「職場コミュニケーション」カテゴリーアーカイブ

「任せない上司」が、組織を壊す。ホワイトハラスメントの本当の正体

クリーンな職場の、静かな異変

「また、新しい言葉が増えたのか」

ネットで見かけた「ホワイトハラスメント」という文字に、
私は一瞬、ノートパソコンを閉じそうになりました。
ハラスメントのインフレ。
そんな言葉が浮かぶほど、今の世の中はレッテル貼りに
躍起になっているように見えたからです。

けれど、読み進めるうちに、心のどこかにあった違和感の正体が
形を成していくのを感じました。
それは、「良かれと思って言わないこと」が、実は相手のためではなく、
自分を守るための壁になっていないか、という問いです。
過剰な遠慮が成長を阻み、関わらないことが孤立を生む。

「何を言うか」と同じくらい、「何を言わないか」が組織の体温を
奪っているのではないか。

いや、でも、本当に問題はそこにあるのか?

皆さんと一緒にこの問題を考えたく、再びパソコンに向き合いました。
それを確かめるために、まずこの数字を見てください。

中途入社1年以内の社員の56.9%がこの言葉を認知し、13.6%が実際に経験しています。さらに、その経験者の71.4%が「1年以内に転職したい」と回答しています。
出典:マイナビ「中途入社1年以内の社員に聞いた”ホワイトハラスメント”に関する調査」(2026年4月9日発表、n=1,446名)

これは単なる「優しすぎる職場」の問題ではありません。仕組みの問題です。

「優しいのに苦しい」―これは異常事態です

その「配慮」、本当に相手のためになっていますか

現場で語られている声を見てください。

「先輩が先回りして全部やってしまう」
「責任のある仕事を任せてもらえない」
「仕事が途中でも定時だから帰らされる」

これらはすべて、”配慮”として行われています。
しかし、受け取る側が感じているのは安心ではありません。
自分が必要とされていない感覚です。

ダンベルを取り上げて、何が育つのか

人は、適切な負荷の中でしか成長しません。
筋肉と同じで、壊れない程度の重みがなければ強くなりません。
ホワイトハラスメントとは、部下からダンベルを取り上げ、
「無理しなくていいよ」と言いながら、成長の機会そのものを奪う行為です。
これは優しさではありません。時間差で効いてくるキャリアの破壊です。
みんな正しい。でも、何かが足りない。

語られている。でも、届いていない。

  この問題は、すでにネット上でも議論されています。
現場の声とネット上の議論を4つに類型化すると、以下のようになります。

若手の声:
「このままで大丈夫か」
「怒られないが、正解も教えてもらえない」
「責任ある仕事を任せてもらえない」
「市場価値が上がらない気がする」
“ぬるさ”そのものが、不安になっています。

上司の声:
「何を言ってもリスクになる」
「指導したらパワハラと言われそう」
「言葉選びに疲れた」
「関わらない方が安全」
関与しないことが最適解になっています。

ネット世論:
「甘えではないか」
「贅沢な悩み」
「昔はもっと厳しかった」
「ホワイトの履き違え」
世代論・価値観論に矮小化されています。

専門家の見解:
「心理的安全性の誤解」
「ぬるま湯ではない」
「フィードバック不足」
「評価基準の曖昧さ」
優しさと放任が混同されています。

しかし、それでも何かが決定的に足りないような気がします。
すべて”現象”の説明で止まっているからです。

問題は「優しさ」ではありません

「自己保身」論の限界

よく言われるように、これは「優しすぎる問題」でもあり、
上司の「自己保身」の問題でもあります。確かにそれは正しいです。
しかし、それでもまだ浅いと言えます。

取り違えているのは「責任」の定義です。
本当の問題は、「責任とは何か」を取り違えていることです。

その「報告」、上司は安心できていますか?

「責任を取る」は、実は成立しない
多くの管理職がこう言います。「私が責任を取ります」と。
その言葉には、チームを守ろうとする誠実な気持ちがあります。
それ自体は、大切なことです。

ただ、構造的に見ると少し違う側面があります。
本来の意味での「責任を取る」とは、損失を自分で被ることです。
株式会社という仕組みにおいて、それができるのは株主と投資家だけです。
経営者も管理職も、現場の社員も、損失そのものを引き受けることはできません。
つまり、私たちにできるのは
「責任を取ること」ではなく、
「責任を果たすこと」です。
この違いは、小さいようで決定的です。

2種類の「果たす責任」、あなたはどちらを果たしていますか

「果たす責任」には、2種類あります。
一つ目は、自分に課された仕事をやり遂げること。
役職も年次も関係ありません。これは働くすべての人間が負う、
最低限の責任です。

二つ目が、任された仕事について「上司が安心できる状態を作る」こと。
これをアカウンタビリティといいます。

報連相とアカウンタビリティ、ゴールが違うと気づいていますか?
報連相は、「正しく伝える手段」を教えてくれます。
いつ、何を、どう伝えるか。それ自体はとても大切なことです。

でも、アカウンタビリティが問うのは、その先です。
「伝えた結果、相手は安心できているか」。
手段を守ることと、結果を出すことは、同じではありません。
「一応、報告はしました」
「送りました、伝えました」

それは伝えただけです。

上司がしっかりと受け取ったことを確認して、上司が安心した状態でなければ、
その仕事はまだ終わったとはいえないのです。
報連相は「正しく伝える」。アカウンタビリティは「安心できる状態を作る」
この違いは、小さいようで決定的です。

「任せる・任される」の本質

 「任せる」とは、仕事を渡して終わりにすることではありません。
上司にとって「任せる」とは、部下に仕事を預けることだけではありません。
部下が安心して仕事ができる状態をつくることです。
部下にとって「任される」とは、単に仕事を受けることではありません。
報告とともに、上司が常に安心できる状態を上司に返すことです。
これが、心理的安全の本質です。
つまり、安全な職場とは、上司と部下が一緒につくる環境のことです。

部下は、失敗も成功も隠さず、情報を上げます。
上司は、事実をありのままに受け止めます。
たとえマイナスの情報であっても、人格を否定することはありません。
その安心があるから、情報は正しく流れます。

責任の連鎖が、組織を動かす

  ホワイトハラスメントは、この「任せる・任される」の本質が
互いにわかっていないところから生まれます。
本来、責任の連鎖はこう機能しています。
上司が任せる→部下がアカウンタビリティを果たす→上司が安心できる→
さらに任せる。この循環が、組織を動かしています。

しかし、任せなければその連鎖は最初の段階で止まります。
任せない→部下がアカウンタビリティを果たせない。
負荷をかけない→成長が止まる。
任せないから、正しい情報も上がらない。

見方によっては、アカウンタビリティを果たす機会そのものを
奪っているとも言えます。その結果、責任の連鎖が断ち切られます。

ホワイトハラスメントとは、責任関係の崩壊です。

信頼は「覚悟」でしか生まれない
部下が見ているのは、優しさではないとしたら?

