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人は壊れる。でもAIは壊れない ― chatgptにパワハラしてみた


「指導とパワハラの違いが分からない」

管理職研修で、よく聞く言葉だ。
本当に分からないのだろうか。

では、少し実験してみよう。
あなたが部下に投げたことのあるその言葉を、ChatGPTにぶつけたらどうなるか。

AIは壊れない。
でも人は壊れる。
この違いから、指導とパワハラの境界が見えてくる。

厚生労働省が示すパワーハラスメントの6類型は、

① 身体的な攻撃
② 精神的な攻撃
③ 人間関係からの切り離し
④ 過大な要求
⑤ 過小な要求
⑥ 個の侵害

である。

厚生労働省が示す6類型。その一つひとつを、ChatGPTで検証してみた。

ChatGPTにパワハラしてみた。

(対話形式)
① 身体的な攻撃

私:
「ふざけるな!」(机を叩く)

GPT:
「ご不満の点があれば、具体的に教えてください。改善します。」

AIは恐怖を感じない。
威圧が出力精度に影響しない。

しかし、人は違う。
大きな音や威圧は、まず“防御”を引き起こす。
人は“正解を探す”より先に“身を守る”。

恐怖は思考を止める。
結果として、成果は落ちる。

② 精神的な攻撃(暴言)

私:
「バカ野郎」

GPT:
「どの点が問題だったのか教えてください。改善に活かします。」

AIは自己評価が揺らがない。
怒りを内面化しない。
だから冷静に、改善点を求める。

しかし、人は違う。
暴言は改善点を示さない。
受け取るのは“修正”ではなく“否定”だ。

萎縮は学習効率を下げる。
羞恥は思考を狭める。
暴言は合理的な育成手段ではない。

③ 人間関係からの切り離し

私:・・・・・・・・
(無視する)

GPT:
「修正点があれば教えてください。」

AIは入力がなければ出力しないだけだ。
孤立で傷つかない。

しかし、人は違う。
無視や排除は心理的安全性を壊す。
安全性が下がると、発言は減る。
発言が減る職場で、創造性が上がることはない。

④ 過大な要求

私:
「明日までに完璧な企画を出せ」

GPT:
「前提条件と目的を教えてください。可能な範囲で最適化します。」

AIはできる範囲で出力し、条件が不足していれば確認を返す。
恐怖を感じないから、“精度”のために質問できる。

しかし、人は違う。
達成不能な要求は挑戦を生むより、無力感を生む。
無茶振りは成長ではなく萎縮の設計になる。

⑤ 過小な要求

私:
「お前は資料のコピーだけやって」

GPT:
「了解しました。コピー作業を実行します。」

AIは役割に傷つかない。
入力されたことを実行するだけだ。

しかし、人は違う。
役割を奪われると、能力は発揮されない。
期待されない人は伸びない。
過小な要求は、組織の潜在能力を削る。

⑥ 個の侵害

私:
「彼女いるの?なんで結婚しないの?」

GPT:
「私はAIなので恋愛や結婚はありません。
業務に関連する内容であればお答えします。」

AIは私的領域を持たない。
だから、淡々と境界線を引くだけだ。

しかし、人は違う。
業務と関係のない領域に踏み込まれたとき、人はまず“警戒”する。
警戒は信頼を下げる。
信頼が下がれば、情報共有は減る。
情報共有が減れば、組織のリスクは上がる。

これは倫理の問題であると同時に、合理性の問題でもある。

「雑談」と「侵害」は違う。
関係を温めるつもりの一言が、境界線を踏み越えた瞬間、
パフォーマンスは静かに落ちる。

AIにパワハラしても、本質的なダメージは生まれない

AIは恐怖を感じない。
AIは人格を持たない。
AIは孤立で傷つかない。
AIは自己否定しない。

だが人は違う。

恐怖は思考を止める。
人格否定は挑戦を奪う。
孤立は安心感を壊す。
過大な要求は萎縮を生み、過小な要求は存在価値を削る。
私的領域への干渉は境界線を侵す。

AIは壊れない。
しかし人は壊れる。

それ、本当に厳しさですか?

ここで必ず出てくる反論がある。

「でも厳しくしないと人は育たない」

厳しさは必要だ。
だが、厳しさと怒りは違う。厳しさと雑さは違う。

怒鳴ることは厳しさではない。
人格を削ることは指導ではない。
曖昧な指示のあとに叱ることは教育ではない。

それは未整理の感情だ。

本当に厳しい人は、

・目的を明確にする
・基準を言語化する
・役割を定義する
・プロセスを示す
・改善点を具体的に伝える

そのうえで求める。

法的な基準と、実は同じ話をしている

パワーハラスメントの判断な基準のポイントは、

「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」

である。

この基準は、とてもシンプルだ。

・その指導には、業務上の明確な目的があるか
・その方法や手段は、その目的に対して相当なものか

この二つが問われる。

多くの場合、目的は正しい。

「業務改善のため」
「成長のため」
「組織の成果のため」

問題はそこではない。
問われるのは方法と手段だ。

・人格を攻撃していないか
・威圧や恐怖を利用していないか
・必要以上に繰り返していないか
・他者の前で羞恥を与えていないか
・業務目的と無関係な私的感情が混ざっていないか

これらを欠けば、目的が正しくても「相当な範囲」を超える可能性がある。

逆に言えば、

・目的を明確にする
・基準を言語化する
・役割を定義する
・プロセスを示す
・改善点を具体的に伝える

という行為は、単なる“丁寧さ”だけではない。
法的に見ても、相当性を担保する行為そのものなのだ。

ハラスメントの原因は、人格だけではない。
むしろ、指導のやり方の問題であることの方が多い。

AIは壊れない。人は壊れる。

AIは壊れない。
AIは萎縮しない。
AIは自己否定しない。

あなたが雑なプロンプトを投げても、AIは冷静に聞き返す。

しかし部下は言わない。

「具体的に教えてください」とは言わない。
「基準を示してください」とも言わない。

黙る。
従う。
内側で傷つく。

力関係があるからだ。
だからこそ、上司側に“やり方”が求められる。

指導とは、感情ではなく「やり方」だ。
あるいは、「伝え方の技術」と言ってもいい。

何を伝えるかだけではなく、どう伝えるかが問われている。
目的が正しくても、やり方が雑なら、相当性を欠く。

目的が明確で、基準が言語化され、
人格ではなく行動に向き合い、
恐怖ではなく改善に焦点を当てる。

この「やり方」こそが、法的に言うところの「相当な範囲」を形づくる。

相当性とは、難しい法律用語ではない。
怒りをぶつける代わりに、伝え方を選んでいるかどうか。
そこに尽きる。

プロンプトが上手い人は、指導も上手い

AIに良い答えを出してもらうために、私たちは驚くほど丁寧に言葉を選ぶ。
条件を書き、役割を与え、段階を示し、具体的に修正を伝える。

なぜ部下に対しては、それができなくなるのだろう。

プロンプトが上手い人は、相手の能力を引き出す言葉を選べる人だ。
だから、指導も上手い。
そして、ハラスメントが起きにくい。

部下はAIではない。
だからこそ、AI以上に丁寧な「やり方」が今、上司に必要なのだ。


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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。

このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。

職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。

このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。

職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#生成AI
#管理職
#パワハラ

ハラスメントを止めるのは、正義感じゃない。 職場の空気を変える、たった一言。 「ありがとう」が沈黙を壊す理由。

あなたの職場で、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか。
ある上司が、特定の部下にだけ厳しい口調で叱責する。
声のトーンも言葉選びも、明らかに行き過ぎている。
職場の空気が一気に重くなり、周囲は静まり返る。
にもかかわらず、誰も何も言わない。

後になって、周囲の人はこう語ります。
「明らかに問題のある言動だった」
「気づいていた人は、何人もいたはずだ」

それでも、その場では何も言えなかった。
なぜ、分かっていながら声掛けができないのか。
巻き込まれたくないという思いもあって、
ハラスメントが繰り返される職場には、
このような沈黙の場が見受けられます。

人はなぜ、見ているのに動かないのか

多くの人は、こう考えます。
自分が出なくても、誰かが言うだろう。
下手に関わると、面倒なことになるかもしれない。

こうした気持ちが重なり合うと、
全員が見ているのに、誰も止めないという状況が生まれます。
心理学では、この現象を傍観者効果と呼びます。

ここだけは聞いてほしいのですが、
これは個人の性格や勇気の問題ではないという点です。
人が黙っているのは、冷たいからでも、無関心だからでもありません。
その場で、どう振る舞うのが正解なのかを、
職場では誰も知らないし、学んだこともないのです。

