいのです。今回は、それを裏付ける興味深い研究結果を2つ紹介します。

パワハラ加害者に共通する「ある態度」

ハラスメントの相談を受けていると、パワハラの加害側とされる人の言動には、ある共通点が見られます。

  • 部下を見下す
  • 相手の努力を評価しない
  • 会話が常に否定から始まる
  • 信頼よりも疑いが先に立つ
  • 皮肉や攻撃がコミュニケーションの軸になっている

多くが「誰も信用できない」「今の若いヤツには、どうせできるはずがない」と相手を信用しない人。「だからダメなんだ」「お前は何もわかっていない」などと否定から入る人。あなたの職場にも思い当たる方が実際にいるかもしれません。

【研究①】パワハラをする人は、認知症リスクが約3倍に

フィンランドで、ある研究が行われました。平均年齢71歳の高齢者を対象に「どれほど他者を信用できるか」を調べ、8年以上健康状態を追跡したのです。

「人は利己的だ」「誰かを信頼するのは危険だ」というような態度を、研究者は「シニカル不信(cynical distrust)」と呼びます。

調査の結果、シニカル不信が最も強いグループの人たちは、そうでない人と比べて認知症の発症リスクが約3倍になることがわかりました。

この「不信」は、パワハラ言動そのものである

ここで注目すべきは、この「シニカル不信」という態度が、まさにパワハラ加害者に見られる特徴と重なるということです。

「部下を信用しない」「相手の努力を評価しない」「否定から入る」——これらはすべて、他者への不信から生まれる言動です。つまり、パワハラ言動の根底にある「不信」が、将来の認知症リスクを高めているのです。

なぜ「不信」が認知症につながるのか

その理由は3つあります。

慢性的なストレス状態になる

批判や不信は、脳を戦闘モードにします。コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰分泌が、記憶を司る海馬を萎縮させるのです。

孤立しやすい

批判や攻撃ばかりする人の周りからは、人が離れていきます。その結果、人との会話や交流が減り、認知症リスクが高まります。

思考が硬直化する

否定ばかりしていると、脳は柔軟性を失い、新しい考えを受け入れず、変化に対応できなくなります。

相手を信用せず、否定から入る。あたかもパワハラの引き金になるような、そういった言動を続けていると、将来認知症になるリスクが高まってしまうのです。

【研究②】「我慢すればいい」は本当に間違いだった

脳科学が教えてくれたパワハラ言動が脳に残す痕跡

2つ目の研究は、オランダ・ユトレヒト大学の「人は侮辱的な言葉に慣れるのか」を実証したものです。科学が、パワハラ言動の影響を解き明かしたとも読み取れるのです。

この研究では、侮辱的な言葉を提示されたとき、私たちの脳がどのような反応をするかを調べています。具体的には、参加者に3種類の文を9回ずつ提示し、声に出して読んでもらいました。

  • 1種類目は、「〇〇はバカだ」などの侮辱の言葉
  • 2種類目は、「〇〇は天使だ」などのほめ言葉
  • 3種類目は、「〇〇は学生だ」といった中立的な言葉

侮辱の言葉は、わずか0.2秒で脳を直撃する

結果は、驚くべきものでした。

侮辱の言葉が出てきた瞬間、脳はわずか約0.2秒後に、強烈な注意反応を示したのです。言葉は、直接脳に0.2秒という反射領域で届くのです。この反応は中立的な言葉よりも強く、ほめ言葉に比べると圧倒的に強いものでした。

この速さでは、身体が避ける間もないし、構える心の余裕もない。不意打ち以外の何物でもない。ハラスメント研修などで「言葉の暴力」を軽視してはいけない大きな根拠になると私は思います。

言い換えると、「たった0.2秒で届く侮辱に、人は慣れるのか?」という問いに対する1つの明確な答えでしょう。

慣れない。脳が、慣れさせてくれないのです。

だからこそ、私たちは言葉を慎重に使う必要があり、パワハラ言動が蔓延する組織は、ただちに健全性を失っていくのです。

何度繰り返されても、脳は侮辱の言葉に反応し続ける

そして、この反応は9回繰り返しても弱まることはありませんでした。つまり、ネガティブな言葉は、何度繰り返されても慣れることはないのです。

例えば、「バカ」「最低」「クズ」などの言葉は、脳にとって「危険語」として処理され、反射的に注意を引きつけてしまうのです。

脳の構造上、人は「バカ」「最低」「クズ」などの言葉に、”慣れる”ことはないんです。

衝撃の事実:侮辱の言葉は「誰宛か」に関係なく脳にダメージを与える

さらに注目したいのは、侮辱の言葉が「自分に向けられたものか」「他人に向けられたものか」に関わらず、脳波にはほぼ同じ反応が現れたということです。

つまり、脳は、「主語」に関係なく、侮辱の言葉自体に強く反応するのです。

脳科学が解明!職場の誰かのパワハラ言動は働く全員の脳を蝕む

この研究からわかることは、侮辱の言葉は、それをぶつけられた人だけでなく、周りにいる人たちにも悪影響を与えるということです。

たとえば、「上司が部下を怒鳴っているのを聞いている」だけ、「同僚が誰かを強く否定している場にいる」だけでも、嫌な気持ちになるだけではなく、脳にダメージを受けてしまうのです。

侮辱が「自分宛」か「他人宛」かは、脳への反応にほぼ関係ないのです。


「関係ないから」は、もう通用しない

よく職場で、仲がいいことを理由に「バカ、デブ、クソ」とまるで中学生のようにふざけている大人が職場にいます。周囲からみたら、その幼稚な言動に呆れかえるならまだしも、その言動の一つ、ひとつの言葉が、誰の脳に影響を与えているか考えたことはあるでしょうか?