もちろん、任せることには怖さが伴います。失敗させるリスクもあります。
だからこそ、多くの上司が無意識にブレーキをかけます。
しかし、部下が見ているのは優しさではありません。
任せてもらえるかどうかです。

任せない上司は、こういうメッセージを発しています。

「お前にはまだ無理だ」

「私は責任を負いたくない」

この二つは、必ず伝わります。その瞬間、上司はどう見えるか。
覚悟がない。
信頼できない。
プロとして見られない。

そして最後に、静かに去っていきます。

甘さではなく、責任の関係へ

ホワイトハラスメントは、新しい問題ではありません。
もちろん、すべての上司がそうだと言いたいわけではありません。
しかし、この傾向が広がっているのは事実です。
ホワイトハラスメントは、新しいハラスメントではありません。
責任を果たす関係が崩れた結果です。

本来の組織とは何か?
本来の組織とは、必要な指摘ができる、任せることができる、情報が正しく
流れるそんな「責任の連鎖」が機能している状態です。
そこでは、厳しさは暴力やパワハラではありません。機能です。
必要なのは、責任を果たす覚悟です

甘い関係は、もう終わりにしましょう。
必要なのは優しさではありません。
信頼でもありません。責任を果たす覚悟です。
任せるとは、丸投げではないです。責任を分解し、見える形にして渡す。
そして、互いに共有することです。
上司には、任せる覚悟が必要です。
部下には、任された責任を果たす覚悟が必要です。

どちらか一方では、成立しません。
その双方向の関係が機能してはじめて、職場は本当の意味で安全になります。
正しい情報が流れ、人が育ち、組織が動きます。

ホワイトハラスメントに悩んでいる方へ。
問題はあなたの感受性が強すぎるのでも、職場が優しすぎるのでもありません。
「任せる・任される」という関係の本質が、まだ共有されていないだけです。

それは、変えられます。

この記事を書いた人

藤山 晴久

ハラスメント研修企画会議 主宰

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#ホワイトハラスメント
#パワハラ
#責任
#部下指導
#育成

職場の挨拶は、単なる「ビジネスマナー」ではない。—台北で出会った80代女性の教え

最近、日本では「不機嫌ハラスメント(フキハラ)」という言葉をよく耳にするようになりました。

 挨拶をしない、無視をする、不機嫌な態度で周囲を威圧する。忙しい日々の中で、そんな刺々しい空気に息苦しさを感じている人も多いのではないでしょうか。
 実は、企業研修の現場でも「最近、挨拶がない職場が増えている」という声をよく耳にします。

「朝、誰も挨拶をしないんです」
「不機嫌な空気で、声をかけにくい」
そんな悩みを、いくつもの会社で聞いてきました。

 会社の朝、エレベーターで同じ職場の人と乗り合わせても、目を合わせずスマートフォンを見る。挨拶はするけれど、そこに気持ちは乗っていない。そんな光景を、私たちはどこかで見慣れてしまっている気がします。

「なぜ、今の日本人はこれほどまでに挨拶が下手になってしまったのか」

その答えのヒントを、私は出張先の台北のホテルで見つけることになりました。

エレベーターで受け取った、魔法の一言


その日の私は、仕事の緊張と移動の疲れで、少し表情が硬くなっていたかもしれません。朝、ホテルのエレベーターに乗り込むと、そこにはアメリカから来たと思われる、80代くらいの気品ある女性が先に乗っていました。
 目が合った瞬間、彼女はごく自然に、しかし確かな温かさを込めてこう言ったのです。
「I hope you have a good day 」
(あなたが今日、良い一日を過ごせますように)

その一言を受けた瞬間、自分の中に張り詰めていた見えない糸が、ふっと解けるのを感じました。
ただの「Good Morning」よりもずっと深く、私の今日という時間を肯定し、応援してくれるような響き。見ず知らずの私に対して、これほどまでにポジティブなエネルギーを贈れる彼女の豊かさに、私はハットしたのです。

「マナー」としての挨拶、その先にあるもの


 もちろん日本には、言葉にしなくても相手の気持ちを察する文化があります。感情を強く表現するより、空気を壊さないことを大切にする。それもまた、日本人らしい優しさであり、一種の「美学」でもあります。

 しかし、挨拶がただの「型」になったとき、そこから心が抜け落ちてしまいます。そしてその隙間に、不機嫌という空気が入り込むのかもしれません。
 私にとって自由な感情表現は、どこか苦手な分野でもありました。これまでの人生で、挨拶を「間違いのないように行うべきマナー」として捉えすぎていたのかもしれません。

 そもそも、挨拶は正解を競うものでも、義務でこなすものでもありません。本来は、もっと自由に、もっと素直に、自分の心を相手に手渡していいものなのだと気づかされたのです。

 欧米の文化において、ポジティブな言葉を口にすることは、相手へのメッセージであると同時に、自分自身への「宣言」でもあります。
「私はあなたに対して友好的であり、私自身も今日を良い一日にしたい」と明確に言葉に乗せることで、自分の中のスイッチを入れているのです。

心の中で「翻訳」して放つ一言


 私は、日本人が無理に欧米のような表現を真似する必要はないと思っています。職場で「良い一日を!」と日本語で言うのは、やはりまだ少し照れ臭い人も意外に多いものです。

 大切なのは、言葉そのものではなく、その「裏側にある願い」を自覚することではないでしょうか。たとえ口から出るのが、いつもと同じ「おはようございます」であっても、心の中で 「今日も一日、お互い無事で、良い日になりますように」 と翻訳して発してみる。或は、想いを込めて発してみる。

 その小さな「願い」を込めた意図は、必ず声のトーンや表情、空気感となって自然に相手に伝わります。

微笑みの連鎖を、日本へ

 台北を去る最後の朝、私はレストランで毎朝顔を合わせていたスタッフに、自分でも驚くほど自然に、こう言葉をかけていました。

「Thank you. I hope you have a good day」

すると彼は、私の言葉を慈しむようにオウム返しに唱えたあと、
最後には私の手をぎゅっと握りしめ、
満面の笑みでこう言ってくれたのです。

「My pleasure!」

 その手の温もりと、心からの笑顔に触れた瞬間、私は確信しました。
あの日エレベーターで出会った女性から受け取った「ポジティブな種火」が、
今、確実に彼へと手渡されたのだと。
驚きとともに、私の心はこれまでにない温かさで満たされました。

日本の職場を、もっと温かい場所に

 私たちは、「おはよう」や「ありがとう」をあまりにも「義務の言葉」として使いすぎていたのかもしれません。相手をポジティブにする言葉は、巡り巡って自分自身を救います。

 わざわざ英語を使う必要はありません。
明日、隣にいる誰かに、ほんの少しの「願い」を込めた挨拶を届けてみませんか。

その一言が、誰かの、そしてあなた自身の不機嫌を溶かす特効薬になる。
台北の清々しい朝、私の手を握ってくれた彼の笑顔が、何よりの証拠です。

おわりに

 今回の台北出張は、心身ともにハードな瞬間もありましたが、だからこそ普段見過ごしていた「挨拶の温度」に気づかされました。
私自身の備忘録として、そして今、職場の空気に悩む方への一つのヒントになればと思い、綴りました。

挨拶は、ビジネスマナーという義務ではない。お互いを尊重し、応援し合うための最強のツール。パワハラが起きない空気のつくり方。台北にて

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ChatGPTにパワハラを相談してみた。相談窓口担当者は不要!

