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なぜ、「赤ペン先生」の言葉は人を伸ばせるのか。-ハラスメントについて考え続けてきた私が、管理職におススメの一冊

「ちゃんとほめているつもりなのに、部下に響いていない気がする。」
そんな経験はないでしょうか。

最近は、ほめ方や叱り方、1on1など、管理職向けのコミュニケーション研修も数多く行われています。パワハラにならないための、予防としての部下指導・コミュニケーション研修です。

もちろん、そうした研修はとても大切です。ただ、どんなテクニックを学ぶより先に、もっと根本的なものがあるのではないか。そんなことを考えさせられた一冊がありました。

それが、『赤ペン先生のほめ方 プロは「白紙」でもほめる。』(佐村俊恵著・ダイヤモンド社)です。
著者は「進研ゼミ」で20年以上、子どもの答案と向き合ってきた”赤ペン先生”。管理職の部下対応にも、そのまま使える視点が数多く詰まっていました。

目的は「成績」ではなく「自己肯定感」

進研ゼミが大切にしているのは、成績の向上そのものではありません。自己肯定感を育てることだといいます。だから赤ペン先生には「子どもを絶対に否定しない」姿勢が求められます。
「教えてあげる」「評価してあげる」という上から目線ではなく、
「成長を応援する」という立ち位置。
部下を「指導する対象」と見るか、「成長を支える相手」と見るか。
この違いは、日々の言葉の端々ににじみ出ます。

白紙にも「提出してくれてうれしい」

最も印象に残ったのが、白紙の答案への対応です。普通なら「次はちゃんとやろうね」と言いたくなる場面で、赤ペン先生は「提出してくれてうれしかったよ」と声をかけるそうです。
評価しているのは結果ではなく、「提出した」という行動そのものです。

職場でも、成果ばかりに目が向きがちになります。もちろん成果は大切です。しかし成果の手前には、「相談する」「挑戦する」「まずやってみる」という行動があります。
「相談してくれてありがとう」
「まず提出してくれてありがとう」。
この一言があるだけで、人は「またやってみよう」と思えるものです。
最初の一歩を認めることが、次の挑戦につながります。

「次は頑張ろう」が、相手を傷つけることもある

うまくいかなかった相手への「次は頑張ろう」。
励ましのつもりで、何度も使ってきた言葉です。
だが、これは「今回は頑張っていなかった」という意味に受け取られることがあるそうです。だから赤ペン先生は「よく頑張ったね」と伝えます。まず認めるのは「頑張った」という事実です。

管理職は、つい過程を見ずに(出来て当然)、次の目標に目を向けてしまいます。しかし本人は、すでに精一杯やっていることが少なくありません。まず努力を認める。その積み重ねが信頼をつくるのだと思います。

比べる相手は「他人」ではなく「過去の本人」

赤ペン先生には、他の子と比べるという発想がありません。「○○ちゃんはできていたよ」ではなく、「先月よりできるようになったね」。比べる相手は、他人ではなく過去の本人です。

他人との比較は、劣等感を生みやすくなります。一方で、「以前より説明がわかりやすくなったね」と自分自身の成長を認めてもらえると、「また頑張ろう」という気持ちになります。人を育てるのは競争ではなく、成長の実感なのかもしれません。

「すごい!」だけでは伝わらない

「すごいね」。この言葉だけで終わらせないのが赤ペン先生です。何が良かったのかが、これでは伝わりません。

職場でも同じではないでしょうか。「すごいね」だけでは響きません。「この資料は、結論が最初に書かれていて、とても分かりやすかった。」具体的に伝えられて初めて、「ちゃんと見てくれている」と感じられます。人は評価されること以上に、「見てもらえている」と感じたときに安心できるのだと思います。

「ちゃんと」は、実は伝わらない

「ちゃんと読みなさい。」と言われても、何をどうすればいいのかは分かりません。だから赤ペン先生は「ゆっくり読んでみよう。」「声に出して読んでみよう。」と、具体的な行動で伝えるそうです。

「主体的に」「丁寧に」「しっかり」。管理職は、つい抽象的な言葉を使いがちです。相手が実際に行動できるレベルまで具体的に伝えること。それが本当のコミュニケーションなのだと思います。

世代によって、伝わる表現は違う

本書には、赤ペン先生が「花まる」を何種類も使い分けているという話も紹介されています。ベテランになると、100種類以上のバリエーションを持っている人もいるそうです。気持ちを伝える工夫と言えるでしょう。

オンライン研修でも、同じことを感じます。20代の参加者はリアクションボタンやスタンプを積極的に使ってくれます。一方で、50代、60代になると、ほとんどリアクションがありません。
「軽い」と感じる人もいるのでしょう。
しかし若い世代にとっては、こうした小さなリアクションが
「見てもらえている」
「受け止めてもらえている」という安心感につながっています。
伝える内容だけでなく、伝え方も相手に合わせて工夫することが大切なのだと感じました。

「今のままでいていい」と伝えること

現在、日本では不登校の子どもが35万人を超えているそうです。
そんな中で、赤ペン先生は「今のままでもいていいんだよ」という、
存在そのものを認める姿勢を大切にしています。
「できる」「できない」、「結果が出た」「出ない」。
その前に、「あなたがここにいてくれること」を認める。

この姿勢は、職場でも決して無関係ではありません。
人は、自分が否定されないと感じられたときに、
初めて安心して挑戦できます。

おわりに

この本を読んで改めて感じたのは、「ほめる」とは話し方のテクニックではないということです。相手をよく見ているか。努力や成長を見逃していないか。その姿勢があるからこそ、言葉には説得力が生まれます。

「提出してくれてありがとう。」
「相談してくれてありがとう。」
「先月より説明が分かりやすくなったね。」
どれも特別な言葉ではありません。

しかし、こうした一言の積み重ねが、「この上司は自分を見てくれている」という信頼につながります。
部下を育てるのは、特別な話術ではありません。相手の変化を丁寧に見つけ、それを言葉にして伝えること。

そろそろ、「パワハラにならない部下指導」という、テクニカルの鎧を脱いでみてはどうでしょうか。

あなたも一度、赤ペン先生に添削してもらうといいかもしれません。ヒントは、案外シンプルなところにあるのだと思います。

是非、皆さんのご一読ください。おススメします。

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
研修プランナー/講師/産業カウンセラー

「人を追い詰めるのは、個人だけではない。」

20代の終わり、まだ駆け出しだった頃、ある取引先の経営者と昼食をともにする機会があった。60代、場数を踏んだ経営者と対等に渡り合うにはまだ早すぎる年齢だったが、その方は若輩者の自分に、惜しみなく時間を割いてくれた。その方が、昼食からいくらも経たないうちに、この世を去った。自分はその事実を、伝聞という形でしか知ることができなかった。「昨日まで隣にいた人が、今日はいない」―その事実は、今も胸に残っている。
その後、自身も深夜に及ぶ過酷な労働環境と、さまざまな立場の人間関係の中で受けた本格的なハラスメントの果てに、心身の均衡を崩した時期がある。ちょうどその頃、組織の整理に伴い、職を離れることにもなった。
この二つの経験を原点に、ハラスメントを個人の資質の問題ではなく、組織風土・ガバナンス・リスクマネジメントの視点から分析し、研修として提供している。

立教大学卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修・ハラスメント研修を企画。2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。年間約400件の研修を企画・実施し、これまで数十万人規模が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。 このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

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#指導とパワハラの違いを卒業しよう