「誰にも迷惑をかけている訳ではないから、関係ない」この言い訳はもう通用しないのです。

この実験から分かるように、「第三者だから傷つかない」という、一般的な前提を完全に否定しています。私たちは、他人への暴言であっても、大なり小なり、脳レベルでは自動的にショックを受けていることを、もっと多くの人は知るべきです。

だから、こそ、職場でのパワハラを本気で撲滅しないと、職場のメンバーの身体に悪影響が出るのです。だから「関係性が大事」と言われるのは理由があり、単なるスローガンではないのです。

そこまで説明しても分からないような幼稚な大人がいる事実と、この実験結果の真実、つまり、**「侮辱は、聞いているだけの第三者にも影響を与えるという事実」**を私たちは、真剣に受け止めなければなりません。

つまり、職場でのパワハラ発言が「第三者の人」のメンタルやパフォーマンスを下げる理由が、脳科学的に説明できる。

「昔は普通だった」も、脳科学の前では無意味

また、定番の「昔はこれくらい普通だった」「厳しい言葉で育てるのが愛なんだ」といった、昭和的な考え方は、脳の反応レベルでは成立しない。

パワハラ言動はどの時代、どの職場風土でも、脳にとって強制的な”危険刺激”でしかないのである。

侮辱する本人の脳も、ダメージを受けている

さらに、侮辱の言葉を発している本人の脳にもダメージを与えるのです。他人を侮辱することで、自分が侮辱されているのと同じ悪影響を受けてしまうのです。

また、ネガティブ思考の人は、ポジティブ思考の人に比べて寿命が平均10年ほど短いという研究もあります。

自分自身のためにも、ポジティブな言葉を選ぼう

だからこそ、私たちはもっとポジティブな言葉を選ぶことが大事ではないでしょうか。

それは、パワハラを防止することが、周囲の人のためになるだけでなく、「健康経営」を会社が本気で謳うならば、自分自身と仲間の健康につながることも知って欲しいと思ったのです。

パワハラは、職場だけではなく、自分の脳も壊すかもしれない。

周りの大切な誰かのために。

批判より信頼を、

攻撃より対話を

少しずつでいい。

その小さな変化が、脳の未来を変えていく。

今日のあなたの言葉が、未来のあなたの脳と、明るい組織の未来をつくる。

そう、ココロのなかで願いながら、今日も講義にでるのです。

参考文献

• Van Berkum, J. J. A., Smit, M., & De Meulder, H. (2022).
Do People Get Used to Insulting Language? Frontiers in Communication, 7, 910023.

• Neuvonen, E., Rusanen, M., Solomon, A., Ngandu, T., Laatikainen, T., Soininen, H., & Tolppanen, A.-M. (2014).
Late-life cynical distrust, risk of incident dementia, and mortality in a population-based cohort.
DeSteno, D., et al. (2014). The Grateful Don’t Cheat: Gratitude as a Fount of Virtue. Psychological Science.

参考図書

『THANKFULNESS 感謝脳』(樺沢紫苑・田代政貴 著/飛鳥新社)

※本稿は、上記の海外学術論文を一次資料として参照し、その知見をもとに筆者の視点で再構成したものである。

なお、ポジティブの言葉の効果や日常での実践方法については、一般向けの解説として上記書籍も参考になる。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
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職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

ルールだけでは、人は正しくならない ― 不正は、ルールでは止まらない。「ありがとう」が人の判断を変える理由

「これくらいならバレないだろう」
「忙しいし、面倒な作業を省いてもいいか」
「評価に関わるから、少しくらい盛っても…」

こうした”小さな不正”が積み重なると、組織の信頼は簡単に失われます。

どうやって人の誠実さを支え、倫理観を育てられるのか。これは長年のテーマであり、経営者にとって、「どうすれば不正を防げるのか」「どうすればエンゲージメントが高まるのか」大きな経営課題のひとつです。

多くの企業が選ぶ対策は、こうです。
・ルールを厳しくする
・監視を強める
・罰則を明確にする

どれも、不正を防ぐために必要な対策です。ただ、それだけでは人の行動が変わらないのもまた現実です。

感謝の気持ちは、不正行為を減らす

そんなとき、ある心理学の論文に出合いました。

アメリカ・ノースイースタン大学のDavid DeStenoらのチームが発表した論文「The Grateful Don’t Cheat: Gratitude as a Fount of Virtue」。

論文のタイトルを直訳すると、「感謝する人はズルをしない」。

その名の通り、驚くほどシンプルで、しかし深い示唆を持っています。

これまでは、感謝というと、助けてもらったらお返しをする、人間関係が円滑になる、といった「返礼行動」の文脈で語られることが多かったと思います。

ところがこの研究では、感謝にはもう一つ重要な働きがあると示されています。

それが、誘惑に負けにくくなる(自己コントロールが高まる) という点です。

不正というのは、多くの場合「悪意」も当然ですが、本当は間違っていると分かっているのに、誘惑に負けてつい手を出したり、自己の利益に流されることから起こることも多いものです。

「これくらい、バレないだろう」

「今回だけならいいか」

「自分だけが損をしている気がする」

そう思ったとき、不正を踏みとどまれるかどうか。その自己コントロール力に、感謝の感情が関わっているのです。
もう少し具体的に見ていきましょう。

実験から見えた、はっきりとした差

研究では、大学生を対象に「ズルをしようと思えばできる状況」を意図的につくりました。

「10分で終わる楽な課題」と、「45分かかる難しい課題」を用意して、どちらをやるかは仮想のコイン投げ装置で「ランダムに決まる」と説明しました。

実は、この装置は必ず45分の課題が出るように細工されています。つまり、短い課題を選んだ人は「ズルをした」ということがわかるのです。

結果は、驚くほど明確でした。

感謝の感情を喚起された人たちの不正率は2% と、ほとんどの人が不正をしなかったのです。

一方で、幸福の気持ちを喚起された人たちの不正率は16%。中立のグループの不正率は、17% でした。

「感謝」も「幸福」もポジティブな感情ですが、幸福感では不正は減りませんでした。これは、私にとって非常に興味深いポイントでした。

匿名の環境でも、感謝は効いていた

さらに研究チームは、オンライン上の匿名環境でも同様の実験を行っています。

顔も名前も分からない、誰にも見られていない状況でも、「感謝」を感じていた人たちは、不正をしにくいことがわかりました。

不正をしないのは、監視されているからではなかったのです。

また、どちらの実験でも、感謝の度合いが高い人ほど、正直に振る舞う確率が高くなることもわかりました。

なぜ感謝が、不正を遠ざけるのか

研究者たちは、感謝が「道徳規範を思い出させる」というトップダウン型の制御ではなく、「価値判断そのものを変える」ボトムアップ型の働きをしている、と説明しています。

感謝を感じている人は、「自分には居場所がある」「自分は支えられている」という意識を持ちます。

すると、「ズルをして得をする」という短絡的なメリットが魅力的に見えなくなり、長期的で倫理的な選択をしやすくなるのです。
これは、ルールで縛るのとはまったく違うアプローチといえますね。

不正が起きやすい組織の空気とは

研究からわかることは、「感謝が根づいた組織では、倫理が自然と底上げされる」 ということです。
不正が起きやすい組織には、共通する空気があります。

・余裕がない
・孤独感がある
・不信感がある
・自己肯定感が低い

こうした状態では、人はどうしても「ズルをして得をしよう」という短期的な判断に流されてしまいがちです。

一方で、お互いに感謝する文化がある組織では次のようなことが起こります。

・人間関係が安定する
・自己コントロールが保たれる
・正直であることのコストが下がる

このような状況で、人は長期的で倫理的な判断をすることができるようになるのです。

つまり、「感謝」→「自己コントロール向上」→「不正が心理的に魅力を失う」 という流れが起きているのです。

これは、罰則や注意喚起のような”外からの監視”ではなく、「本人の内側で価値判断が変わっている」 という点で、ビジネス現場でも非常に重要な意味を持ちます。

つまり、感謝は、”価値判断そのもの”を変える。
・不正のメリットが小さく見える
・正直に振る舞うことが自然に感じられる
・短期的利益より長期的な関係維持の価値が際立つ