・出たな、新種め!「。」マルハラ

・「養命酒」が教えてくれたパワハラが起る理由

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

特に「これはパワハラなのか?」という企業現場で最も悩みが多い
ハラスメントのグレーゾーン問題に特化した研修を日本でいち早く企画・提供。
「ハラスメントにおびえて部下指導ができない管理職」を支援することをテーマに、企業研修・講演・執筆活動を行っている。
立教大学経済学部卒
産業カウンセラー

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。

このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。

職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。

このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#挨拶
#台北

その断り方、優しさになっていますか ― 「断れないと悩む社員に教えたい 京都流「NO」の伝え方」

「NO」が言えない本当の理由

職場で、冗談のつもりで言われた一言にモヤッとする。
「これもお願い」「あれもついでに」と雑用を押しつけられる。
そんな経験、ありますよね。

でも、相手に対してはっきり「それは嫌です」「やめてください」と言うのは、簡単 ではありません。人間関係がこじれるかもしれない。職場の空気が悪くなるかもしれない。
そう考えて我慢してしまうのは、あなたが弱いからではないのです。

「NO」を受け入れられない人たちの存在

研修の現場で、私がいつも感じている課題があります。
多くの企業でアサーティブコミュニケーション、つまり「自分の意思をはっきり伝えましょう」という教育が行われています。確かに大切なことです。しかし、それだけでは不十分なケースがあるのです。

なぜなら、相手の「NO」を理解できない人が、一定数存在するからです。
実際に研修後、こんな声を聞くことがあります。

「やめてくださいと言ったら、『俺の言うことが聞けないのか』と言われた」
「『生意気だよ』『もう二度とお前に仕事ふらない』と捨てセリフを吐かれた」

相手が境界線を示しても、それを受け入れられない。
「やめて欲しい」という気持ちよりも、「俺の気持ち」を優先する。
相手が「NO」と伝えているのに、それを無視して、自分の思い通りにしようと押し切ってくる。

こうした言動こそが、職場にハラスメントを浸透させているのです。
もしかすると私たちは、伝え方を学ぶ前に、まず「相手は自分の所有物ではない」という当たり前の境界線を、痛みを伴ってでも再認識するプロセスが必要なのかもしれません。

いきなり「NO」と言うのは、ハードルが高い

  研修をしていると、「断り方がわからない」「角が立たない伝え方を知りたい」という相談をよくいただきます。アサーティブコミュニケーションを学んでも、いきなり正面から「NO」と伝えるのは、やはりハードルが高いという声も多いのです。
そんな方に向けて、今回ご紹介したい一冊があります。『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子著、日経BP)という本です。

  この本では、京都の人ならではの「NOの伝え方」が紹介されています。京都の人は、真正面から「NO」と言いません。たとえ相手にはっきり伝わらなくても、わかる人にはわかる言い方で、距離を取るのだそうです。これは、長く日本の都として敵も味方も受け入れてきた土地だからこそ育まれた知恵なのでしょう。
京都流のコミュニケーションは、職場でも十分に参考になります。
 ただし、そのまま使うというよりも、是非あなたなりに味付けをして、より伝えやすい言葉に変えてみてください。

京都人の「NO」の伝え方 7つのケースから

本書に掲載されている事例から、京都人の「NO」の伝え方を紹介しましょう。

ケース1:それほど親しくない相手から無理な依頼をされたとき。

京都流の返しは、 「いえ、うれしいですけど、ちょっと。もっと合っている方を探しましょうか」
正面から断らなくても、「私は引き受けるつもりはありませんよ」というメッセージが伝わります。

ケース2:パシリのような扱いをされたとき。

「かえって遅なりますえ」 「今からでしたら、明日になりますえ」
急に、無理な仕事を振られそうな場面で、これは使えそうですね。

ケース3:教える義理のない情報を求められたとき。

「それは教えられません!」と突っぱねるのではなく、 「そんなややこしいこと、よう知りませんわ」 「聞いたこと、あらしまへんなあ」
と、あえてとぼける。これも、角を立てずに距離を取る技です。

ケース4:忙しいのに、訪問客がなかなか帰ってくれないとき。

「長いこと付き合わせてすみません。お忙しいのにありがとう」
こう言われると、相手も自然と腰を上げます。ちなみに、京都人は客に帰ってほしいときはぶぶづけ(お茶漬け)を出す、という話を聞きますが、実際にはそんなことはしないそうです。

ケース5:侮辱されたり、ハラスメントを受けたときの秀逸な返し方

私が「なるほど!」と思ったのが、 「私にはいいですけど、ほかの人に同じこと言ったら事件ですよ」
という返し方です。

「私はいいですけど」と一歩引いた姿勢を見せつつ、「事件ですよ」と、冗談では済まされないことを容赦なく伝えています。こう言われたら、「それ、ハラスメントですよ」と指摘されるより、相手に強烈な違和感を残すのではないでしょうか。
ハラスメントをする人ほど、自分の発言を自覚していないものです。答えたくない失礼な質問をされたときは、 「今、~(相手の発言)とおっしゃいました?」
と聞き返すのも有効だそうです。

ケース6:「奥さんとうまくいっていないんだよね」などと言われたとき。

「言いにくおしたら、私から奥さまに言うたげまひょか?」
口調は柔らかいですが、「あなたがつけ入る隙はないですよ」と一線を引いています。
縁を切りたいと思っても、職場の人間関係は、簡単に切れるものではありません。特に相手が上司や取引先であればなおさらです。だからこそ、「優しいけれど隙を見せない」対応が必要になります。

ケース7:名前を間違えられたとき。

「〇〇さん(間違えられた名前)は、今、外出していると思いますよ」
これもいいですね。相手の間違いを指摘しつつ、場の空気は壊しません。小さな笑いを起こす効果もあります。私も藤田さん、藤本さん、とさんざん間違えられてきましたので、最近は何とも思いませんが(笑)

京都人の基本にある三つの型

本書では、京都人のコミュニケーションの基本として、 「挨拶」「クギを刺す」「断る」という3つのパターンが紹介されています。

たとえば挨拶の 「どこお行きやすの?」
これは行き先を聞いているわけではありません。「私は敵ではありませんよ」というサインを送っているのです。こう聞かれたら、正直に行き先を答える必要はありません。「ちょっとそこまで」と返せばOKです。

次に、クギの刺し方。浅知恵を披露する人に 「よう知ったはりますなあ」 「よう勉強したはりますなあ」 と言うのは、一見ほめているようですが、そうではありません。クギを刺されたことに相手が気づかないケースもありそうですが、「気づかなければ、それはそれでいい」というのが京都の人のスタンスのようです。