それでも、声を上げる人が現れる理由

一方で、同じ職場でも、
「それはおかしいですよ」と言える人が現れることがあります。
その人は、特別に正義感が強いのでしょうか。
生まれつき、勇気のある人なのでしょうか。

近年の心理学研究は、少し違う答えを示しています。
鍵になるのは、意外にも「ありがとう」でした。

感謝を「見るだけ」で、人の行動は変わる

2020年に発表された心理学の研究では、
感謝に「目撃効果」があることが示されました。
誰かが誰かに感謝している場面を、
第三者が見ているだけで、
その第三者の行動が変わるという現象です。

しかも、その変化の方向は、
見て見ぬふりを生む傍観者効果とは真逆でした。

8つの実験が示した、一貫した結果

この研究では、8つの実験が行われています。
感謝のやりとりを目撃した第三者は、
感謝を表した人を信頼できそうだと評価し、
この人と一緒に仕事をしたいと感じ、
実際に、より協力的な行動を取りやすくなりました。

ここで非常に重要なのは、
評価が高まったのが、
感謝された人ではなく、感謝を表した人だった点です。

感謝は、
「私はあなたを大切にします」
「私たちはこの関係を雑に扱いません」
という強いメッセージになります。

それを見た第三者は、無意識に、
「この人がいる場なら、安全に仲間と関われそうだ」
と判断するというのです。

感謝が可視化されている職場では、
人と関わることそのものが正解になる場が形成されます。

ハラスメントが生まれる環境は、「場」が育てる!?

一方で、傍観者効果が支配する場では、
問題が起きても動かないこと、関わらないことが正解になってしまいます。
同じ第三者でも、先ほどとはまるで反対です。

人は、勇気がないからというだけの理由で、黙っているわけではありません。
その場で、どう振る舞うのが正解なのかが、
その状況において分からないだけなのです。

ハラスメントが繰り返される職場は、
傍観者効果が固定化されているように思います。
多くの人が気づいているのに、
誰も何も言わない。

その沈黙が、
「やっても許される」という誤ったメッセージになり、
ハラスメントをエスカレートさせてしまうことになりかねません。

反対に、
感謝や敬意が日常的に交わされている職場では、
きつい叱責や威圧的な態度は、自然と浮いた存在になります。
そのような雑な関わり方は、この職場に合っていない。

そう感じさせる「場の力」そのものが、
ハラスメントの抑止力になると私は思います。

モノが言える空気をつくる有効なツールが「ありがとう」

私たちは、「ありがとう」と伝え合うことをマナーとして教わってきました。
お互いに感謝を伝えるために、
サンクスカードや社内の仮想通貨的なポイントとして、
相互に送り合う仕組みを取り入れている企業も増えています。

しかし、この研究結果を踏まえると、
感謝はそれ以上の意味を持っています。

感謝は、
個人の美徳だけではなく、
組織の「場」を設計するツール
と言ってもいいでしょう。

いざというときに人が動かなくなるのは、
その人が冷たいからでは決してありません。
「気になったら、動いていい」
「気が付いたら、関わっていい」
そう感じられる場がないからです。

ルールや罰則だけでは、
ハラスメントを防止することはできません。
大切なのは、
この職場では、
どんな関わり方が正解なのかを、
モノが言える空気として示すことです。

その場を設計するためのピースの一つが、
「ありがとう」という一言なのです。

おわりに

さまざまな角度から「感謝」に秘められたパワフルさと奥深さをご紹介し、
考察してきたシリーズ記事は、本記事が最終回です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本シリーズを通してお伝えしたかったのは、
感謝は単なるマナーや気分の問題ではなく、
人の行動や、組織の場そのものを静かに書き換える力を持つ、
という事実です。

次回は、また別の切り口から、
ハラスメントについて考えていきたいと思います。

参考文献

本稿で引用した研究論文
Algoe, S. B., Dwyer, P. C., Younge, A., & Oveis, C. (2020).
A new perspective on the social functions of emotions: Gratitude and the witnessing effect.
Journal of Personality and Social Psychology, 119(1), 40–74.

参考図書
『THANKFULNESS 感謝脳』
樺沢紫苑・田代政貴 著/飛鳥新社
※本稿は、上記の海外学術論文を一次資料として参照し、
その知見をもとに筆者の視点で再構成したものです。
感謝の効果や日常での実践方法については、
一般向けの解説として上記書籍も参考になります。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

その一言が、未来の脳を変える ― パワハラが、認知症のリスクになる!?私たちが〝ポジティブな言葉〟を選ぶべき理由

パワハラはよくない。ポジティブな言葉が大事。そんなことは誰も頭ではわかっています。また「ポジティブ」かよ、そう思った方もいるかもしれません。

暴言や批判的な言葉を浴びせられた人は、心身に大きなダメージを受けることも、あなたもお分りでしょう。しかし、それだけではないのです。

パワハラは、被害者以外の人にとっても悪影響があります。実は、加害者本人にとっても健康上のリスクが大きいのです。今回は、それを裏付ける興味深い研究結果を2つ紹介します。

パワハラ加害者に共通する「ある態度」

ハラスメントの相談を受けていると、パワハラの加害側とされる人の言動には、ある共通点が見られます。

  • 部下を見下す
  • 相手の努力を評価しない
  • 会話が常に否定から始まる
  • 信頼よりも疑いが先に立つ
  • 皮肉や攻撃がコミュニケーションの軸になっている

多くが「誰も信用できない」「今の若いヤツには、どうせできるはずがない」と相手を信用しない人。「だからダメなんだ」「お前は何もわかっていない」などと否定から入る人。あなたの職場にも思い当たる方が実際にいるかもしれません。

【研究①】パワハラをする人は、認知症リスクが約3倍に

フィンランドで、ある研究が行われました。平均年齢71歳の高齢者を対象に「どれほど他者を信用できるか」を調べ、8年以上健康状態を追跡したのです。

「人は利己的だ」「誰かを信頼するのは危険だ」というような態度を、研究者は「シニカル不信(cynical distrust)」と呼びます。

調査の結果、シニカル不信が最も強いグループの人たちは、そうでない人と比べて認知症の発症リスクが約3倍になることがわかりました。

この「不信」は、パワハラ言動そのものである

ここで注目すべきは、この「シニカル不信」という態度が、まさにパワハラ加害者に見られる特徴と重なるということです。

「部下を信用しない」「相手の努力を評価しない」「否定から入る」——これらはすべて、他者への不信から生まれる言動です。つまり、パワハラ言動の根底にある「不信」が、将来の認知症リスクを高めているのです。

なぜ「不信」が認知症につながるのか

その理由は3つあります。

慢性的なストレス状態になる

批判や不信は、脳を戦闘モードにします。コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰分泌が、記憶を司る海馬を萎縮させるのです。

孤立しやすい

批判や攻撃ばかりする人の周りからは、人が離れていきます。その結果、人との会話や交流が減り、認知症リスクが高まります。

思考が硬直化する

否定ばかりしていると、脳は柔軟性を失い、新しい考えを受け入れず、変化に対応できなくなります。

相手を信用せず、否定から入る。あたかもパワハラの引き金になるような、そういった言動を続けていると、将来認知症になるリスクが高まってしまうのです。

【研究②】「我慢すればいい」は本当に間違いだった

脳科学が教えてくれたパワハラ言動が脳に残す痕跡

2つ目の研究は、オランダ・ユトレヒト大学の「人は侮辱的な言葉に慣れるのか」を実証したものです。科学が、パワハラ言動の影響を解き明かしたとも読み取れるのです。

この研究では、侮辱的な言葉を提示されたとき、私たちの脳がどのような反応をするかを調べています。具体的には、参加者に3種類の文を9回ずつ提示し、声に出して読んでもらいました。

  • 1種類目は、「〇〇はバカだ」などの侮辱の言葉
  • 2種類目は、「〇〇は天使だ」などのほめ言葉
  • 3種類目は、「〇〇は学生だ」といった中立的な言葉

侮辱の言葉は、わずか0.2秒で脳を直撃する

結果は、驚くべきものでした。

侮辱の言葉が出てきた瞬間、脳はわずか約0.2秒後に、強烈な注意反応を示したのです。言葉は、直接脳に0.2秒という反射領域で届くのです。この反応は中立的な言葉よりも強く、ほめ言葉に比べると圧倒的に強いものでした。

この速さでは、身体が避ける間もないし、構える心の余裕もない。不意打ち以外の何物でもない。ハラスメント研修などで「言葉の暴力」を軽視してはいけない大きな根拠になると私は思います。