という”内的な変化”が起こるのです。
これは、罰則や監視のような「コントロール型アプローチ」とは根本的に異なります。

罰則:「やったらダメだ」
監視:「見られている」
感謝:「ズルする必要がない」

この違いは非常に大きい。

管理や統制ではなく、個人の内部にある”倫理のエンジン”を回す感情。それがどうやら、感謝なんです。

「感謝しよう」のスローガンでは効果は薄い

では、感謝の文化はどのようにつくればいいのでしょうか。

感謝は、制度やスローガンで強制すると、たいてい形骸化します。

「感謝カードを書きなさい」
「『ありがとう』の言葉を言いましょう」

これだけで、感謝の文化が自然に育つとは思えません。

制度やスローガンをつくることよりも大事なのは、一人ひとり(特に管理職の人)が言葉と行動で示すこと だと私は思います。

・上司自身が感謝を(想って)口にする
・上司が部下に具体的な感謝を伝える「習慣」をつくる
・結果だけでなく、過程や姿勢を評価する
・相談や失敗が許される空気をつくる(あえて、心理的安全とか言わない(笑))

ただし、注意点があります。
感謝は”させる”ものではなく、”育つ”もの。

・感謝カードのノルマ化している会社
・感謝表彰の乱発
・感謝を強制する文化

これらは感謝が「業務」となり、全くの逆効果になることは言うまでもありません。

ポイントは、「自然に感謝を感じやすい組織構造」を設計すること。

しかしながら、言うは易く、行うは難し。
時間はかかるかもしれませんが、このような「静かな行動変容」が、お互いに感謝し合う文化をつくっていくのです。

感謝は、最もコストの低い「不正予防策」

組織の不正を防ぐには、もちろんコンプライアンス教育や監査は欠かせません。ただ、それにはコストも手間もかかります。

一方、感謝することは、ほとんどコストがかかりません。それでいて、人の価値判断そのものに作用します。

不正を防ぐだけでなく、組織への帰属意識を高め、離職率を下げる効果があることもわかっています。

組織に感謝の風土をつくることが、これからの倫理施策のスタンダードになっていくと私は思います。

そのためにできることは、まずは、小さなことにも「ありがとう」と感謝することです。

そのときに、ここだけは押さえて欲しいのですが、”ありがとう”ではなく”何にありがとうなのか”を必ず添えることです。

このことで、この「具体性がプラスの感情を生み出す」ことを知っておいてください。

感謝こそが、強い組織をつくる。

感謝は、人を誠実にします。誠実な人は、誘惑に負けにくいため、結果的に不正行為は確実に減少傾向に。

ポジティブな感情の中でも、幸福と感謝はまったく違う働きをします。

幸福:気分が良くなる
感謝:価値判断が変わる(行動が変わる)

この違いを理解したうえで、私たちは組織に「感謝が生まれる仕組み」を浸透させる必要があるのかもしれません。

それは、単なる優しさや道徳ではありません。

組織の信頼性を守り、コンプライアンス意識を高め、長期的に健全な文化をつくるための”科学的な方法”です。

あなたの会社では、今日、誰に感謝を伝えられますか?
その一言が、組織のコンプライアンス意識を高める最初の一歩になるかもしれません。

参考文献(Research)
DeSteno, D., et al. (2014). The Grateful Don’t Cheat: Gratitude as a Fount of Virtue. Psychological Science.
参考図書(Further Reading)

『THANKFULNESS 感謝脳』(樺沢紫苑・田代政貴 著/飛鳥新社)
※本稿は、上記の海外学術論文を一次資料として参照し、その知見をもとに筆者の視点で再構成したものである。
なお、「感謝」の効果や日常での実践方法については、一般向けの解説として上記書籍も参考になる。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
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#管理職
#マネジメント
#ハラスメント

怒りの原因は、部下じゃなく栄養かもしれない ― パワハラ上司は野菜不足!?

 最近、おもしろい本を読みました。内藤誼人さんの『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』という本です。スタンフォード、ハーバード、イェールといった大学の心理学研究をわかりやすくまとめた一冊で、人を理解するうえで、非常に参考になる内容です。

その中で、特に印象に残った研究があります。 それは、「キレやすいのは栄養不足が原因」というものです。

栄養が足りないと、人は攻撃的になる?

 イギリス・サリー大学の研究者ベルナルド・ゲッシュ氏が行なった実験があります。囚人231人を2つのグループに分け、半数には栄養バランスのとれたサプリメントを、もう半数には「サプリメント」と偽って、何の栄養もない錠剤を142日間飲んでもらいました。

すると驚くべきことに、栄養を補ったグループでは「暴力」や「命令への不服従」といった行動が35.1%減少したのです。一方、栄養を補わなかったグループでは、わずか6.7%しか減らなかったそうです。

つまり、きちんと栄養をとることで、人の気持ちは穏やかになるということ。 逆に、栄養が不足していると、イライラしたり、攻撃的になったりする可能性があるということです。

「パワハラ上司」が生まれる理由は食生活の乱れ!?

  私たちの会社でも、ハラスメント研修を行う中で、「なぜ人は他人にきつく当たってしまうのか」という根本的なテーマをよく話します。 もちろん、その方の性格も関係しますが、一方で、「食生活の乱れ」が潜んでいるかもしれません。

 「なんだか最近イライラするな」と感じたとき、あなたはどうしていますか? 原因を部下や職場のせいにする前に、まずは「自分の栄養状態を見直す」ことも大切です。ビタミンやミネラルを含む野菜や果物をしっかり摂ることで、思考が穏やかになり、人への対応に余裕が生まれるようなんです。

イライラしている人ほど、野菜を食べない

  書籍によると、おもしろいことに、コーネル大学とリーズ大学の研究では、ストレスが多い人ほど野菜やフルーツの摂取量が少ないという結果も出ています。
つまり、イライラしているときほど、つい甘いものや脂っこい食事に手を伸ばしてしまう。けれど、それがまた心を不安定にして、イライラしやすくなる。まさに悪循環です。