断るときによく使われるフレーズが、 「考えておきます」
基本的に、京都では「考えときます」は「NO」の意思表示。たとえば習い事などをやめるときも、「やめます」とは言わず、「しばらくお休みします」と伝えます。

職場にも必要な「沓脱石(くつぬぎいし)」の距離感

京都人のプライベートゾーンについてのエピソードも印象的です。
京都の町屋には、玄関に沓脱石という踏み台のような石があります。近所の人が訪ねてきても、家には上がらず、ここに足を置いて玄関先に腰かけて話をします。靴を脱いで家に上がるときは、相応の手土産が必要。手土産を持っていないときは、「どうぞ」と言われても断るのがマナーです。

京都人の「他人との距離感」は、職場でも参考になるのではないでしょうか。同じ職場で働く人とは毎日顔を合わせる間柄ですが、だからといってプライベートに踏み込んでいいわけではありません。靴を脱いで家に上がりこむような距離感ではなく、沓脱石で話すくらいの関係性でつき合うのがちょうどいい。その感覚を持つことは、ハラスメントを防ぐことにもつながると私は思っています。

大人の対応は、必ず周囲が見ている

 「相手を傷つけずに、でもしっかり線は引く」というのは、なかなか高度な技ですが、職場で実践すれば、きっと一目置かれると思います。
職場では、当事者だけでなく、周りの人の目があります。京都流の伝え方では本人には伝わらなくても、周囲の人たちはそのやりとりをちゃんと見聞きしています。あえて衝突を避け、言いにくいことをやんわり伝える。こうした対応をしていれば、「あの人は大人だな」「一枚上手だな」と周囲に人から評価されるはずです。また、こういう返し方もあるんだと、周囲も学ぶはずです。

是非、本書を読んで、職場の中で活かしてみてください。

伝え方も大事。そして、人間関係に線を引く、境界線を引くことの重要性を、我慢をせずに、今こそ全員が認識し、守らなければならない。
本書を読んで、私は強くそう感じたのです。

参考文献:『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子著、日経BP)

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ 「牛乳買ってきて」「資料作っといて」で 伝わると思ってる人たち 。 家庭の「もやもや」は、職場で「も」起きている

・ 家事シェアも職場のコミュニケーションも うまくいく「3つのコツ」とは

・ 「あの上司、キモイ、ウザイ、ヤバくない!?」を卒業しよう。 あなたの気持ちを上手にコトバで伝える方法

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#管理職
#マネジメント
#ハラスメント

察してくれる前提が、すべてを壊す ― 「牛乳買ってきて」「資料作っといて」で伝わると思ってる人たち。家庭の「もやもや」は、職場で「も」起きてい

 先日、愛媛県企画振興部 男女参画課が発行している「これからの家事シェアスタイルブック」という冊子を目にする機会がありました。この冊子では、夫婦で家事を「分担」するのではなく「シェア」するためのヒントが掲載されています。
今回、なぜこの冊子を取り上げたのか?
紹介されている家庭の「もやもや」が、職場の上司と部下の関係にそっくりだからです。

家庭では
「期待した通りのことをしてくれない」
「せっかくやったのに、ダメ出しをされる」
「言われなくてもわかるだろう、と言われる」

職場では
「指示した通りにやってくれない」
「部下の仕事に何度もやり直しをさせる」
「これくらい察しろよ、と思ってしまう」

似ていますよね(笑)
こうした行き違いの多くは「言葉によるコミュニケーション不足」が原因です。そして、職場でこれが続くと、パワハラにつながったり、部下のモチベーションを下げたりする危険性があります。
家庭でのコミュニケーションに悩んでいる方は、ぜひこのスタイルブックを読んでみてください。職場でのパワハラ防止や部下育成にも応用できるヒントがたくさん詰まっています。

シャンプー補充してくれてる人、知ってますか?

気づいた人だけが負担を抱える構造

「名もなき家事」という言葉を聞いたことがありますか。
「掃除」「洗濯」「調理」などのいわゆる「名のある家事」ではないけれど、日々の生活に必要不可欠な細かい家事のことです。
「ポストから郵便物を取り出して分ける」 「トイレットペーパーがなくなったら取り換える」 「洗剤を詰め替える」
一つひとつの作業はそれほど時間も手間もかからないけれど、積み重なると1日でも膨大な量になります。
「そういえば、なくなりかけていたシャンプーがいつの間にか補充されている」
と思っている人は、誰がやってくれたのかを想像してみてください。詰替え用のシャンプーを買ってきて、空になった容器を洗って乾かし、こぼさないように補充するのは、意外と手間のかかる作業です。

職場にもある「名もなき仕事」—似ていますよね

「名もなき仕事」は、職場にもあります。
「コピー用紙を補充する」 「会議室のセッティングをする」 「電話をとる」 「議事録を作成する」
こういう仕事は、「気づいた人」がいつの間にかやってくれていたり、「若手社員など」がやるという暗黙のルールがある職場もいまだにあるようです。
家庭でも職場でも、構図は同じです。何が問題かというと、気づかないうちに特定の人が「名もなき仕事」に忙殺されてしまったり、「どうして私ばかり…」と不満を抱えたりすることです。
部下育成の観点からも、これは問題です。若手や特定の人だけに雑務が集中すると、本来やるべき成長につながる仕事に時間を使えなくなってしまいます。

リストアップして「見える化」する

愛媛県の『これからの家事シェアスタイルブック』では、「名もなき家事」への対策が紹介されています。
一つひとつの作業をリストアップして、現状、誰がやっているのか、これからは誰がやるのかを明確にするというものです。
実際にリストにしてみると、「毎日、こんなにたくさんの作業をやっているのか」と驚かされるはずです。

「察しろ」 「言わなくてもわかる」って、テレパシーではない

非言語コミュニケーションへの過信

「名もなき家事」や「名もなき仕事」を引き受けているのは、いわゆる「よく気がつく人」です。
家庭でも職場でも、言われる前に求められていることを察して行動できる、「非言語コミュニケーション」が得意な人は、「気がきく」「機転がいい」と評価され、頼りにされているのではないでしょうか。
私たちの社会では、「非言語コミュニケーション」が重視されがちです。
「以心伝心」や「阿吽の呼吸」は、ポジティブな意味で使われますし、大切な人とは「言葉にしなくてもわかり合える」「目と目で通じ合える」関係でありたいと思っている人は多いのではないでしょうか。
しかし、非言語コミュニケーションは誤解を生み、トラブルの元になります。
家庭では: 「それくらい言わなくてもわかるでしょ」
職場では: 「これくらい察しろよ」
という行き違いの多くが、言葉を使ってわかりやすく伝えていないことが原因で起こります。
特に職場では、これがパワハラにつながる危険性があります。