言い換えると、「たった0.2秒で届く侮辱に、人は慣れるのか?」という問いに対する1つの明確な答えでしょう。

慣れない。脳が、慣れさせてくれないのです。

だからこそ、私たちは言葉を慎重に使う必要があり、パワハラ言動が蔓延する組織は、ただちに健全性を失っていくのです。

何度繰り返されても、脳は侮辱の言葉に反応し続ける

そして、この反応は9回繰り返しても弱まることはありませんでした。つまり、ネガティブな言葉は、何度繰り返されても慣れることはないのです。

例えば、「バカ」「最低」「クズ」などの言葉は、脳にとって「危険語」として処理され、反射的に注意を引きつけてしまうのです。

脳の構造上、人は「バカ」「最低」「クズ」などの言葉に、”慣れる”ことはないんです。

衝撃の事実:侮辱の言葉は「誰宛か」に関係なく脳にダメージを与える

さらに注目したいのは、侮辱の言葉が「自分に向けられたものか」「他人に向けられたものか」に関わらず、脳波にはほぼ同じ反応が現れたということです。

つまり、脳は、「主語」に関係なく、侮辱の言葉自体に強く反応するのです。

脳科学が解明!職場の誰かのパワハラ言動は働く全員の脳を蝕む

この研究からわかることは、侮辱の言葉は、それをぶつけられた人だけでなく、周りにいる人たちにも悪影響を与えるということです。

たとえば、「上司が部下を怒鳴っているのを聞いている」だけ、「同僚が誰かを強く否定している場にいる」だけでも、嫌な気持ちになるだけではなく、脳にダメージを受けてしまうのです。

侮辱が「自分宛」か「他人宛」かは、脳への反応にほぼ関係ないのです。


「関係ないから」は、もう通用しない

よく職場で、仲がいいことを理由に「バカ、デブ、クソ」とまるで中学生のようにふざけている大人が職場にいます。周囲からみたら、その幼稚な言動に呆れかえるならまだしも、その言動の一つ、ひとつの言葉が、誰の脳に影響を与えているか考えたことはあるでしょうか?

「誰にも迷惑をかけている訳ではないから、関係ない」この言い訳はもう通用しないのです。

この実験から分かるように、「第三者だから傷つかない」という、一般的な前提を完全に否定しています。私たちは、他人への暴言であっても、大なり小なり、脳レベルでは自動的にショックを受けていることを、もっと多くの人は知るべきです。

だから、こそ、職場でのパワハラを本気で撲滅しないと、職場のメンバーの身体に悪影響が出るのです。だから「関係性が大事」と言われるのは理由があり、単なるスローガンではないのです。

そこまで説明しても分からないような幼稚な大人がいる事実と、この実験結果の真実、つまり、**「侮辱は、聞いているだけの第三者にも影響を与えるという事実」**を私たちは、真剣に受け止めなければなりません。

つまり、職場でのパワハラ発言が「第三者の人」のメンタルやパフォーマンスを下げる理由が、脳科学的に説明できる。

「昔は普通だった」も、脳科学の前では無意味

また、定番の「昔はこれくらい普通だった」「厳しい言葉で育てるのが愛なんだ」といった、昭和的な考え方は、脳の反応レベルでは成立しない。

パワハラ言動はどの時代、どの職場風土でも、脳にとって強制的な”危険刺激”でしかないのである。

侮辱する本人の脳も、ダメージを受けている

さらに、侮辱の言葉を発している本人の脳にもダメージを与えるのです。他人を侮辱することで、自分が侮辱されているのと同じ悪影響を受けてしまうのです。

また、ネガティブ思考の人は、ポジティブ思考の人に比べて寿命が平均10年ほど短いという研究もあります。

自分自身のためにも、ポジティブな言葉を選ぼう

だからこそ、私たちはもっとポジティブな言葉を選ぶことが大事ではないでしょうか。

それは、パワハラを防止することが、周囲の人のためになるだけでなく、「健康経営」を会社が本気で謳うならば、自分自身と仲間の健康につながることも知って欲しいと思ったのです。

パワハラは、職場だけではなく、自分の脳も壊すかもしれない。

周りの大切な誰かのために。

批判より信頼を、

攻撃より対話を

少しずつでいい。

その小さな変化が、脳の未来を変えていく。

今日のあなたの言葉が、未来のあなたの脳と、明るい組織の未来をつくる。

そう、ココロのなかで願いながら、今日も講義にでるのです。

参考文献

• Van Berkum, J. J. A., Smit, M., & De Meulder, H. (2022).
Do People Get Used to Insulting Language? Frontiers in Communication, 7, 910023.

• Neuvonen, E., Rusanen, M., Solomon, A., Ngandu, T., Laatikainen, T., Soininen, H., & Tolppanen, A.-M. (2014).
Late-life cynical distrust, risk of incident dementia, and mortality in a population-based cohort.
DeSteno, D., et al. (2014). The Grateful Don’t Cheat: Gratitude as a Fount of Virtue. Psychological Science.

参考図書

『THANKFULNESS 感謝脳』(樺沢紫苑・田代政貴 著/飛鳥新社)

※本稿は、上記の海外学術論文を一次資料として参照し、その知見をもとに筆者の視点で再構成したものである。

なお、ポジティブの言葉の効果や日常での実践方法については、一般向けの解説として上記書籍も参考になる。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

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#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

ルールでは、空気は変わらない ― 「企業風土」が新語・流行語に選ばれた今 ハラスメントを生まない組織の“空気づくりとは?東京ステーションホテルに学ぶ、企業風土のつくり方

2025年12月1日、「新語・流行語大賞」が発表されました。

大賞は「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」。

賛否両論あったようですが、私が注目したのは、そこではありません。「企業風土」という言葉が、新語・流行語に取り上げられるくらい関心が高い言葉のひとつとして、ノミネートされていたことに驚いたのです。

なぜ今、「企業風土」なのか

企業風土とは、要するに組織に漂う”空気”のことです。
価値観、考え方、暗黙のルール——目に見えないけれど、確実に人の心と行動を左右するもの。
2025年も(というか、ずっと)、不祥事やハラスメントのニュースが絶えませんでした。
働き方改革、ジェンダー問題、ハラスメント。昔なら「まあそういうもんだよね」で済まされていたことが、今は、職場の枠を飛び越えて、社会全体の問題として注目されています。
つまり、社会全体が「組織の空気を変えなきゃヤバい」という段階に入っている。
だから「企業風土」が流行語になった。そういうことだと、私は勝手に解釈しています。
企業風土とは、組織の土壌です。
職場で日々、どのような意思決定がなされ、どんなコミュニケーションが生まれるのか。そこで働く人たちが毎日どんな想いで働いているのか。
それらすべてを形づくる、目に見えないけれども、組織の空気をつくるものが、企業風土でしょう。

ハラスメントが起きやすい組織の共通点

ハラスメントが起きやすい組織とは、どんな職場でしょうか。
この問いを投げかけると、多くの方が「コミュニケーション不足」を真っ先に挙げます。
たしかにそれも一因です。しかし、厚生労働省の調査(令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」)を見ると、もっと根本にある要因が見えてきます。
ハラスメントを受けた方に、所属する職場の風土を問う質問では、以下のような職場風土が挙げられています。

1 人手不足
2 従業員の年代に偏りがある
3 上司と部下のコミュニケーションが少ない
4 残業が多い/休暇を取りづらい
5 女性管理職比率が低い
6 失敗が許されない
7 ハラスメント防止規定が未整備
8 他部署や外部との交流が少ない
9 業績が低調
10 男性ばかりの職場

この結果から、はっきりと言えることがあります。
ハラスメントを防ぐためには、「働きやすさ」という土壌づくりが欠かせない。
残業が多く、休めず、人手が足りず、日々ギリギリの中で働いていれば、組織の空気はどうしてもギスギスします。
心に余裕がなければ、丁寧なコミュニケーションなどできるはずがありません。
私が企業研修で現場を訪れると、「ハラスメント対策の前に、この労働環境をどうにかしてほしい」という本音をよく耳にします。
ハラスメント問題には、労働環境の問題も起因しており、社員個々の意識改革と同時に、本気で組織が変わらなければ、人の意識は変わりません。

東京ステーションホテルに学ぶ、組織の空気と企業風土のつくり方

では、具体的にどうすれば「よい企業風土」は育まれるのか。

そのヒントを教えてくれるのが、『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』という本でした。

東京ステーションホテルは、110年の歴史を持つ小規模ながらファンの多い名門ホテルです。

一般的なホテルのリピーター率は10~30%。でも、このホテルは平均約40%。多い月は60%を超えるそうです。

なぜか?