「じゃあ、何を食べればいいの?」

 栄養に関する情報はたくさんありますが、研究で効果が確認されているのは、ビタミンやミネラルなどの栄養素です。特に以下のような食材を意識して摂ることがおすすめです。
 

◎ 緑黄色野菜 ほうれん草、ブロッコリー、にんじんなど。ビタミンB群やマグネシウムが豊富で、神経の働きを整えてくれます。

◎ 果物 バナナ、りんご、ベリー類など。ビタミンCやカリウムが、ストレス対策に役立ちます。
◎ ナッツ類 アーモンドやくるみ。マグネシウムや良質な脂質が心を落ち着かせます。
◎ 青魚 サバ、イワシなど。オメガ3脂肪酸が脳の健康をサポートします。

忙しい人でもできる工夫 「毎日バランスよく料理するのは難しい…」という方も多いでしょう。

そんなときは、
• コンビニのサラダやカット野菜を活用する

• 果物は、なるべくそのまま食べる
 (スムージーよりも糖質が少ない)

• ランチに定食を選んで、小鉢を一品増やす

といった小さな工夫から始めてみてください。

栄養は「人間関係の土台」

 人間関係のトラブルやハラスメントの背景には、心理的・社会的要因だけでなく、身体的な要因も疑ってみてはいかがでしょう?「心と体はつながっている」という言葉は、まさにその通りですから。

社員のメンタルケアを考えるうえでも、食事や睡眠、運動といった「生活習慣の土台」を整えることは、非常に重要です。

もし、あなたの周りに、いつもピリピリしている上司や同僚がいたら、、、、
もしかしたら、「野菜が足りない」のかもしれません。

ピリピリしても、いなくても、健康の為に、あなたも 明日から試してみませんか?


世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100 総合法制出版 著 内藤 誼人 

2021年9月21日出版 是非、お読みください!!

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
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しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
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#上司
#マネジメント
#パワハラ

いちばん厳しい上司は、自分の中にいる ― 自分で自分にパワハラする人たち

あなたの中に「ブラック上司」はいませんか?

「なんでこんなこともできないんだ?」
「またミスした…本当に使えないな」
「もっと頑張らないと。こんなんじゃ甘えてる」

誰かに責められているわけではない。なのに、脳内で繰り返されるこの暴言。
まるでブラック上司のように、自分自身を追い詰めてしまう。

そんな「自分責めの習慣」に、心当たりはないでしょうか。
私はこれを、「自己パワハラ」と呼んでいます。

自己パワハラが生み出す「負のスパイラル」

自分を責め続けると、やがてこう思い始めます。

「自分は嫌われる存在だ」
「好きになってもらえるはずがない」
「自分には価値がない」

この思考パターンは、職場での振る舞いにも影響します。過度に遠慮する、意見を言えない、評価を素直に受け取れない。結果として、本来のパフォーマンスが発揮できなくなるのです。

冷静に考えてほしい、この事実

少し過激な言い方をします。

あなたが亡くなって一年も経てば、ほとんどの人間関係は忘れ去られるでしょう。職場での評価も、あの日のミスも、すべて記憶から消えていきます。
そして、あなたの頭の中で繰り返されている自己批判の声も、あなたが死を迎えた瞬間、削除されたデータのように完全に消去されます。

だからこそ、今考えるべきは「自分にパワハラする思考を、どう手放すか」ではないでしょうか。限られた人生を、自分を責めることに使うわけにはいきません。

自己パワハラの「損益計算書」


冷静に分析してみましょう。
自分にパワハラしても

• 給料は上がらない
• 評価が良くなるわけでもない
• スキルが向上するわけでもない
• むしろ、メンタルが削られパフォーマンスは下がる

さらに言えば、自分を責めている人は、他人からも避けられやすくなります。

なぜなら、自己否定の強い人は、無意識に周囲にもネガティブな空気を広げてしまうからです。「この人といると疲れる」と思われてしまうのです。

結論はシンプルです。自己パワハラは、百害あって一利なし。

Well-beingを削る「内なる攻撃」

「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉をご存知でしょうか。

これは単なる健康ではなく、身体的・精神的・社会的に満たされている状態を指します。今、多くの企業や経営者が注目している概念です。

しかし、いくら会社が働き方改革を進めても、あなた自身が「責めグセ」から抜け出せなければ、真のWell-beingは手に入りません。

自己パワハラの強い人には、こんな特徴が見られます:

• 成果を出しても、満足できない
• 人の目や評価に敏感すぎて疲弊する
• 小さな失敗に過剰に落ち込む
• 褒められても、素直に受け取れない

これらはすべて、内側からWell-beingを削る「見えない攻撃」の影響です。

では、どうすれば自己パワハラをやめられるのか?
答えはシンプルです。「自分に優しくする」「自分を責めない」こと。

しかし、ここで多くの人が直面する壁があります。

自分を変えようとすると、周囲が邪魔をしてくるのです。

「そんな甘いこと言ってるから成長しないんだ」
「自分に優しくする?それって逃げじゃないのか」
特に日本の職場では、まだまだ「厳しさこそ美徳」という価値観が根強く残っています。

だからこそ、自分を変える前に、周囲からの「反論」をかわす技術を身につける必要があるのです。

反論に巻き込まれないための「3つの視点」

視点1:「正しさ」で戦わない

よくある反応:
「それは時代遅れですよ」
「今は自己肯定が当たり前の時代です」


推奨する返し方:
「そういう考え方もありますよね」
「最近は違うアプローチで成果を出す人も増えてきていますね」

“自分が正しい”を主張するのではなく、”多様な価値観がある”と示す。これが対話を続けるコツです。

視点2:相手の不安を理解する

「厳しく育てられてきた」「苦労して乗り越えてきた」
そんな背景を持つ相手にとって、「優しくする・甘やかす」という考えは、自分の努力を否定されているように感じられるのです。

推奨する返し方:
「○○さんのように、厳しい環境を乗り越えてこられた経験には説得力があります」
「だからこそ、私は今、自分なりのやり方を試してみたいと思っています」
一度、相手の過去を認める。すると、こちらの意見も通りやすくなります。

視点3:距離を保つことも「戦略」

すべての人と分かり合う必要はありません。
価値観がどうしても合わない相手には、戦わず・屈せず・巻き込まれずのスタンスで、心理的距離を保つことが重要です。

推奨する返し方:
「ありがとうございます、参考にします」
「私は少し違うやり方を試してみたいと思っています」
これは「受け入れるふり」ではなく、自分のWell-beingを守る知恵です。

ケース別・実践的な対話例

ケース1:「そんな甘い考えじゃ通用しない」と言われたら

「たしかに、甘えと紙一重になることもあるかもしれません。ただ、感情を整えることで集中力や成果が上がった実感があるんです」

ケース2:「俺の若い頃はもっと厳しかった」と言われたら
「そういう環境で成果を出してこられたんですね。今はまた違うやり方で力を引き出す方法もあって、私も模索しているところです」