建設現場で炊き込みご飯を買ったら、めちゃくちゃ怒られた話

私が学生の頃の苦い思い出をご紹介します。
学生の頃、ビルの建設現場でアルバイトをしていたことがあります。
ある日、現場監督に呼ばれた私は、現金を渡されてこう言われました。
「弁当買ってこい、10人分、うまいのをな!」
まだスマホのない時代です。私は、知らない街を汗だくになって歩き回って、お弁当屋さんを探しました。ようやく見つけたお店でから揚げ弁当や幕の内弁当を選んでいると、お店の人が「今日は、炊き込みご飯がおいしいよ」と声をかけてくれたので、半分は炊き込みご飯にしました。
お昼休み、お弁当を配り終わったところへ怒号が浴びせられました。
「おい!なんで白飯じゃねえんだよ、それくらい言われなくてもわかるだろう、ふざけるな!」
当時19歳だった私は泣きそうな気持をこらえながら、自分の分のお弁当をかき込みました。ドキドキして味はわかりませんでした。午後の仕事が始まる前に、また現場監督が近づいてきたときは「もうダメだ、帰ろう」と思いましたが、現場監督が次のように一言。

「うめえじゃねえか、炊き込みご飯」

その言葉に、ホッとしたことを今でも、ありありと思い出します。
今となってはノスタルジックな思い出です。しかし、指示もしないで「言われなくてもわかるだろう」とダメ出しをする行為は、今ならパワハラと捉えかねません。
職場には、さまざまな人が集まっています。世代も違えば、それぞれに持っているバックグラウンドも違います。「以心伝心」や「暗黙のルール」は通用しません。
わかりやすい言葉を使い、言葉だけでは伝わりにくい場合は写真や動画を使って、相手に誤解のないように伝える必要があるときも。
これは、パワハラを防ぐためだけでなく、部下を適切に育成するためにも不可欠なことです。

家庭も職場もうまくいく5つの「伝え方」 5つのコツ

ここからは、この冊子で紹介されている事例をもとに、家庭でも職場でもうまくいくコミュニケーションのコツをご紹介します。それぞれが、パワハラ防止と部下育成にどう役立つかも解説します。

1.牛乳買ってきて」で揉める理由
—指示は、わかりやすく具体的に

【家庭の事例】 「買い物を頼んだら、想定外のものを買ってくる。」
これは、冊子に載っている事例です。

「牛乳買ってきて」と頼んだら、夫が普段家で飲んでいるのと違う銘柄の牛乳を買ってくるといったケースですね。妻にしてみれば、「いつも飲んでいるんだから、わざわざ言わなくてもわかるはず」と思うでしょうし、夫にしてみれば、「銘柄を指定してくれないとわからないよ」と言いたくなりますよね。
冊子に載っているアドバイスは、「買い物の内容を具体的に伝える」というもの。牛乳なら銘柄を指定したり、「特濃とか低脂肪とかではないもの。1ℓ230円以内で」と価格帯を伝えたりします。
「説明が難しいときは、写真を送るのも効果的」で、頼まれた側に対しては、指定のものがないときは相談するといい、とアドバイスをしています。
指示する側は、「わざわざ説明しなくても、これくらいわかるだろう」という目論見は捨てましょう。
「資料作っといて」ではなく、 「明日の会議用に、A4で3ページ以内、先月の売上データをグラフにまとめて、15時までに」というように、具体的に伝えることが大切です。
曖昧な指示で失敗させておいて「なんでできないんだ」と叱責するのは、典型的なパワハラの構図です。具体的な指示は、この構図を防ぎます。
明確な指示は、部下が何を期待されているかを理解し、自信を持って取り組める環境を作ります。成功体験を積み重ねることが、成長につながります。

2. 「あなたが洗うと二度手間だ」なんて言われたら落ち込む

—仕事を任せたら「ダメ出し」はしない
【家庭の事例】 冊子には、こんな事例も載っています。せっかく食器を洗ったのに、パートナーに「二度手間だ」などと言われたら、「だったらもうやらないよ」とやる気を失ってしまいますよね。
冊子には、食器の洗い方について「双方が納得できる着地点を共有する」というアドバイスが紹介されています。
確かに、家事に「正解」はなく、「どこまできれいにしたいか」という基準は人によって異なります。「洗剤を使うか使わないか」「布巾で拭くか、自然乾燥か」などの手順をすり合わせ、お互いの着地点を共有することで、行き違いを防ぐことができます。
職場でも同じです。 「任せると決めたら、ダメ出しはしない」ということが重要です。
職場で上司に「任せるよ」と言われて取り組んでいる仕事に、途中であれこれ口を出されたり、あとからダメ出しをされたりしたら、やる気が失せてしまいますよね。
ある人が、上司に任された仕事を仕上げて提出したら、何度もダメ出しをされて、上司が気に入るものができるまでやり直しをさせられたそうです。
「これでは、上司に答え合わせをされているようなもの」と彼はこぼしていました。
任せておきながら執拗にダメ出しを繰り返す行為は、精神的な攻撃としてパワハラと認定される可能性があります。事前に基準をすり合わせることで、これを防げます。
任せられた仕事を自分の判断で進められることは、部下の自律性と責任感を育てます。失敗から学ぶ機会も、成長には不可欠です。

3. 「作ってと言うから作っているのに、あれこれ文句を言われる」
—ネガティブなフィードバックこそ 「その場で、短く」


【家庭の事例】 料理を作ってもらっておきながら文句を言うなんて、とんでもないと思いますが、まだまだこういう夫がいるとのこと。しかも、多くの場合は悪気はなく、「もっと料理がうまくなるように、オレが言ってやらないと」と使命感を抱いていたりするようで・・・・
冊子では、「『どうしたらおいしくなるか』提案してもらう」というアドバイスが紹介されています。
確かに、家庭でも職場でも、よりよいものを作るためにはフィードバックは必要です。ただし、相手に「文句」や「ダメ出し」と受け取られてしまっては意味がありません。
ネガティブなフィードバックは、「その場で短く」伝えるのがポイントです。時間がたってからくどくどと言われても、心に響きませんよね。注意やダメ出しは、つい話が長くなりがちですが、できるだけ短く伝え、引きずらないようにしましょう。
ネガティブなフィードバックをした後は、その場で「おつかれさま」「がんばったね」とフォローすることも大切です。
長時間の叱責や、過去の失敗を蒸し返すような行為は、パワハラになり得ます。「その場で、短く」は、これを防ぐ鉄則です。
タイムリーなフィードバックは、部下が何を改善すべきかを明確に理解し、次に活かすことができます。フォローの言葉は、心理的安全性を保ちます。