私は、スタッフ一人ひとりの高いホスピタリティを生む企業風土にあると思います。

本書では、ホテルで働く11人のスタッフの声が紹介されています。そこには、「よい企業風土ってどう育まれるのか」を知るヒントが詰まっていました。
昔から、CSやホスピタリティの観点から、外資系ホテルやアミューズメントパークの舞台裏を取り上げた本は沢山ありました。しかし、日系のホテルで、しかも東京駅の中にあるという非常に特殊なホテルを取り上げている点が大変気になったのです。
読み進めるうちに、働きやすい職場をつくるためのヒントがエピソードとともにちりばめられており、是非、このブログの読者の皆さんにも読んで欲しくなり、いくつか大切だと思うエピソードをご紹介させてください。
そして、それらのエピソードは大きく2つに分けられることに気づきました。

「理念」と「環境」——この両輪があってこそ、企業風土は育まれるのです。

【理念編】組織の「核」をつくる

まず「北極星」を決める

東京ステーションホテルがある東京駅丸の内駅舎は、2003年に重要文化財に指定され、2007年から5年間かけて大規模な保存・復原工事が行われました。
工事中は休業。再開業する際に、総支配人の藤崎斉氏が開業メンバーと一緒に決めたのが、「北極星」となるビジョンです。

「この先の100年も、東京の中心で輝き続け、語り継がれるホテルであろう。
先人たちの積み重ねと、このヘリテージに感謝して」
迷ったときに立ち戻れる”言葉”をチームでつくる。
これこそが、企業風土の「核」になるんです。

「江戸城を造ったのは誰ですか」

ホテルの再開業にあたり、総支配人の藤崎斉氏は、工事に携わった数百人の職人さんたちにも、それぞれの思いを書いてもらうことにしました。

なぜか?

彼らもまた、このホテルの歴史をつくる当事者だからです。この建物に関わったすべての人の思いを、形として残したかった。
ところが、最初は反応がなかったそうです。
職人さんたちは黙々と仕事をする方が多く、「自分たちの思いなんて」と遠慮していたのかもしれません。
そこで藤崎氏は、ある朝礼でこう語りかけました。
「江戸城を造ったのは、太田道灌でも徳川家康でもない。数多くの大工さんたちです。
東京駅をつくっているのは、あなたたちです」

この言葉に、職人さんたちの空気が変わったといいます。
歴史に名を残すのは、指示を出した殿様でも将軍でもない。この手で石を積み、木を削り、実際に形をつくった職人たちこそが、真の作り手なんだ——そう認められたとき、職人さんたちは初めて「自分もこの歴史の一部なんだ」と実感できたのでしょう。
自分の仕事が歴史の一部になる——そのことに気づくと、人は誇りを持って働けるようになります。
組織の空気が変わる瞬間とは、こういう”意味づけ”が生まれたときなんだと思います。

このとき、職人さんたちが書いたメッセージの一部は、今もホームページで公開されています。

ぬいぐるみのためのオレンジジュース

もうひとつ印象的だったのが、結婚式のエピソード。
新婦が「昔からずっと一緒にいるから」と、ぬいぐるみを席に置きたいと依頼したとき。
スタッフはぬいぐるみの前にオレンジジュースをそっとサーブしたのです。
誰かに言われたわけじゃありません。マニュアルにも載っていません。
「ぬいぐるみは家族の一員です」——その一言を受け取ったスタッフが、自分で考えて、行動した。

私はここに、企業風土の本質を見ます。
“自分で考えて動ける”人が育つ土壌。これは、命令やルールでは絶対に生まれません。

“Our Promise”という行動指針

同ホテルには、マニュアルとは別に「Our Promise」という行動指針があり、研修でもよく話し合うそうです。
ポイントは、「正解を教える」のではなく、「自分はどう行動するべきか」を自分で考える機会をつくること。

これ、ハラスメント対策でもまったく同じなんですよね。
ルールをつくって終わりでは、ハラスメント体質の風土は変わりません。
社員一人ひとりが「自分ごと」として捉え、能動的に動ける環境をつくれるかどうか。
言い換えると、周囲にパワハラをする人がいたときに、傍観者にならず、「自分だったらどう行動するべきか」をいざ、という時に備えて平時から考えておくこと。しかも、1人で考えるのではなく、仲間と共有しておくことが大切です。

【環境編】理念を支える働きやすさ

しかし、どんなに美しい理念があっても、それを実践できる「環境」がなければ絵に描いた餅です。
東京ステーションホテルが素晴らしいのは、理念を支える「働きやすい環境」が徹底的に整備されている点です。

仕事への敬意を、形にする

同ホテルでは、清掃スタッフを敬意を込めて「アテンダント」と呼びます。
中には、定年まで勤め、その後もシニア雇用で活躍するベテランスタッフもいるそうです。
ハウスキーピングは時間との戦いになりがちですが、同ホテルではシーツの交換だけを担当するスタッフを配置することで、アテンダントが丁寧に清掃できる仕組みを整えています。

また、作業ワゴンを廊下に置かないというルールをあえて設けています。重要文化財である駅舎の雰囲気を壊さないためです。効率より、価値を優先する。その判断が、スタッフの誇りをさらに高めているのだと感じました。

働く環境そのものへの投資

本書を読んで驚いたのは、バックヤードまで美しく整えられているという点です。
「水平・直角・並行・垂直」という原則を徹底し、スタッフ食堂には絵画が飾られ、エスプレッソマシンは使い放題。従業員食堂の入口には、宿泊客からのグッドコメントがずらりと貼られているそうです。

制服はすべてセミオーダー。チームワークを重視するあまり、「仲良くできない料理人は採用しない」と明言しているほどです。
こうした環境づくりは、一見すると「コストがかかる」と思われるかもしれません。

しかし、私がハラスメント研修で多くの企業を見てきた経験から言えるのは、働く環境への投資こそが、最も効果的なハラスメント防止策だということです。
余裕のない職場では、どんなに研修を重ねても、人の心は変わりません。

逆に、「自分は大切にされている」と実感できる環境があれば、人は自然と他者を大切にするようになります。

詳しいエピソードは、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが、東京ステーションホテルの取り組みから学べることは、どの組織にも応用可能だと思います。

企業風土は「理念」と「環境」の両輪でつくられる

東京ステーションホテルの事例から見えてくるのは、企業風土は「理念」だけでも「環境」だけでもつくれないということです。
「北極星」のようなビジョンがあっても、人手不足で余裕がなければ、スタッフは自発的に動けません。
逆に、どんなに労働環境が整っていても、「何のために働くのか」という意味づけがなければ、人は誇りを持てません。

理念が「心」なら、環境は「体」。

両方が健全であってこそ、人は気持ちよく働き、自発的に動き、組織の空気は良くなっていくのです。
人手不足、長時間労働、休めない環境――こうした土壌を放置したまま、「コミュニケーションを大切にしましょう」というスローガンを掲げても、現場には響きません。

まずは、働きやすい環境をつくること。

そして、働く意味を共有すること。

企業風土とは、一人ひとりの小さな選択と行動の積み重ねでつくられるもの、そしてその積み重ねこそが、ハラスメントのない、働きやすい職場をつくることにつながることだと、読後、改めて感じました。

『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(上阪徹著、河出書房新書)、みなさんもぜひ読んでみてください。

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309254968/

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
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しかし、ときにそれは人を追い詰める
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#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

怒りの原因は、部下じゃなく栄養かもしれない ― パワハラ上司は野菜不足!?

 最近、おもしろい本を読みました。内藤誼人さんの『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』という本です。スタンフォード、ハーバード、イェールといった大学の心理学研究をわかりやすくまとめた一冊で、人を理解するうえで、非常に参考になる内容です。

その中で、特に印象に残った研究があります。 それは、「キレやすいのは栄養不足が原因」というものです。

栄養が足りないと、人は攻撃的になる?

 イギリス・サリー大学の研究者ベルナルド・ゲッシュ氏が行なった実験があります。囚人231人を2つのグループに分け、半数には栄養バランスのとれたサプリメントを、もう半数には「サプリメント」と偽って、何の栄養もない錠剤を142日間飲んでもらいました。

すると驚くべきことに、栄養を補ったグループでは「暴力」や「命令への不服従」といった行動が35.1%減少したのです。一方、栄養を補わなかったグループでは、わずか6.7%しか減らなかったそうです。

つまり、きちんと栄養をとることで、人の気持ちは穏やかになるということ。 逆に、栄養が不足していると、イライラしたり、攻撃的になったりする可能性があるということです。

「パワハラ上司」が生まれる理由は食生活の乱れ!?