ケース3:否定ばかりしてくる先輩に巻き込まれたくないとき
「ありがとうございます。少し整理して考えてみたいので、また改めてご相談させてください」

言い返さずに使える「かわし言葉」集

【否定されたとき】
→「そういう考えもありますよね」

【強く指摘されたとき】
→「なるほど、少し違う視点かもしれません」

【自分の立場を守りたいとき】
→「私も今、自分なりのやり方を試しています」

【会話を終わらせたいとき】
→「ありがとうございます、考えてみますね」

ぶつからなくていい、ずらせばいい

「自分を責めないで生きるなんて、甘えじゃないか」
「周囲が厳しいのに、自分だけ楽になっていいのか」

そんなふうに感じることもあるかもしれません。

でも、今はこう考えています。

ぶつからずに”ずらす”という選択こそ、自分を守る知性。

自分のWell-beingを整えることは、結果的に他人へのやさしさにもつながります。メンタルが安定している人の方が、良いパフォーマンスを発揮でき、チームにも貢献できるのですから。

「甘やかし」ではなく「回復力」

「自分を甘やかしていいのか」
「こんな自分を肯定してもいいのか」
そう迷う気持ちもあるでしょう。

しかし、自分に優しくするということは、「回復力(レジリエンス)」を育てることに他なりません。

厳しさ一辺倒で乗り越える時代は、終わりを迎えています。

どうか今日、自分にこう声をかけてみてください。
「よくやってる」
「今の自分も、悪くない」
「今日は、もう十分」

あなたへの問いかけ

今日一日を振り返って、自分にかけた言葉を思い出してみてください。
それは、信頼する部下や同僚にもかけるような言葉でしたか?
もしそれが厳しすぎるものだったなら、明日は少しだけ優しい言葉に変えてみませんか。

「頑張ってるよ」でも、「お疲れさま」でも、「今日もよくやった」でも構いません。
どうか、あなた自身があなたのいちばんの味方でありますように。

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
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ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
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#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

そのノリ、誰かは笑えていない ― 「男同士だから」が最も危ない!学校も職場も同じ。性的いじめ、セクハラを生む「ノリ」の正体。

セクハラ研修の現場で見えてきた「盲点」


近年、セクハラ対策の研修依頼が急増しています。かつては「男性から女性へ」というイメージが強かったセクハラですが、実態は違います。女性から男性、男性から男性、女性から女性——性別を問わず、あらゆる組み合わせでセクハラは発生しています。
特に見過ごされがちなのが、男性から男性への性的いじめ・セクハラです。「同性だから」「ふざけているだけ」という言い訳のもと、深刻な被害が隠されているのです。

NHKが報じた衝撃の実態—閉鎖空間で起きた性的いじめ

2025年7月、NHKで放送された「ザ・ライフ 閉ざされた世界で~男性と性的いじめ~」(NHK福岡放送局制作)は、この問題の深刻さを浮き彫りにしました。
番組が取り上げたのは、東海大学付属福岡高校の男子剣道部で6年前に起きた事件です。当時高校1年生だった男子生徒が、部室で性的いじめの被害を受けました。畳に粘着テープで貼り付けられ、10人ほどの生徒が見ている前で上級生に下着を下ろされ、わいせつな行為を受けたのです。さらにその様子がSNSでさらされるという、極めて陰湿な事件でした。

「悪ふざけ」がエスカレートする構造

男性から男性への性的いじめには、いくつかの特徴があります。
• 集団で行われるケースが多い
• 閉鎖的な空間(部室、寮、男性だけの職場など)で発生
• 「男子校ノリ」「体育会系ノリ」の延長として始まる
• 悪ふざけが次第にエスカレートしていく
番組で取り上げられたケースも、剣道部の部室という閉鎖空間で起きました。被害生徒は剣道をやりたくて推薦で入学し、寮生活を送っていました。逃げ場のない環境だったのです。

加害者に自覚がない恐ろしさ

男性同士のいじめは、「ふざけているつもりだった」「みんなも面白がっていると思った」と軽く捉えられがちです。その結果、加害者側に「いじめをしている」という自覚が生まれにくいのです。
周囲の人間も、その場のノリで笑って見ていたり、見て見ぬふりをしたりします。それが、いじめをさらに助長させます。
「ふざけているつもりだった」「そんなつもりはなかった」
この加害者の言い訳、職場のセクハラ加害者とまったく同じではないでしょうか。

被害者の心に残る、消えない傷

加害者にとってはノリでやっている悪ふざけの延長でも、被害者にとってはまったく違います。性的いじめは、被害者の心を深く傷つけ、トラウマとして残り、命に関わることすらあります。
実際、剣道部で性的いじめを受けた少年は、その後自ら命を絶ってしまいました。彼は上級生からの厳しい指導やいじめについては親に打ち明けていましたが、性的いじめを受けていたことは誰にも話せなかったのです。

「遊びの顔をした性加害」という本質

なぜ男性の集団で性的いじめが起こりやすいのか。番組には、「男性性」と性的いじめの関係に着目して執筆活動をしている清田隆之さんが登場しました。
清田さんがヒアリングしたところ、多くの男性が性的いじめやそれにつながる経験をしているそうです。清田さん自身も中高6年間を男子校で過ごし、男子生徒同士がノリで体を触ったり、服を脱がせたりする光景を目にしてきました。
清田さんは、このような行為を「遊びの顔をした性加害」と表現します。その背景には、「多くの男性が、特有のノリに縛られている」ことがあるといいます。
だから、悪ふざけの延長として行われる性的いじめに対して「嫌だ」と言えない。見ている人たちも「それはおかしい」と声を上げることができないのです。

学生時代だけの問題ではない

男性同士の性的嫌がらせ行為を「仲間内のノリ」として軽く見る傾向は、学生時代だけではありません。社会人の職場でも「男子校ノリ」「体育会系ノリ」は確実に存在します。
学生時代に形成された「ノリに従う文化」が、そのまま職場に持ち込まれているのです。

希望の光—男子校が始めた「男性性」を問う授業

番組で印象的だったのは、京都市にある中高一貫の男子校、洛星高校の取り組みです。同校では5年ほど前から「男らしさについて考える授業」を取り入れています。
授業の一環として、男子同士のノリで起こる性暴力を想定したワークショップが行われています。そのシチュエーションは以下のようなものです。


【ワークショップのシナリオ】
体育の授業後、更衣室で着替えている男子生徒A君を、男子生徒B君がスマホで撮影するふりをして、冗談めかして「LINEでばらまく」と言います。A君の表情は曇っています。
「その場にいるあなたはどうするか」
生徒一人ひとりがこの問いに向き合い、話し合います。