4. 食器を洗っても 「ありがとう」がない!? 汚れがあれば 「ちゃんと洗って!」  —まず、してくれたことに感謝する

【家庭でも職場でも】 ポジティブなフィードバックは、その場でこまめにすると効果的です。
簡単なことのようですが、「気軽にほめること」が苦手な上司は意外と多いです。「機会があったらほめてやろう」などと思っているうちに忘れてしまって、気づくとダメ出しばかりしている…という人、いますよね。
家庭でも、パートナーが洗濯物をたたんでくれたときに「ありがとう」と言えず、汚れが落ちていないときだけ「ちゃんと洗って」と言ってしまう…似ていませんか。
「助かったよ」 「いいアイディアだね」 「がんばっているね」
など、思いついたらその場で伝えるのがいちばんです。「今度、ゆっくりほめてやろう」と思っていると、たいてい忘れます。
ポジティブなコミュニケーションが日常的にあることで、職場の雰囲気が良くなり、パワハラが起きにくい環境になります。
こまめな承認は、部下のモチベーションを高め、「もっと頑張ろう」という意欲を引き出します。承認欲求が満たされることは、成長の大きな原動力です。

5. 「今日どうだった?」と聞いておきながら、自分の話ばかりしてしまう人
—自分が話し過ぎず、相手に話してもらう


【家庭でも職場でも】 たとえば、せっかく定期的にone on oneで話す機会を作っているのに、自分のことばかり話してしまう上司は意外と多いです。できるだけ相手に話させるように心がけましょう。
家庭でも、「今日どうだった?」と聞いておきながら、自分の話ばかりしてしまうことはありませんか。相手の話をじっくり聞く姿勢が、コミュニケーションを深めます。
一方的に話し続ける、相手の話を遮るといった行為も、精神的な圧迫になり得ます。傾聴の姿勢は、対等な関係性を示します。
自分の考えを言語化する機会は、部下の思考力を鍛えます。また、上司に話を聞いてもらえたという経験は、信頼関係を築き、部下の心理的安全性を高めます。

おわりに
「以心伝心」は言葉があってこそ—職場も家庭も、言葉で築く良い関係

とはいえ、実際には「言葉にしなくても伝わる」ことはあります。
普段からよく会話をしている夫婦なら、「今週末は、彼女(彼)は家でゆっくり過ごしたいかもしれないな」と相手の気持ちを察することができる場合もあります。職場でも、いつもよく話し合いをしている上司と部下なら、「上司はA案よりB案を推しているな」という意向を予測できることもあるでしょう。
「以心伝心」は、普段から言葉によるコミュニケーションを多くとっているからこそ成立します。
テレパシーではないのですから、普段からろくに会話をしていない相手の気持ちがわかるはずがありません。
こうして考えてみると、家庭でも職場でも、仕事をシェアする上で大切なのはやっぱり「言葉によるコミュニケーション」だということがわかります。言葉によるコミュニケーションを増やすことが、お互いの理解を深め、よい関係を築く第一歩です。
家庭でも職場でも、ご紹介したポイントを、ぜひみなさんも意識してみてください。
パワハラのない職場、何よりも円満な家庭のために


参考資料: 愛媛県企画振興部 男女参画課 発行「これからの家事シェアスタイルブック」 URL
https://www.pref.ehime.jp/page/97885.html

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ 家事シェアも職場のコミュニケーションも うまくいく「3つのコツ」とは

・ 「100日間ビスコをコンビニで買い続けたらコンビニの店員さんにどのタイミングであだながつけられるのか?」を読んで職場のコミュニケーションに活かせないかなと、ふと思ったこと。

・ 「断れないと悩む社員に教えたい 京都流「NO」の伝え方

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#管理職
#マネジメント
#ハラスメント

上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(後編)

職場の悩み相談が5倍に増えたことを公表した企業

数年前、スギホールディングス株式会社がIR活動の一環として、「職場の悩み・何でも相談ダイヤル」に寄せられた相談件数が右肩上がりで増えていることを公表しました。2018年には269件だった相談が、2022年には1585件と、5倍以上に増えているそうです。

一般的には、「社員の悩み相談が増える」のはネガティブなことと捉えられ、外部には知られたくないものと考えられがちです。
しかし、職場で悩みや困りごとがあったときに、会社へ相談しやすい仕組みがあるということは、安心して働ける環境がある証拠とも言えます。「相談すれば対応してもらえる」と社員が感じられることは、会社への信頼にもつながるはずです。

こうした相談の増加を前向きにとらえ、公表したスギホールディングスの姿勢からは、学べる点が多いのではないでしょうか。

「職場では弱音を吐いてはいけない」という心のバイアス

現在、多くの企業が社員のメンタルヘルス対策として、外部のカウンセラーに相談できる仕組みを設けています。ところが、そうした制度が実際にはあまり活用されていないケースも少なくありません。

その背景には、利用する側の心の中に、
「職場で弱音を吐くのは良くない」
「仕事に感情を持ち込むべきではない」
といった思い込みや固定観念があることが考えられます。

「コミュニケーションが大切」と言われながら、職場では「弱音」や「悩み」を口にすることがタブー視される傾向があります。そうした雰囲気の中では、万が一、カウンセリングを受けていると知られたときに、「あの人、何かあったの?」という目で見られてしまうのでは、と感じる人も多いでしょう。
悩みがあっても相談できないのは、制度の問題というより、心にブレーキがかかってしまうからなのです。

会議でも意見が対立することを避ける傾向が


日本の職場では、上司も部下も、弱音を吐くことに慣れていません。「グチやつらさは言わず、我慢するのが当たり前」といった空気が、まだ根強く残っています。

感情を言葉にして伝え合うどころか、会議の場で誰かと違う意見を述べることすら避ける人も多くいます。本来、意見の違いは悪いことではないのに、「対立を避けたい」という気持ちが先に立ち、どちらかが折れたり我慢したりしてしまいがちです。
その結果、不満やストレスがたまりやすくなるのです。

互いの考えや感情を率直に伝え合うことは、対等な人間関係を築くために欠かせない大切なプロセスです。対立を恐れず、きちんと話し合える場が必要です。

効果的なのは、本当に信用できる人との対話

そのためにまず必要なのが、自分の考えや感情を言葉にする習慣です。学歴や知識が豊富でも、自分の感情をうまく言語化できないまま大人になる人は少なくありません。身体と同じで、使わない能力は衰えてしまいます。
言葉にならなかったネガティブな感情は、心の中にたまり続け、やがて心や体の不調につながりかねません。

前回のブログでも紹介した、恐山菩提寺で院代(住職代理)を務める南直哉さんは、Yahoo!ニュースのインタビューで、
「言葉というのは、対話でしか成り立たない」
と語っています。

南さんがすすめるのは、「淡い関係」が築ける相手との対話です。家族や親友のように近すぎる存在でなくても、会社の先輩や上司のように、信頼できる年上の相手に話を聴いてもらうことで、弱音を吐く練習になるというのです。

南さんによれば、SNSはただ一方的に気持ちを吐き出す場で、反応があったとしても、相手の性別や年齢もわからない関係では対話とは言えないと話していました。

弱音を吐いても、誰かに相談して助けを求めてもいい

高校時代にアメリカへ留学していた方が話してくれました。
「アメリカの高校では、何かあるとすぐに気軽にカウンセラーに相談する」とのこと。学校で恋愛の悩みさえも、お茶を飲みに行くような感覚でカウンセラーに話しができたそうです。スッキリして、まだ授業に意欲が湧いたとのこと。