  私たちの会社でも、ハラスメント研修を行う中で、「なぜ人は他人にきつく当たってしまうのか」という根本的なテーマをよく話します。 もちろん、その方の性格も関係しますが、一方で、「食生活の乱れ」が潜んでいるかもしれません。

 「なんだか最近イライラするな」と感じたとき、あなたはどうしていますか? 原因を部下や職場のせいにする前に、まずは「自分の栄養状態を見直す」ことも大切です。ビタミンやミネラルを含む野菜や果物をしっかり摂ることで、思考が穏やかになり、人への対応に余裕が生まれるようなんです。

イライラしている人ほど、野菜を食べない

  書籍によると、おもしろいことに、コーネル大学とリーズ大学の研究では、ストレスが多い人ほど野菜やフルーツの摂取量が少ないという結果も出ています。
つまり、イライラしているときほど、つい甘いものや脂っこい食事に手を伸ばしてしまう。けれど、それがまた心を不安定にして、イライラしやすくなる。まさに悪循環です。

「じゃあ、何を食べればいいの?」

 栄養に関する情報はたくさんありますが、研究で効果が確認されているのは、ビタミンやミネラルなどの栄養素です。特に以下のような食材を意識して摂ることがおすすめです。
 

◎ 緑黄色野菜 ほうれん草、ブロッコリー、にんじんなど。ビタミンB群やマグネシウムが豊富で、神経の働きを整えてくれます。

◎ 果物 バナナ、りんご、ベリー類など。ビタミンCやカリウムが、ストレス対策に役立ちます。
◎ ナッツ類 アーモンドやくるみ。マグネシウムや良質な脂質が心を落ち着かせます。
◎ 青魚 サバ、イワシなど。オメガ3脂肪酸が脳の健康をサポートします。

忙しい人でもできる工夫 「毎日バランスよく料理するのは難しい…」という方も多いでしょう。

そんなときは、
• コンビニのサラダやカット野菜を活用する

• 果物は、なるべくそのまま食べる
 (スムージーよりも糖質が少ない)

• ランチに定食を選んで、小鉢を一品増やす

といった小さな工夫から始めてみてください。

栄養は「人間関係の土台」

 人間関係のトラブルやハラスメントの背景には、心理的・社会的要因だけでなく、身体的な要因も疑ってみてはいかがでしょう?「心と体はつながっている」という言葉は、まさにその通りですから。

社員のメンタルケアを考えるうえでも、食事や睡眠、運動といった「生活習慣の土台」を整えることは、非常に重要です。

もし、あなたの周りに、いつもピリピリしている上司や同僚がいたら、、、、
もしかしたら、「野菜が足りない」のかもしれません。

ピリピリしても、いなくても、健康の為に、あなたも 明日から試してみませんか?


世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100 総合法制出版 著 内藤 誼人 

2021年9月21日出版 是非、お読みください!!

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
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よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#上司
#マネジメント
#パワハラ

いちばん厳しい上司は、自分の中にいる ― 自分で自分にパワハラする人たち

あなたの中に「ブラック上司」はいませんか?

「なんでこんなこともできないんだ?」
「またミスした…本当に使えないな」
「もっと頑張らないと。こんなんじゃ甘えてる」

誰かに責められているわけではない。なのに、脳内で繰り返されるこの暴言。
まるでブラック上司のように、自分自身を追い詰めてしまう。

そんな「自分責めの習慣」に、心当たりはないでしょうか。
私はこれを、「自己パワハラ」と呼んでいます。

自己パワハラが生み出す「負のスパイラル」

自分を責め続けると、やがてこう思い始めます。

「自分は嫌われる存在だ」
「好きになってもらえるはずがない」
「自分には価値がない」

この思考パターンは、職場での振る舞いにも影響します。過度に遠慮する、意見を言えない、評価を素直に受け取れない。結果として、本来のパフォーマンスが発揮できなくなるのです。

冷静に考えてほしい、この事実

少し過激な言い方をします。

あなたが亡くなって一年も経てば、ほとんどの人間関係は忘れ去られるでしょう。職場での評価も、あの日のミスも、すべて記憶から消えていきます。
そして、あなたの頭の中で繰り返されている自己批判の声も、あなたが死を迎えた瞬間、削除されたデータのように完全に消去されます。

だからこそ、今考えるべきは「自分にパワハラする思考を、どう手放すか」ではないでしょうか。限られた人生を、自分を責めることに使うわけにはいきません。

自己パワハラの「損益計算書」


冷静に分析してみましょう。
自分にパワハラしても

• 給料は上がらない
• 評価が良くなるわけでもない
• スキルが向上するわけでもない
• むしろ、メンタルが削られパフォーマンスは下がる

さらに言えば、自分を責めている人は、他人からも避けられやすくなります。

なぜなら、自己否定の強い人は、無意識に周囲にもネガティブな空気を広げてしまうからです。「この人といると疲れる」と思われてしまうのです。

結論はシンプルです。自己パワハラは、百害あって一利なし。

Well-beingを削る「内なる攻撃」

「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉をご存知でしょうか。

これは単なる健康ではなく、身体的・精神的・社会的に満たされている状態を指します。今、多くの企業や経営者が注目している概念です。

しかし、いくら会社が働き方改革を進めても、あなた自身が「責めグセ」から抜け出せなければ、真のWell-beingは手に入りません。

自己パワハラの強い人には、こんな特徴が見られます:

• 成果を出しても、満足できない
• 人の目や評価に敏感すぎて疲弊する
• 小さな失敗に過剰に落ち込む
• 褒められても、素直に受け取れない

これらはすべて、内側からWell-beingを削る「見えない攻撃」の影響です。

では、どうすれば自己パワハラをやめられるのか?
答えはシンプルです。「自分に優しくする」「自分を責めない」こと。

しかし、ここで多くの人が直面する壁があります。

自分を変えようとすると、周囲が邪魔をしてくるのです。

「そんな甘いこと言ってるから成長しないんだ」
「自分に優しくする?それって逃げじゃないのか」
特に日本の職場では、まだまだ「厳しさこそ美徳」という価値観が根強く残っています。

だからこそ、自分を変える前に、周囲からの「反論」をかわす技術を身につける必要があるのです。

反論に巻き込まれないための「3つの視点」

視点1:「正しさ」で戦わない

よくある反応:
「それは時代遅れですよ」
「今は自己肯定が当たり前の時代です」


推奨する返し方:
「そういう考え方もありますよね」
「最近は違うアプローチで成果を出す人も増えてきていますね」

“自分が正しい”を主張するのではなく、”多様な価値観がある”と示す。これが対話を続けるコツです。

視点2:相手の不安を理解する

「厳しく育てられてきた」「苦労して乗り越えてきた」
そんな背景を持つ相手にとって、「優しくする・甘やかす」という考えは、自分の努力を否定されているように感じられるのです。

推奨する返し方:
「○○さんのように、厳しい環境を乗り越えてこられた経験には説得力があります」
「だからこそ、私は今、自分なりのやり方を試してみたいと思っています」
一度、相手の過去を認める。すると、こちらの意見も通りやすくなります。

視点3:距離を保つことも「戦略」

すべての人と分かり合う必要はありません。
価値観がどうしても合わない相手には、戦わず・屈せず・巻き込まれずのスタンスで、心理的距離を保つことが重要です。

推奨する返し方:
「ありがとうございます、参考にします」
「私は少し違うやり方を試してみたいと思っています」
これは「受け入れるふり」ではなく、自分のWell-beingを守る知恵です。

ケース別・実践的な対話例

ケース1:「そんな甘い考えじゃ通用しない」と言われたら

「たしかに、甘えと紙一重になることもあるかもしれません。ただ、感情を整えることで集中力や成果が上がった実感があるんです」

ケース2:「俺の若い頃はもっと厳しかった」と言われたら
「そういう環境で成果を出してこられたんですね。今はまた違うやり方で力を引き出す方法もあって、私も模索しているところです」

ケース3:否定ばかりしてくる先輩に巻き込まれたくないとき
「ありがとうございます。少し整理して考えてみたいので、また改めてご相談させてください」

言い返さずに使える「かわし言葉」集

【否定されたとき】
→「そういう考えもありますよね」

【強く指摘されたとき】
→「なるほど、少し違う視点かもしれません」

【自分の立場を守りたいとき】
→「私も今、自分なりのやり方を試しています」

【会話を終わらせたいとき】
→「ありがとうございます、考えてみますね」

ぶつからなくていい、ずらせばいい

「自分を責めないで生きるなんて、甘えじゃないか」
「周囲が厳しいのに、自分だけ楽になっていいのか」

そんなふうに感じることもあるかもしれません。

でも、今はこう考えています。

ぶつからずに”ずらす”という選択こそ、自分を守る知性。

自分のWell-beingを整えることは、結果的に他人へのやさしさにもつながります。メンタルが安定している人の方が、良いパフォーマンスを発揮でき、チームにも貢献できるのですから。