これは、性的いじめやハラスメントにつながる行為を目にしたとき、どう行動するかを学ぶ取り組みです。
居合わせた人が行為者に注意したり、外部の人に協力を求めたりすることで、いじめやハラスメントを回避できることは頭ではわかっています。大切なのは、実際に行動に移すこと。こうしたワークショップは海外の大学や企業で取り入れられ、効果を上げています。

洛星高校は京都大学などの難関大学に多くの学生を送り出している進学校です。将来社会に出て活躍する若者たちが、早い段階で「男性性」と向き合い、性的いじめやハラスメントを回避する方法を学ぶ——この取り組みには大きな意味があります。
大人も見習うべきではないでしょうか。

「正論が通る空気」をどう作るか

たった1人が声を上げるだけでは、ハラスメントを止めることは難しいのが現実です。
しかし、その場にいる全員が「それはおかしい」「やめたほうがいい」と正論を息を吸って吐くように、当然かのごとく言える環境があれば、空気は変わります。
学校でも会社でも、その場のノリに流されたり、同調圧力に屈したりすることなく、「正論」を言える雰囲気を作ることが、性的いじめやハラスメントをなくすことにつながります。

そのために必要なのは「アップデート」

正論がまかり通る教室や職場の空気を作るには、一人ひとりの問題意識のアップデートが必要なのです。
• 「男同士だから大丈夫」という思い込みを疑う
• 傍観者にならず、声を上げる方法
• 組織として「正論が通る文化」を育てる 他
そのアップデートの方法を、当社の研修でご紹介します。

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そんな思いで、このブログを書いています。

#管理職
#マネジメント
#ハラスメント

その善意が、人を追い詰める ― 「令和」の東京、地方へ行くと「江戸時代」?!〜人を追い詰める””善意””のハラスメント〜

「ハラスメント」という概念が社会に浸透し、老若男女問わず「セクハラ」「パワハラ」というワードを聞いたことがない人はほとんどいないでしょう。小学生でも知っている時代です。

ハラスメント問題が難しい側面のひとつに、「する側」が無自覚であるケースや、価値観の対立から生まれることは、すでに多くの方が指摘している通りです。

人は誰しも、自分なりの「常識」や「正しさ」を持っています。それは世代や地域、環境によって異なり、ときにそのズレが相手を深く傷つけ、関係を壊す”ハラスメント”につながることがあります。

とりわけ職場のハラスメント問題を考える際に、私がそのギャップを強く感じるのは、「都市部で暮らす人」と「地方で暮らす人」の間に横たわる価値観の違いです。

地方から女性が消えていく現実

2024年に放送されたNHK「クローズアップ現代」の特集『地方から女性が消えていく⁈ 当事者の本音聞いてみた』(2024年6月17日放送)をご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。

番組によると、2050年までに全国で744の自治体で若年女性の人口が半数以下になり、「最終的には消滅する可能性がある」という衝撃的な推計が発表されたとのこと(「人口戦略会議」より)。

もちろん、この事態に国も自治体も手をこまねいているわけではありません。国は2014年以降、「結婚・出産・子育て」支援のために自治体に交付金を支給しています。国の後押しを受けて、多くの自治体で子育て支援などを充実させています。

それでも20代・30代の女性の流出は止まりません。ある町で婚活イベントを企画したところ、42人の申し込み者のうち、女性はたった5人だったそうです。

「やりがいのある仕事がない」と地元を出る若い世代

この特集を見て、「いやいや、婚活イベントの前に、もっとやることがあるだろう」と言いたくなったのは、私だけではないはずです。

地方から女性たちが出て行くのは、そもそもそこが女性にとって生きにくい社会だからです。「女性には早く結婚して子どもを産んでもらいたい」という「圧」が、女性たちを苦しめていることにどうして気づかないのでしょうか。

番組では、当事者である女性たちの声が紹介されていました。彼女たちが地元を出ていく、あるいは出ていかざるを得ない理由として挙げていたのは以下のようなものです。

  • 「将来のキャリアを描けるような、やりがいのある仕事がない」
  • 「独身や子どもを持たない女性向けの支援がない」

ある女性がおっしゃっていた「東京が令和だとしたら、地方は江戸時代」という例えはとても印象的でした。

江戸時代?決しておおげさではありません。地方へ行くと、いまだに人が集まると、男性が座敷にデンと座って飲み食いする一方で、女性は台所で料理をして配膳をしている…という前時代的な光景をよく見かけます。

女性の足を引っ張るのは女性?

このように地方では、東京ではあり得ない価値観が幅をきかせていることに驚かされます。番組でも、こんな声が紹介されていました。

  • 「営業がやりたいのに、男性の補佐的な仕事しか任されない」
  • 「仕事をがんばりたいのに、早く結婚して子どもを産んで、という文化がある」

こんな不満を、上司にはいいづらいでしょう。

さらに女性たちを追い詰めるのは、前時代的な価値観を押し付けてくるのが男性ばかりではないことです。番組にも、母親や祖母から以下のようなことを言われている20代の女性が登場していました。

  • 「女はそんなに一生懸命働かなくていい、いい人を見つけて早く結婚して」
  • 「女は結婚して子どもを持ってやっと一人前」

悪意はないのかもしれません。けれど、それが”常識”という名の重圧となって、若い世代を静かに追い詰めていると私は思います。

うちの会社は、上司は「お父さん」、部下は「子どもたち」

会社でも同じことが起きています。日本には家族主義的な雰囲気の会社、社員数が少なくいわゆるアットホームな感じを醸し出す組織があります。否定はしませんが、その雰囲気や関係性が行き過ぎることで、ハラスメントの温床になり得るのです。

例えば、上司が「親」、部下が「子ども」といった関係性が暗黙のルールとなり、社内でのコミュニケーションでは以下のような行為が日常茶飯事になることもあります。

  • 「呼び捨て」や「キツイ言動」
  • 「バカにする言動」「見下す言動」
  • 「体型容姿をいじる言動」

また、馴れ合いから、セクハラ的な発言をした方が上司部下の関係性が近くなる、親密な関係になれると勘違いしている組織もいまだにあるのです。

職場は、家族ではない

職場のメンバーは家族ではありません。あくまでチームとして、組織の目標やビジョンを叶えるために縁があって集った、世代も価値観も異なるメンバーの集まりですから、そこに馴れ合いは必要ないのです。

甲子園の夏の高校野球の監督のインタビューを見ていても、昭和世代の監督は生徒のことを「うちの子どもたち」と呼び、無自覚で子ども扱い。令和の監督は「うちの生徒たち」と役割で呼ぶのです。些細なことかもしれませんが、呼び方ひとつで、そのチームの風土や監督の価値観が分かってしまうものです。