社会に出る前から、悩みがあれば一人で抱え込まずに第三者に相談するという習慣が身についているのは、とても心強いことだと思います。

誰かに話すという行為は、自分の悩みや感情を言葉にすること。言葉にすることで、人に気持ちが伝わりやすくなるだけでなく、自分自身でも「本当はどう感じているのか」に気づきやすくなります。

たとえば、夫婦間の問題でも、第三者を交えて話すことでうまく進む場合があります。日本でも、職場や学校、家庭のことを、もっと気軽に第三者へ相談できることが「あたりまえ」になるといいと思います。

つらさや苦しさを抱え込む時代はもう終わり

「私さえ我慢すればいい」
「男だから自分で何とかしないと」
そうやって、つらさや苦しさを抱え込む時代は、もう終わったのです。

自分の気持ちを言葉にして、「嫌なものは嫌」「つらいものはつらい」と口に出してもいい。
困ったときは「助けて」と声を上げれば、きっと助けてくれる人がいます。

「つらいときは、誰かに弱音を吐いてもいい」
「相談して、助けを求めてもいい」

そう、自分自身に許してあげてみませんか?

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ 上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(前編)

・ 上司は知らない。部下が本当に思っていること。精神科医の本から見えた、いまのマネジメントの盲点

・ 「断れないと悩む社員に教えたい 京都流「NO」の伝え方

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#上司
#マネジメント
#パワハラ

上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(前編)

職場で気軽に「死ぬ」という言葉を使う!?

最近、企業の方からこんな話を聞きます。
「最近の若い人は、職場で気軽に『死ぬ』という言葉を使うんですよ」

「最近の若い者は…」で始まる若者批判は、昔から繰り返されてきたものです。
「言葉が乱れている」とか、「ボキャブラリーが乏しい」といった指摘も、50代以上の世代の方なら若い頃に言われた記憶があるのではないでしょうか。
例えば、1990年代には「チョベリバ」(超ベリーバッド)なんて、今ではすっかり「死語」です。

それでも、「死ぬ」とはやはり物騒。
どうして今の若者は、そんな言葉を職場で使うのでしょうか。

「私は自己肯定感が低い」という若者たち

あくまで推測ですが、一因として、自分は自己肯定感が低いと自覚しているケースが多いことが関係しているのかもしれません。ではなぜ、そう感じるのでしょうか?

その理由を私なりに分析してみると、1つは彼らが「この先、日本の景気や社会がどんどんよくなる」という実感を持ったことがないから。
時代の空気から受ける影響は、少なからずあるはずです。

もう1つは、SNSの影響。
スマホを覗けば、そこには誰かのキラキラした日常やポジティブな言葉があふれている。それに比べたら、自分の日常が色あせて見えたとしても無理はありません。関係性の薄い知り合いや、会ったこともない人と自分を比較して、「自分なんてダメだ」と思わされてしまうのは、SNSの負の側面といえるかもしれません。

ネガティブな感情を適切な言葉で表現できない

「死ぬ」と言ってしまうのは、適切な言葉が見つからないから。
「死ぬ」と口にしても、本当にそうなりたいわけではない。
ただ、つらい感情をどう表現すればよいかわからず、結果として極端な言葉を使ってしまう。そんなケースが少なくないように感じます。
このように彼らが「死ぬ」と口にするとき、必ずしも言葉通りの意味を伝えたいわけではないのだと思います。

いわゆるいい大学を出て、いい会社に勤める人でも、自分の感情を言葉で表現するのが苦手な人がたくさんいます。知識もあるし、論理的思考も得意。だから仕事の話はスラスラできるのに、自分の感情を表す言葉はうまく出てこない。そういう人は、年代に問わず共通の課題のように感じます。

特に職場では、「つらい」「悲しい」などのネガティブな感情は、表に出してはいけない考えられがちです。「プロらしくない」と思われます。仕事の場では、個人的な感情は自分の胸の中に押し込めておかなければならないもの。それは、若い世代だけではありません。
現在40代、50代の人たちも、さらにその上の世代の人たちも、個人的な感情を押し殺し、つらいときも歯を食いしばって耐えてきたのです。

適切な言葉を与えられずに押し殺された感情は、「死ぬ」というセンセーショナルな言葉となって、あふれてしまうのだと思います。

感情は「液体」。だから、言葉という「器」が必要

自分で自分の中にあるネガティブな感情に気づくためには、自分が思っていること、感じていることを言語化する力が必要です。

青森県にある恐山菩提寺で院代(住職代理)を務める南直哉さんが、(2024年8月17日)Yahoo!ニュースオリジナル特集編集部のインタビューでこう話しています。
「感情というのは『液体』だ」と。「器に入れてはじめて、色やにおい、重量がわかる。つまり、アウトプットしてみなければ、自分に起こっていることがわからないのだ」

「感情というのは液体」という表現は、とても印象的です。液体のように形のない感情は、「言葉」という器に入れて初めて意味が与えられる。自分の感情を自分で把握するためにも、言葉は必要です。

南さんに会いに来た30歳の男性は、一流大学を出て大企業に就職し、将来を嘱望されているエリートコースを歩んでいるにもかかわらず、会社に行けないという。理由を聞いても何も言わない。自分の感情を言葉で表すことができない。
そこで南さんが、「あなたが言いたいのはこういうことではないですか」と言葉にすると、彼は、
「なぜわかるんですか、さすがお坊さん、神通力ですか」と驚いたそうです。

弱音を吐けることが、職場の信頼を生む

自分の感情をうまく言語化できないのは、慣れていないから。
特に男性には、子どもの頃から「感情を言葉にするなんて、恥ずかしいことだ」と刷り込まれている人が多い。たとえば、職場で上司に「つらい」などと弱音をはくわけにはいかない、と自分を縛っている。

そういう人が、自分の感情を言語化できるようになるにはどうすればいいのでしょうか。それには、南さんが言うとおり「アウトプット」するといい。液体のように形のない自分の感情に、言葉という器を用意するのです。

誰かに話して聴いてもらってもいいし、文章にして書き出してもいい。とりとめのない話や文章でいいから、言葉にして発信することで、感情にふさわしい器が見つかりやすくなります。

それには、「どんなにネガティブな感情も、言葉にしていいんだ」と自分にOKを出すことが大切かもしれません。

だからこそ、令和の今、職場でも、間違っても「弱音を吐くな」「グチをこぼすな」などと言ってはいけない。もう時遅れ。
上司と部下がどちらも弱音を吐くことができ、そしてそれを受け止め合える信頼関係であれば、安心して仕事の相談もできるというもの。

そういう信頼関係という名の土壌を職場で耕すことが、ハラスメントを防ぐことにつながる鍵になるのではないかと私は思います。

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ 上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(後編)