「甘やかし」ではなく「回復力」

「自分を甘やかしていいのか」
「こんな自分を肯定してもいいのか」
そう迷う気持ちもあるでしょう。

しかし、自分に優しくするということは、「回復力(レジリエンス)」を育てることに他なりません。

厳しさ一辺倒で乗り越える時代は、終わりを迎えています。

どうか今日、自分にこう声をかけてみてください。
「よくやってる」
「今の自分も、悪くない」
「今日は、もう十分」

あなたへの問いかけ

今日一日を振り返って、自分にかけた言葉を思い出してみてください。
それは、信頼する部下や同僚にもかけるような言葉でしたか?
もしそれが厳しすぎるものだったなら、明日は少しだけ優しい言葉に変えてみませんか。

「頑張ってるよ」でも、「お疲れさま」でも、「今日もよくやった」でも構いません。
どうか、あなた自身があなたのいちばんの味方でありますように。

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
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言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
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上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(後編)

職場の悩み相談が5倍に増えたことを公表した企業

数年前、スギホールディングス株式会社がIR活動の一環として、「職場の悩み・何でも相談ダイヤル」に寄せられた相談件数が右肩上がりで増えていることを公表しました。2018年には269件だった相談が、2022年には1585件と、5倍以上に増えているそうです。

一般的には、「社員の悩み相談が増える」のはネガティブなことと捉えられ、外部には知られたくないものと考えられがちです。
しかし、職場で悩みや困りごとがあったときに、会社へ相談しやすい仕組みがあるということは、安心して働ける環境がある証拠とも言えます。「相談すれば対応してもらえる」と社員が感じられることは、会社への信頼にもつながるはずです。

こうした相談の増加を前向きにとらえ、公表したスギホールディングスの姿勢からは、学べる点が多いのではないでしょうか。

「職場では弱音を吐いてはいけない」という心のバイアス

現在、多くの企業が社員のメンタルヘルス対策として、外部のカウンセラーに相談できる仕組みを設けています。ところが、そうした制度が実際にはあまり活用されていないケースも少なくありません。

その背景には、利用する側の心の中に、
「職場で弱音を吐くのは良くない」
「仕事に感情を持ち込むべきではない」
といった思い込みや固定観念があることが考えられます。

「コミュニケーションが大切」と言われながら、職場では「弱音」や「悩み」を口にすることがタブー視される傾向があります。そうした雰囲気の中では、万が一、カウンセリングを受けていると知られたときに、「あの人、何かあったの?」という目で見られてしまうのでは、と感じる人も多いでしょう。
悩みがあっても相談できないのは、制度の問題というより、心にブレーキがかかってしまうからなのです。

会議でも意見が対立することを避ける傾向が


日本の職場では、上司も部下も、弱音を吐くことに慣れていません。「グチやつらさは言わず、我慢するのが当たり前」といった空気が、まだ根強く残っています。

感情を言葉にして伝え合うどころか、会議の場で誰かと違う意見を述べることすら避ける人も多くいます。本来、意見の違いは悪いことではないのに、「対立を避けたい」という気持ちが先に立ち、どちらかが折れたり我慢したりしてしまいがちです。
その結果、不満やストレスがたまりやすくなるのです。

互いの考えや感情を率直に伝え合うことは、対等な人間関係を築くために欠かせない大切なプロセスです。対立を恐れず、きちんと話し合える場が必要です。

効果的なのは、本当に信用できる人との対話

そのためにまず必要なのが、自分の考えや感情を言葉にする習慣です。学歴や知識が豊富でも、自分の感情をうまく言語化できないまま大人になる人は少なくありません。身体と同じで、使わない能力は衰えてしまいます。
言葉にならなかったネガティブな感情は、心の中にたまり続け、やがて心や体の不調につながりかねません。

前回のブログでも紹介した、恐山菩提寺で院代(住職代理)を務める南直哉さんは、Yahoo!ニュースのインタビューで、
「言葉というのは、対話でしか成り立たない」
と語っています。

南さんがすすめるのは、「淡い関係」が築ける相手との対話です。家族や親友のように近すぎる存在でなくても、会社の先輩や上司のように、信頼できる年上の相手に話を聴いてもらうことで、弱音を吐く練習になるというのです。

南さんによれば、SNSはただ一方的に気持ちを吐き出す場で、反応があったとしても、相手の性別や年齢もわからない関係では対話とは言えないと話していました。

弱音を吐いても、誰かに相談して助けを求めてもいい

高校時代にアメリカへ留学していた方が話してくれました。
「アメリカの高校では、何かあるとすぐに気軽にカウンセラーに相談する」とのこと。学校で恋愛の悩みさえも、お茶を飲みに行くような感覚でカウンセラーに話しができたそうです。スッキリして、まだ授業に意欲が湧いたとのこと。

社会に出る前から、悩みがあれば一人で抱え込まずに第三者に相談するという習慣が身についているのは、とても心強いことだと思います。

誰かに話すという行為は、自分の悩みや感情を言葉にすること。言葉にすることで、人に気持ちが伝わりやすくなるだけでなく、自分自身でも「本当はどう感じているのか」に気づきやすくなります。

たとえば、夫婦間の問題でも、第三者を交えて話すことでうまく進む場合があります。日本でも、職場や学校、家庭のことを、もっと気軽に第三者へ相談できることが「あたりまえ」になるといいと思います。

つらさや苦しさを抱え込む時代はもう終わり

「私さえ我慢すればいい」
「男だから自分で何とかしないと」
そうやって、つらさや苦しさを抱え込む時代は、もう終わったのです。

自分の気持ちを言葉にして、「嫌なものは嫌」「つらいものはつらい」と口に出してもいい。
困ったときは「助けて」と声を上げれば、きっと助けてくれる人がいます。

「つらいときは、誰かに弱音を吐いてもいい」
「相談して、助けを求めてもいい」

そう、自分自身に許してあげてみませんか?

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藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
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アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
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最後までお読みいただきありがとうございました。

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ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
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職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

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#パワハラ

上司に弱音を吐けない職場がパワハラを生む?感情を表現する「言葉」を持たない部下たち(前編)

職場で気軽に「死ぬ」という言葉を使う!?

最近、企業の方からこんな話を聞きます。
「最近の若い人は、職場で気軽に『死ぬ』という言葉を使うんですよ」

「最近の若い者は…」で始まる若者批判は、昔から繰り返されてきたものです。
「言葉が乱れている」とか、「ボキャブラリーが乏しい」といった指摘も、50代以上の世代の方なら若い頃に言われた記憶があるのではないでしょうか。
例えば、1990年代には「チョベリバ」(超ベリーバッド)なんて、今ではすっかり「死語」です。

それでも、「死ぬ」とはやはり物騒。
どうして今の若者は、そんな言葉を職場で使うのでしょうか。

「私は自己肯定感が低い」という若者たち

あくまで推測ですが、一因として、自分は自己肯定感が低いと自覚しているケースが多いことが関係しているのかもしれません。ではなぜ、そう感じるのでしょうか?

その理由を私なりに分析してみると、1つは彼らが「この先、日本の景気や社会がどんどんよくなる」という実感を持ったことがないから。
時代の空気から受ける影響は、少なからずあるはずです。

もう1つは、SNSの影響。
スマホを覗けば、そこには誰かのキラキラした日常やポジティブな言葉があふれている。それに比べたら、自分の日常が色あせて見えたとしても無理はありません。関係性の薄い知り合いや、会ったこともない人と自分を比較して、「自分なんてダメだ」と思わされてしまうのは、SNSの負の側面といえるかもしれません。

ネガティブな感情を適切な言葉で表現できない

「死ぬ」と言ってしまうのは、適切な言葉が見つからないから。
「死ぬ」と口にしても、本当にそうなりたいわけではない。
ただ、つらい感情をどう表現すればよいかわからず、結果として極端な言葉を使ってしまう。そんなケースが少なくないように感じます。
このように彼らが「死ぬ」と口にするとき、必ずしも言葉通りの意味を伝えたいわけではないのだと思います。

いわゆるいい大学を出て、いい会社に勤める人でも、自分の感情を言葉で表現するのが苦手な人がたくさんいます。知識もあるし、論理的思考も得意。だから仕事の話はスラスラできるのに、自分の感情を表す言葉はうまく出てこない。そういう人は、年代に問わず共通の課題のように感じます。