「親しき中にも礼儀あり」

こんな当たり前のことを、再確認しなければいけない大人たちに虚しさを覚えます。

価値観をアップデートできない人や組織の末路

結婚や出産に関わらず、「社会の一員として、やりがいのある仕事をしたい」という思いは、男性も女性も変わらないはず。それなのに、家族や地域が足を引っ張り、女性の生き方の幅を狭めているとしたら?そんな社会で「結婚して子どもを産みたい」と考える女性が増えるはずがありません。

時代の変化に合わせて価値観をアップデートすることを拒む人や、そういう人ばかりが幅をきかせる組織は、当然のことながら自然と淘汰されていくのでしょう。これは企業であろうと行政体であろうと同じことです。

ひょっとしたら、あなたの”常識”が、誰かの自由を奪っている可能性があるのかもしれません。

古い価値観にしがみついたまま消えていくか、価値観を今の時代に合わせて生き残るか。選ぶのはあなた自身です。アップデートしない限り、「多様性」も「ダイバーシティ」といった言葉も、虚しく聞こえます。

 社会と職場に蠢く闇の正体とは!?

冒頭「婚活イベントの前に、もっとやるべきことがある」と言いました。『地方から女性たちが出て行くのは、そもそもそこが女性にとって生きにくい社会だからです』

このフレーズを組織に置き換えると、『会社から社員が出ていくのは、そもそもそこが社員にとって働きにくい、居心地の悪い組織だからです』とも言えます。

今も、マタハラ、セクハラ、パワハラなど、国などに寄せられるハラスメントの相談は一向に減りません。ハラスメント問題が職場で起こるメカニズムも、地元を離れる若い世代の話と同様に感じます。この問題の根底に蠢く闇の正体を、今回の番組の特集を通じて垣間見たような気持ちになりました。

あなたは、どちらを選びますか?

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

もう、しごかなくてもいい ― 体育の授業は逃げられなかった。パワハラ上司からは、逃げてもいいですか?

元体育教師の教授がヒャダインさんに反論?

前号に引き続き、SNSで話題になった音楽プロデューサーのヒャダインさんが、体育専門誌『体育科教育』(大修館書店)に寄稿したエッセイを取り上げます。
「僕は体育の授業が大嫌いです。体育の教師も大嫌いです」
というセンセーショナルなフレーズから始まる文章で、旧来の体育の授業のあり方に一石を投じています。

このエッセイが掲載されたのは『体育科教育』2019年3月号です。2024年12月にXで紹介されたことで、改めて注目されました。すると、2025年2月号『体育科教育』の巻頭に、「緊急企画」としてこのような文章が掲載されたのです。
タイトルは、「『僕は体育の授業が大嫌いです』ヒャダインさんのエッセイに対して体育教師が考えること:Xでの反響を受けて」。

「これは読まねば!」と衝動にかられた私は、早速『体育科教育』を取り寄せてました。
この文章を書いたのは、和光大学教授の制野俊弘さん。ご自身も中学校の体育教師としての経験があり、大学で体育教師を目指す学生の指導をされています。まさに体育教師のリーダー的存在の制野さんが、ヒャダインさんのエッセイに対してどのような反論をするのか。私はドキドキしながらページをめくりました。

体育教師を目指す学生が書いた「ヒャダインさんへの手紙」

すると驚くことに、制野さんは文頭で
「これまで多くの体育嫌いを生み出してきた体育教師の1人として、まずは平身低頭で謝罪させていただきます」
と謝っているのです。さらに、
「体育の授業は人間形成において学校教育の中でとり入れなければならないほどの重要や役割をどのへんに秘めているのであろうか」
という、ちびまる子ちゃんのセリフを引用して、
体育という教科を「私たちはどう自分事として引き受けていくのか」と自問しています。

これが体育教師の卵の本音!?

制野さんは、大学の保健体育科教育法の授業でヒャダインさんの記事などを取り上げ、学生たちに「ヒャダインさんへの手紙」を書かせているとのこと。

学生たちは、
「体育が嫌いなのは恥をかかされるからというのは、本当にその通りだと思います」と理解を示しながらも、
「嫌いでもやってみたい、楽しそうだから少し参加してみたいと思えるような場づくりから授業を始めるべき」とか、
「クラスのみんなで授業を行う意味をもっと考えてほしい」とか、
制野さんいわく
「結局は、無邪気な『体育擁護論」に行き着く」のだそうです。

人の価値観は、そう簡単には変わりません。虚しさを漂わせている制野さんに、私はひどく共感を覚えます。

制野さんは、「教科としての体育は本当に必要なのですか。体育は何を教え育てる教科なのですか」と疑問を呈し、
「それを考え抜くことが生涯を懸けた問いであると肝に銘じたい」
と文章を締めくくっています。

学校でも会社でも、唯一絶対の「教育」方法に正解はありません。みんなが正しいと信じていた価値観も、時代とともに変わっていきます。だからこそ、現状に疑問を持ち、考えることを諦めないことが大事なのではないでしょうか?

しごかれなくてもプロになれる。

厳しいスパルタ的指導が想像されるスポーツの世界の指導のありかたはどうでしょうか?2024年に開催されたパリオリンピックでは、ブレイキン、スケートボードといった新しい種目で、10代、20代の日本選手たちが続々とメダルを獲得しました。

想像ですが10代の彼らは、昭和の「しごき」文化を知りません。「しごき」がなくても世界の一流になれることを証明しています。近年、頭角を現しているアスリートの周りには、たくさんの優秀なサポートチームがついています。
コーチング、メンタルトレーニング、メンテナンス、栄養士、チームドクターなど、それぞれの分野の専門家が、デジタル技術を駆使してサポートしているようです。それぞれの役割が明確であり、しかも適切な距離がある。高校野球の世界も昭和の頃とは様変わり。企業でも、社員の育成に「AIによるサポート」が導入されているところもあります。
従来のように「上から下への指導」「いいからやれ」的な一方的な指導はなく、対等な立場で本人の目標や、やりたいことをサポートする。

組織である以上、仕事において上から下への指示が行われるのは自然なことです。
しかし、育成という観点においては、「指導する」よりも「支援する」スタンスの方が、より高い成果を生むことが明らかになってきました。これは、社員育成の新しいスタンダードとして、もはや疑う余地のない発想の転換です。

にもかかわらず、少子化や若手の早期離職、管理職志向の低下、さらには70代・80代の部下の存在といった現実がありながらも、日本の多くの組織は、育成の在り方を大胆に見直す決断ができずにいます。その動きの鈍さには、歯がゆささえ感じます。

これからの時代、私たち一人ひとりが「育成とは何か」を真剣に見つめ直し、未来志向で人に投資できるかどうかが、組織に本気で問われています。
それは働きやすい職場、つまり、パワハラのない職場をつくる覚悟が本気であるかどうか。
その鍵は、私たち一人ひとりの手に委ねられているのです。

※引用はすべて『体育科教育』2025年2月号より

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
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言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
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#上司
#マネジメント
#パワハラ

我慢が当たり前のまま、大人になった ― 体育の授業は逃げられなかった。パワハラ上司からは、逃げてもいいですか?