・ 上司は知らない。部下が本当に思っていること。精神科医の本から見えた、いまのマネジメントの盲点

・ 「断れないと悩む社員に教えたい 京都流「NO」の伝え方

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#上司
#マネジメント
#パワハラ

「褒める条例」とあいさつ運動 ― やっているフリが職場をむしばむ

相手のよいところを褒める習慣を街ぐるみではじめる

『兵庫県多可町議会は、2018年12月26日町民らが家族や友人、職場の同僚らのよいところを見つけ、言葉で伝え合うことで地域活性化を目指す「一日ひと褒め条例」を12月定例会で議員提案し、全会一致で可決。2019年1月1日より施行している。住民や事業所、町の理念条例。町議会は「疲弊した感情が充満する世の中で人間の原点に立ち返り、心豊かでにぎわいのある町にしたい」とのこと。

この多可町役場、条文では「1日に1度は人をほめる、または感謝の気持ちを伝える」「人の良い言動や成果を見つけ出し、積極的にコミュニケーションを図り、風通しの良い職場をつくる」とある。同商工会の若手議員らと町議会が今年2月に意見交換した際、ネット上で匿名のまま人を批判する風潮を問題視する中で「町を元気にする条例をつくろう」との案が浮上。条例は、町、住民そして事業所の姿勢を示すもの』(2018年12月27日:神戸新聞NEXT引用)

「ハラスメント対策だと? 寝た子を起こすからウチの会社はまだ早いよ!」と言って逃げ回っている社長がまだまだいる日本の会社において、今年から施行されているこの条例の話題は素晴らしいですね。是非、この運動が成功して町が活性化していくことを心から期待したいと思います。褒める習慣が何十年もない人に突然、褒めることを強いても大変でしょうから、自分たちの風土や組織にあったやり方をじっくりと模索していかれたらよいなと思い、応援したい気持ちになりました。

会社の「あいさつ運動」は本当に効果があるのか?

このニュースを聞いたときに、ふと会社の「あいさつ運動」を思い出しました。朝、出勤しても、挨拶すら出来ない部署、部下を褒めたり、部下のいいところをみつけることが出来ない上司は世の中に沢山います。このようなコミュニケーションがギスギスしている職場の状況を憂いて、「そうだ!あいさつ運動だ!」と声高に挨拶運動をまるで何かのキャンペーンのようにやっている会社をよくみかけるのですが、問題はその中身。

あいさつも実は運動期間中だけ。おまけに、自分の嫌いな人には挨拶しないで、好きな人だけに挨拶する、という本末転倒なことが起きているのです。おまけに「あいさつは部下からするものだろ!」と自分から声かけをしない上司もいる始末。悲しいことにトップには、この現場の実態が情報として上がってきません。期間が終わると、見事にいつものギスギスした職場に戻ります。

これを『やってるフリのあいさつ運動』といいます。

脱!「やっているフリのあいさつ運動」

経験上、このやっているフリのあいさつ運動をしている会社は、水面下では意外とハラスメント問題を抱えていることが多いのです。人事もちゃんと知っていたりするのです。だから何をしたら職場が良くなるか分からないので「とりあず」あいさつ運動をはじめるのです。

あいさつ運動を否定するつもりはありません。 あいさつ運動をはじめるときに、気になるポイントがあります。

いい大人がいまさらですが、
①「なぜ、職場のあいさつを運動化するのか?」
②「何のために職場であいさつをするのか?」
③「そもそも職場であいさつをする目的って何ですか?」

こんなこと説明する必要ないだろうと説明もせずに、「元気にあいさつをしましょう。声をかけあう職場にしましょう」とスローガンとともに社内文書が流れ、おまけにバッチまで配り「あとは頑張ってね!」と経営陣は現場任せです。 一方で「そんなことないよ、ちゃんと声かけしてるよ」と反論の声も聞こえてきます。 その中身を聞いてみると、こんな上司もいました。

上司「最近、頑張っているね~!」
部下「はぁ。。」
上司「元気!?絶好調だね~!」
上司「いいね!!すごいよね~!さすが~!」
部下「何がすごいんだよ。また、はじまったよ、、、」

部下への声のかけ方がわからない上司たち

ベテラン上司から聞こえてくる会話です。

上司は「何に対して頑張っている」と考えて、部下を褒めているのでしょう? 部下のどのような点が「絶好調!」なんでしょう。 褒める理由をよく考えて声をかけない上司は、必ず、部下から見透かされます。 部下は、想像以上に上司の言動をよーく見ているものです。 まずは、あいさつ運動をはじめるまえに、ちゃんと3つのポイントを説明した方が効果が上がると思います。

特に上司には、何気ない「あいさつ」には、部下を観察する習慣をもたせる狙いがあること、部下育成のためには普段の部下の様子や、部下のよいところに着目して部下に仕事を任せる時の情報として普段からストックしておくこと、部下からも話しかけてやすいような空気をつくることが大切です。

報連相なんて簡単にいいますが、部下は、嫌いな上司には絶対に相談なんかしません。あいさつを通じて、部下のメンタルヘルスに注意を払ったり、ハラスメントが起こらないように、小さな意思疎通のズレが起きないように自分と相手の会話を通じて意識的に関係を整えていくことも大事です。 ハラスメント問題をおこさない職場づくりには、非常に大切な着眼点だと思います。

大事なメッセージは「考えるあいさつ」を習慣化しましょう、ということです。昔、私が通ったジムのトレーナーさんに「筋トレは筋肉のどこに効くのかを考えながらやることが大事」と言われたことを思い出し、あいさつ運動も一緒だなと思いました。そう考えると、「運動」とはまさにあいさつを通じて職場のコミュニケーションや組織風土を整えるトレーニングかもしれません。

もう一度、多可町の条分を繰り返します。

「1日に1度は人をほめる、または感謝の気持ちを伝える」「人の良い言動や成果を見つけ出し、積極的にコミュニケーションを図り、風通しの良い職場をつくる」

是非、みなさんの会社のあいさつ運動を、部下との関係性を整えるチャンスにしてはいかがでしょうか? こんな取るに足らない小さな取り組みがハラスメントをなくすことにつながっていくのですから。

藤山晴久

ハラスメント研修企画会議
http://www.harassment.tokyo/#modal-options

◆セミナー情報
2019年4月17日
パワハラ・セクハラグレーゾーン判断力向上セミナー
管理職のモヤモヤが3時間でスッキリ!
https://www.impression-ilc.jp/information/seminar20190417.html

ハラスメント研修の企画のご相談はこちらへ
https://www.impression-ilc.jp/contact/

このテーマに興味のある方は、こちらの記事もおすすめです。

あわせて読みたい

・ハラスメントを止めるのは、正義感じゃない。 職場の空気を変える、たった一言。 「ありがとう」が沈黙を壊す理由。

・「あの上司、キモイ、ウザイ、ヤバくない!?」を卒業しよう。 あなたの気持ちを上手にコトバで伝える方法

・「企業風土」が新語・流行語に選ばれた今ハラスメントを生まない組織の“空気づくりとは?東京ステーションホテルに学ぶ、企業風土のつくり方

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職