特に職場では、「つらい」「悲しい」などのネガティブな感情は、表に出してはいけない考えられがちです。「プロらしくない」と思われます。仕事の場では、個人的な感情は自分の胸の中に押し込めておかなければならないもの。それは、若い世代だけではありません。
現在40代、50代の人たちも、さらにその上の世代の人たちも、個人的な感情を押し殺し、つらいときも歯を食いしばって耐えてきたのです。

適切な言葉を与えられずに押し殺された感情は、「死ぬ」というセンセーショナルな言葉となって、あふれてしまうのだと思います。

感情は「液体」。だから、言葉という「器」が必要

自分で自分の中にあるネガティブな感情に気づくためには、自分が思っていること、感じていることを言語化する力が必要です。

青森県にある恐山菩提寺で院代(住職代理)を務める南直哉さんが、(2024年8月17日)Yahoo!ニュースオリジナル特集編集部のインタビューでこう話しています。
「感情というのは『液体』だ」と。「器に入れてはじめて、色やにおい、重量がわかる。つまり、アウトプットしてみなければ、自分に起こっていることがわからないのだ」

「感情というのは液体」という表現は、とても印象的です。液体のように形のない感情は、「言葉」という器に入れて初めて意味が与えられる。自分の感情を自分で把握するためにも、言葉は必要です。

南さんに会いに来た30歳の男性は、一流大学を出て大企業に就職し、将来を嘱望されているエリートコースを歩んでいるにもかかわらず、会社に行けないという。理由を聞いても何も言わない。自分の感情を言葉で表すことができない。
そこで南さんが、「あなたが言いたいのはこういうことではないですか」と言葉にすると、彼は、
「なぜわかるんですか、さすがお坊さん、神通力ですか」と驚いたそうです。

弱音を吐けることが、職場の信頼を生む

自分の感情をうまく言語化できないのは、慣れていないから。
特に男性には、子どもの頃から「感情を言葉にするなんて、恥ずかしいことだ」と刷り込まれている人が多い。たとえば、職場で上司に「つらい」などと弱音をはくわけにはいかない、と自分を縛っている。

そういう人が、自分の感情を言語化できるようになるにはどうすればいいのでしょうか。それには、南さんが言うとおり「アウトプット」するといい。液体のように形のない自分の感情に、言葉という器を用意するのです。

誰かに話して聴いてもらってもいいし、文章にして書き出してもいい。とりとめのない話や文章でいいから、言葉にして発信することで、感情にふさわしい器が見つかりやすくなります。

それには、「どんなにネガティブな感情も、言葉にしていいんだ」と自分にOKを出すことが大切かもしれません。

だからこそ、令和の今、職場でも、間違っても「弱音を吐くな」「グチをこぼすな」などと言ってはいけない。もう時遅れ。
上司と部下がどちらも弱音を吐くことができ、そしてそれを受け止め合える信頼関係であれば、安心して仕事の相談もできるというもの。

そういう信頼関係という名の土壌を職場で耕すことが、ハラスメントを防ぐことにつながる鍵になるのではないかと私は思います。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、

よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#上司
#マネジメント
#パワハラ

その善意が、人を追い詰める ― 「令和」の東京、地方へ行くと「江戸時代」?!〜人を追い詰める””善意””のハラスメント〜

「ハラスメント」という概念が社会に浸透し、老若男女問わず「セクハラ」「パワハラ」というワードを聞いたことがない人はほとんどいないでしょう。小学生でも知っている時代です。

ハラスメント問題が難しい側面のひとつに、「する側」が無自覚であるケースや、価値観の対立から生まれることは、すでに多くの方が指摘している通りです。

人は誰しも、自分なりの「常識」や「正しさ」を持っています。それは世代や地域、環境によって異なり、ときにそのズレが相手を深く傷つけ、関係を壊す”ハラスメント”につながることがあります。

とりわけ職場のハラスメント問題を考える際に、私がそのギャップを強く感じるのは、「都市部で暮らす人」と「地方で暮らす人」の間に横たわる価値観の違いです。

地方から女性が消えていく現実

2024年に放送されたNHK「クローズアップ現代」の特集『地方から女性が消えていく⁈ 当事者の本音聞いてみた』(2024年6月17日放送)をご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。

番組によると、2050年までに全国で744の自治体で若年女性の人口が半数以下になり、「最終的には消滅する可能性がある」という衝撃的な推計が発表されたとのこと(「人口戦略会議」より)。

もちろん、この事態に国も自治体も手をこまねいているわけではありません。国は2014年以降、「結婚・出産・子育て」支援のために自治体に交付金を支給しています。国の後押しを受けて、多くの自治体で子育て支援などを充実させています。

それでも20代・30代の女性の流出は止まりません。ある町で婚活イベントを企画したところ、42人の申し込み者のうち、女性はたった5人だったそうです。

「やりがいのある仕事がない」と地元を出る若い世代

この特集を見て、「いやいや、婚活イベントの前に、もっとやることがあるだろう」と言いたくなったのは、私だけではないはずです。

地方から女性たちが出て行くのは、そもそもそこが女性にとって生きにくい社会だからです。「女性には早く結婚して子どもを産んでもらいたい」という「圧」が、女性たちを苦しめていることにどうして気づかないのでしょうか。

番組では、当事者である女性たちの声が紹介されていました。彼女たちが地元を出ていく、あるいは出ていかざるを得ない理由として挙げていたのは以下のようなものです。

  • 「将来のキャリアを描けるような、やりがいのある仕事がない」
  • 「独身や子どもを持たない女性向けの支援がない」

ある女性がおっしゃっていた「東京が令和だとしたら、地方は江戸時代」という例えはとても印象的でした。

江戸時代?決しておおげさではありません。地方へ行くと、いまだに人が集まると、男性が座敷にデンと座って飲み食いする一方で、女性は台所で料理をして配膳をしている…という前時代的な光景をよく見かけます。

女性の足を引っ張るのは女性?

このように地方では、東京ではあり得ない価値観が幅をきかせていることに驚かされます。番組でも、こんな声が紹介されていました。

  • 「営業がやりたいのに、男性の補佐的な仕事しか任されない」
  • 「仕事をがんばりたいのに、早く結婚して子どもを産んで、という文化がある」

こんな不満を、上司にはいいづらいでしょう。

さらに女性たちを追い詰めるのは、前時代的な価値観を押し付けてくるのが男性ばかりではないことです。番組にも、母親や祖母から以下のようなことを言われている20代の女性が登場していました。

  • 「女はそんなに一生懸命働かなくていい、いい人を見つけて早く結婚して」
  • 「女は結婚して子どもを持ってやっと一人前」

悪意はないのかもしれません。けれど、それが”常識”という名の重圧となって、若い世代を静かに追い詰めていると私は思います。

うちの会社は、上司は「お父さん」、部下は「子どもたち」

会社でも同じことが起きています。日本には家族主義的な雰囲気の会社、社員数が少なくいわゆるアットホームな感じを醸し出す組織があります。否定はしませんが、その雰囲気や関係性が行き過ぎることで、ハラスメントの温床になり得るのです。

例えば、上司が「親」、部下が「子ども」といった関係性が暗黙のルールとなり、社内でのコミュニケーションでは以下のような行為が日常茶飯事になることもあります。

  • 「呼び捨て」や「キツイ言動」
  • 「バカにする言動」「見下す言動」
  • 「体型容姿をいじる言動」

また、馴れ合いから、セクハラ的な発言をした方が上司部下の関係性が近くなる、親密な関係になれると勘違いしている組織もいまだにあるのです。

職場は、家族ではない

職場のメンバーは家族ではありません。あくまでチームとして、組織の目標やビジョンを叶えるために縁があって集った、世代も価値観も異なるメンバーの集まりですから、そこに馴れ合いは必要ないのです。

甲子園の夏の高校野球の監督のインタビューを見ていても、昭和世代の監督は生徒のことを「うちの子どもたち」と呼び、無自覚で子ども扱い。令和の監督は「うちの生徒たち」と役割で呼ぶのです。些細なことかもしれませんが、呼び方ひとつで、そのチームの風土や監督の価値観が分かってしまうものです。

「親しき中にも礼儀あり」

こんな当たり前のことを、再確認しなければいけない大人たちに虚しさを覚えます。

価値観をアップデートできない人や組織の末路

結婚や出産に関わらず、「社会の一員として、やりがいのある仕事をしたい」という思いは、男性も女性も変わらないはず。それなのに、家族や地域が足を引っ張り、女性の生き方の幅を狭めているとしたら?そんな社会で「結婚して子どもを産みたい」と考える女性が増えるはずがありません。

時代の変化に合わせて価値観をアップデートすることを拒む人や、そういう人ばかりが幅をきかせる組織は、当然のことながら自然と淘汰されていくのでしょう。これは企業であろうと行政体であろうと同じことです。

ひょっとしたら、あなたの”常識”が、誰かの自由を奪っている可能性があるのかもしれません。

古い価値観にしがみついたまま消えていくか、価値観を今の時代に合わせて生き残るか。選ぶのはあなた自身です。アップデートしない限り、「多様性」も「ダイバーシティ」といった言葉も、虚しく聞こえます。

 社会と職場に蠢く闇の正体とは!?