  

学生の頃、体育の授業が好きでしたか?

「僕は体育の授業が大嫌いです。体育の教師も大嫌いです」
という、思いきった「体育大嫌い宣言」から始まる文章が、SNSで話題になりました。書いたのは、音楽クリエイターのヒャダインさんです。
「頼むからそっとしておいてください」
というタイトルがつけられたこのエッセイは、2019年3月に体育専門誌『体育科教育』(大修館書店)に掲載され、2024年にX(エックス)で紹介されたことで、再び注目されました。

『体育科教育』は、体育の教師向けの専門誌です。
体育の教師を職業に選ぶということは、読者の多くは小さい頃から運動が得意だったのでしょう。体育の授業では、足も速くて球技も鉄棒も難なくこなし、クラスメイトから賞賛を浴びていたはずです。
そんな体育教師たちに向けて、ヒャダインさんは

「なぜあなた達体育教師は、
僕達にクラスメイトの前で恥をかかせようとするのでしょう?」
と問いかけます。

「手本のように上手に出来なくて(中略)バタバタと手足を動かす僕をクラスメイトが笑う」
「自分が圧倒的に足を引っ張ったせいで、気まずい雰囲気になったバスケの授業は今でも思い出します」
と、ヒャダインさんは体育の授業を振り返ります。


同じような経験をした人もいるのではないでしょうか?
運動が苦手な人にとって、みんなの前で逆上がりを何度もやらされたり、横並びで走らされたりした経験は、つらい記憶として刻まれています。

みんなの前で恥をかかされることで、運動が苦手な子は、ますます運動が嫌いになってしまう。学校で週に何度も体育の授業が設けられていても、それでは本末転倒。ヒャダインさんは、「体育」と「スポーツ」は同義ではない、としたうえで、
「体育で惨めな目にあうことで、スポーツまで嫌いになります」
と書いています。

もちろん、体育以外の科目が苦手な子もいますが、ほかの科目では体育ほど
「みんなの前で恥をかかされる」
場面は少ないといえます。算数の授業で、算数が苦手な生徒を黒板の前に立たせて、みんなの前でわからない問題を何度も解かせるなんてことは、まずあり得ませんよね。

上から目線の指導に「NO!」

このエッセイがXで紹介されると、多くの共感の声が寄せられました。
ヒャダインさんのエッセイがここまで注目された理由のひとつは、運動が苦手で、体育の授業で同じような経験をした人が大勢いるから。もうひとつは、このような声を上げる人が、これまであまりいなかったからかもしれません。

学校を卒業すれば、ほとんどの人は体育の授業からも解放されます。大人になれば、逆上がりができなくても、跳び箱が跳べなくても、人前で恥をかくことはありません。

「学校の体育の授業、いやだったな」
という思い出はそっと胸にしまわれて、普段は思い出すこともなくなります。

しかし、一方で職場には、跳び箱という名の「ノルマ」や「利益のプレッシャー」から逃れられない状況が厳然としてあります。
職場では「今日休みます!」と職場の隅っこで「見学」は出来ないのですから。

ヒャダインさんのエッセイが掲載された号のテーマは、
「運動が苦手な子どもが輝く授業をつくろう!」
というものです。ヒャダインさんはこのテーマに触れ、
「『運動が得意な子は輝いている』と思ってるってことですよね? 上から目線の差別意識丸出しじゃないですか」
と書いています。

そう、これは「体育の授業」だけの問題ではありません。体育の授業で教師が
「よかれと思って」
生徒に押しつけていた価値観に、ヒャダインさんと彼のエッセイに賛同する多くの人が
「NO」
を突きつけたのです。

「今日の仕事は、楽しみですか?」

この「よかれと思って」を想起させる、非常に印象的な出来事が、
4年前の2021年、ある駅の大型ビジョンに現れた広告メッセージです。

一見ポジティブにも思えるその問いかけは、瞬く間に物議を醸しました。
「仕事を楽しめない人を責めているようだ」「これはディストピア」「仕事は楽しめなければいけないのか?」そんな声がSNS上にあふれ、大炎上。

よかれと思った「善意」のこの言葉は“楽しい”という価値観を押しつけるものと受け取られ、結果として、その広告はわずか1日で取り下げられることとなりました。「仕事は楽しいと思う人からの上から目線?」の差別意識と感じた人がいたのかもしれません。

この出来事は、どこかで見たような光景にも思えます。
教師が「よかれと思って」生徒に押しつけていた価値観「みんなでやるのが楽しいはず」「頑張ればできるはず」「苦手でも全力で取り組むべき」
そんな“正しさ”が、知らず知らずのうちに誰かを置き去りにしていた。

あの広告に感じた違和感は、ヒャダインさんの投稿とどこか重なるのです。

見直される「指導」「教育」のありかた

「できないヤツは、人前で恥をかかされても当然だ」
「悔しかったら、できるようになるまで努力するべき」
このような価値観が、いまだにまかり通っている組織はまだまだあるのではないでしょうか。
ミスをした部下をみんなの前で叱責する上司や、後輩に「やる気を出せ!」などと根性論をふりかざす上司・先輩は、令和の今でもいますよね。

もちろん、体育会系の人のやり方や考え方が、すべて間違っているとはいいません。スポーツに打ち込んできた人が持つ行動力や協調性は、社会で求められる資質といえるでしょう。

しかし、行き過ぎた「しごき」や「根性論」は、むしろ部下や後輩のモチベーションを下げてしまい、逆効果になります。学校の体育の授業と同じように、会社でも「指導」や「教育」という名のもとに、部下が壊れるような指導がゼロではありません。
それらを裏付けるように、パワハラの相談件数が右肩上がりであり、パワハラによる精神疾患に起因する労災認定が増加傾向にあります。

一方で、その指導のありかたが、今、本気で見直されているのです。

ヒャダインさんのエッセイは、改めて、パワハラを意識している、私たち働く大人たちにも、そのことに気づかせてくれたのではないかと私は思います。

※引用はすべて『体育教育』2019年3月号より

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ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
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アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
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職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

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