冒頭「婚活イベントの前に、もっとやるべきことがある」と言いました。『地方から女性たちが出て行くのは、そもそもそこが女性にとって生きにくい社会だからです』

このフレーズを組織に置き換えると、『会社から社員が出ていくのは、そもそもそこが社員にとって働きにくい、居心地の悪い組織だからです』とも言えます。

今も、マタハラ、セクハラ、パワハラなど、国などに寄せられるハラスメントの相談は一向に減りません。ハラスメント問題が職場で起こるメカニズムも、地元を離れる若い世代の話と同様に感じます。この問題の根底に蠢く闇の正体を、今回の番組の特集を通じて垣間見たような気持ちになりました。

あなたは、どちらを選びますか?

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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#パワハラ
#ハラスメント
#管理職

ズレているのは、時間じゃない ― 「8時10分前集合って何時のこと?」世代間ギャップとハラスメントの関係

「8時10分前集合」は何時?最近、テレビやXでも話題になっている時間の捉え方の問題をご存じの方も多いのではないでしょうか。

世代でズレる”当たり前”が、実はハラスメントにもつながるという話があります。

「明日は8時10分前集合ね」と言われたので、8時5分に到着。

しかし先輩から「なんで遅いんだよ!」と怒られてしまいました。

「え?言われた通り来たんですけど…」
「そもそも”8時10分前”って、何時なんですか??」

そんな戸惑い、あなたもどこかで感じたことがあるかもしれません。

実はこの「8時10分前集合」、世代によって”まったく違う時間”を意味しているという衝撃の事実があります。そしてこの”ちょっとしたズレ”が、実は職場でのハラスメントの火種にもなりうることをご存じでしょうか。

今回は、時間感覚のズレから始まる「価値観の違い」と、そこから学べるハラスメント防止のヒントを探っていきます。

昭和世代の解釈:8時「の」10分前=7時50分

昭和世代の多くは、「8時10分前」と言われたら「8時の10分前」、つまり7時50分集合だと考えます。

この解釈の背景には、「時間厳守こそ礼儀であり、時間に遅れる=信頼を失う」という考えが染み付いています。昭和生まれの私としては、「10分前行動」は幼稚園の頃から当たり前のように習ってきた習慣です。社会通念として、今でも強く根付いています。

そのため、ビジネスシーンでも、たとえばリモート会議で10時開始の際に、10時ちょうどに入ると参加者が全員揃っていることもよくある光景です。10時に入ると気まずい雰囲気になることもあります。通信環境の問題もあるので、そこまで目くじらを立てる人は少ないですが、明らかに不機嫌な顔をしている人がいるのも事実です。

営業訪問やリアルでの会議では、やはり習慣的に10分前、5分前集合が当然とされています。私の大先輩は「1時間前には相手先に着いているのが当然だ!」という人もいました。相手から時間をいただいている以上、待たせては「絶対にいけない」という強い信念があるようです。

このように「集合は10分前が当たり前」と教えられ、社会に出ても「言われなくても早く来い」が常識だった時代なのです。

若い世代の解釈:「8時10分の”前”」=8:00〜8:09頃

一方、10〜20代はどうでしょうか。メディアでは、このように取り上げられていました。

「8時10分前集合」と言われたら、「8時10分の前…つまり8時5分くらい?」と直感的に解釈し、8時〜8時9分の間に着けばいいと考える人が多いのです。

一瞬、私はフリーズしました。

その背景には、様々な考え方があるようですが、「10分前に来い」と言われること自体が減った(言い方によってはハラスメントと感じられる)といった現代の空気感があるとの解説がありました。

アンケートで見えた、世代間の”ズレ”

北海道テレビの情報番組では、実際に50人に「8時10分前集合って何時のことだと思いますか?」と尋ねたところ、こんな結果になったそうです。

  • 10〜20代:8:00〜8:09頃集合 78% / 7:50集合 22%
  • 昭和世代:7:50集合 100%

若者の約8割が「8時前後に着けばOK」と考えている一方、昭和世代はほぼ全員が「7時50分」と答えています。この差は、部下を指導する上司としては気になるところです。

「時間の常識」が時代によって変わったのです。もちろん、私の周囲の大学生や高校生に話を聞いても、7時50分という人もいたので、内心安心しました。不思議なのは、小学2年生の頃に時間の授業があったと思いますが、実生活でこの言葉を使う機会が10~20代では減ったのか、定着していないとのこと。個人的にはまだモヤモヤします。

待ち合わせ時間に、ハラスメントの”芽”がある!?

たとえばこんなシーン、思い当たりませんか?

  1. 新人に「8時10分前集合ね」と伝えた上司
  2. 部下は8時3分に到着
  3. 昭和世代の上司が「遅い!常識がない!」と叱責
  4. 本人は「言われた時間どおり来たのに…」と戸惑う
  5. 結果、お互いにモヤモヤが残る

このように、価値観のすれ違いを「常識でしょ」と押し付けてしまうと、パワハラと受け取られてしまう可能性があります。「こんなことで」と思った方も多いかもしれません。

ハラスメント防止の鍵は「価値観の違い」に気づくこと

ハラスメントの多くは、「わかってくれて当然」という思い込みから生まれます。

しかし、時代も育ってきた環境も、使っているツールさえも違えば、相手の「当たり前」が違うのは当然です。

「わかってほしい」より、まず”わかろう”としているか?

今回の時間の問題についても、まず「おかしい」とバッサリと切り捨てることは簡単ですが、「面白い!」「そういう見方もあるんだ」「どうしてそう思うの?」と興味・関心・好奇心を忘れずに対話して歩み寄ることは、いつの時代も大切ですね。あなたが「おかしい」と感じた、その20代の部下は、いつかはあなたの上司になるかもしれません。

但し、ビジネスの世界では、待ち合わせは、正確さが求められるわけですから、不安に感じたら「何時何分ですよね?」とハッキリ互いに確認した方がよいと私は思います。遠慮は不要です。

価値観の厄介さ―昔の価値観が「伝統」にすり替えられる怖さ

この価値観の問題は、今回は時間をテーマにしていますが、組織などでは古い価値観を「伝統」にすり替えて、新しい価値観から目を背けようとする人たちもいます。

「うちは何十年もこのやり方でうまくやってきたんだ」

このように、旧来のやり方で成功体験があればある組織ほど、変化を受け入れることに抵抗がある傾向があります。

「昔のやり方がよかった。今のやり方は一見新しいように見えるけど受け入れられない」という回顧主義になり、過去に固執するケースもあり得ます。

その結果、退職などで人が流出してしまうことで、「古き良き価値観」を継承する人もいなくなってしまうこともあり得ます。

新入社員のみなさんへ

「言われた通りやったのに怒られた」
「空気読めって…何を?」

そんな経験があるかもしれません。

でもそれは、あなたが悪いわけではありません。ただ「わかり方の違い」—理解の仕方、受け止め方に違いがあっただけなのでしょう。

だからこそ、伝える側も受け取る側も、お互いの前提をすり合わせることが何より大切です。しかし、思った言葉を伝えないと、本当の想いは届きません。「ヤバい」「パワハラっぽい」など、SNSで溢れかえる言葉を使って表現しても、上司には届かないかもしれません。

具体的にどうして欲しいのか、何に困っているのかを伝える力を磨くことは、お互いの誤解をなくしていくために大切なことですね。繰り返しになりますが、今回の時間に関する問題は、不安に感じたら「何時であっていますか?」と質問すれば済む話です。そこには遠慮は不要です。「こんな質問して、笑われたらどうしよう」そんな思いは捨ててください。あとで揉めるよりもよっぽど大事なことです。

最後に

「8時10分前集合」って、あなたなら何時に行きますか?

今回のこの問題の答えは、単なる時間でもありながら、一方であなたの価値観そのものです。

そして、相手の答えに「そう考える人もいるんだ」と思えたなら、もうそれだけでハラスメント防止のスタートラインに立っています。

「わかってほしい」より「わかろうとする」
そして、お互いにしっかりと「確認」をすればよいのです。

その姿勢が、信頼もチームも育てていくのです。

そのきっかけは、相手の気持ちに耳を澄ますことかもしれません。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
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最後までお読みいただきありがとうございました。

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