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正しくても、人は壊れる ― 「カンニングを叱られた高校生に何が起きたのか? 職場にも通じる『指導の落とし穴』」

「指導死」という言葉を知っていますか?

学校などで教員による不適切な指導をきっかけに、子どもが命を絶つこと——それを「指導死」と呼びそうです。重いテーマですが、この問題は企業におけるハラスメント対策と同じ構造を持っています。だからこそ、取り上げたいと思います。

1年前、大阪の有名進学校で起きたこと

2025年5月、読売テレビが衝撃的な特集を放送しました。
「繰り返される〝指導死〟『卑怯者です』カンニングの指導後に息子は命を絶った…両親の叫びと現役教員の本音 生徒指導はどうあるべきか?」
取り上げられたのは、1年前に大阪の有名進学校で起きた事例です。定期テストでカンニングが発覚した男子高校生が、学校での指導直後に自ら命を絶ったのです。
両親によると、教員に促されて彼は「卑怯者です」と言わされたそうです。さらに、全科目0点、8日間の自宅謹慎、写経80巻などの処分が言い渡されました。
遺書にはこう綴られていました。
「死ぬという恐怖よりも、このまま周りから学校内から『卑怯者』と思われながら生きていく方が怖くなってきました」

「予測は困難だった」で済まされるのか

学校側が設置した第三者委員会は、「『卑怯者』という表現など、指導には問題がある」と指摘しました。しかし「自殺の原因とは認定できない」と結論付けています。
両親は「不適切な指導が原因で息子は自死した」として学校側を提訴。裁判は双方の主張が対立したまま、1年が過ぎています。
学校側の主張は、「同様の指導を受けた生徒が自死したことはなく、予測は困難だった」というものです。
わが子を亡くした両親が、それでも「指導は必要」だと声を振り絞る姿に胸が痛みます。両親が問いかけているのは、「指導のあり方」なのです。

「指導死」の疑い、過去33年間で97件

専門家らによる調査によると、「指導死」の疑いがある事例は1989年〜2022年で97件に上ります。
この事態を受け、文部科学省は2022年に生徒指導の手引き「生徒指導提要」を12年ぶりに改訂。「教職員による不適切な指導が、不登校や自殺のきっかけになる場合もある」ことが初めて明記されました。

教員たちの本音——アンケートから見えた「指導への不安」

教育現場では「適切な指導」のあり方をどう捉えているのか。番組取材班は関西の公立・私立高校5校の教員にアンケート調査を実施しました。一部をご紹介します。

回答者:27人(20代〜50代、教職員歴4年〜37年、男性24人・女性3人)

まず、「生徒指導で大切にしていること」「難しいと思うこと」について聞きました。


「起きた事案だけで判断せず、その行為に至った経緯や生育環境、最近の様子など、背景を把握したうえで必要な指導を行うよう心がけている」(50代男性)
「ルールとマナーを守ること。まじめに頑張っている生徒がおろそかにならないこと。世の中や学校のルールよりも、個性というわがままを押し通す大人が増えたこと」(50代男性)
「生徒が将来、社会で生きていくことができる力を身につけさせることを大切にしている。時代の変化もあり、社会や学校、生徒、保護者との関係をうまくつないでいくことに難しさを感じる」(30代男性)
「生徒、教師、保護者など関係するすべての人間が納得できる指導を心がけています。それぞれの立場や思いがあり、思うようにはならないこともある点が難しいです」(50代女性)


これらの回答からわかるのは、教員たちが生徒指導に大きな難しさを感じているということです。
特に目立つのが、「不安」「心配」という言葉です。それだけ自分の指導に自信が持てないということでしょう。

これは学校だけの問題ではない

そして、これは学校だけで起きている問題ではありません。企業でも、部下への指導に悩む上司と同じ構図です。


「強めに指導した後、次の日学校にちゃんと来てくれるか、真っすぐ家に帰るか不安になる」(40代男性)
大切なのは、その日のうちにフォローをすることです。
学校でも会社でも、指導することは必要です。しかし、叱りっぱなしにするのは指導ではありません。また、「強めの指導」とはどの程度を指すのか、という問題もあります。
ある知人の息子さんが通う公立中学校では、生徒を叱ると教員から親にその日のうちに電話がかかってきて、「こういう理由で息子さんを叱りました」と説明があるそうです。


「生徒の顔色や保護者の顔色を気にしながら指導をしないといけない時代」(30代男性)
このように回答している教員もいますが、相手の気持ちを想像し、フォローすることは、本来いつの時代でも必要なことです。


「本当にこのルールは必要なのか、それを守らせることはその子の将来に役立つことになるのだろうかと考えることはあります」(40代男性)
ルールそのものへの迷いを感じている教員もいます。
学校にも会社にも、使われていないルールがたくさんあるのではないでしょうか。誰も守っていないルールに意味はありません。ルールブックは、単なる「紙」です。

学校にも会社にもまん延する「指導したら損?」という空気

「指導死」という言葉が使われることで、指導そのものがしにくくなると感じている教員もいます。


「正直、学校現場には『指導したら損』という雰囲気もあります。生徒や保護者に強く追及され、頑張る人ほどつらい思いをしています。そのような言葉が広がれば、その空気が助長される気もします」(30代男性)
「生徒の命は大切です。そう思っていない教師はいないと思います。指導する中で生徒たちが『指導死』という言葉を盾にすることで、指導がやりにくくなったり、若い先生たちがやる気をなくしてしまったりすることを心配しています」(40代女性)
「指導することは教師の大切な仕事だと私は考える。この言葉が独り歩きし、指導=悪という印象になると、教師は指導しなくなる」(50代男性)


「指導したら損」という空気は、企業にもまん延しています。
「ヘタに指導をするとパワハラと言われる。だったら指導をしないほうがいい」と考える上司が増えています。しかし、指導そのものを放棄するのは、「適切な指導とは何か」という議論からの逃げでしかありません。

それでも「適切な指導」を考える人たちがいる

もちろん、中には「適切な指導」について真剣に考えている教員もいます。


「多くの教員が経験のないことだけに、日常の指導の先に『死』があることに認識が足りない」(40代男性)
「死に追い込んでしまうようなものは指導とは呼べないと感じます」(30代男性)
「大人の言葉ですごく傷つき命を落としてしまう子がいるのは非常に悲しいことで、あってはならないと思います。指導する側はそんな気はなくても死を選んでしまうことを頭に入れて指導していく必要があると思います」(30代女性)


指導者が自覚すべきこと

学校でも会社でも、教員や上司による「指導」や何気ない一言が、生徒や部下の心を深く傷つける場合があります。
パワハラは、被害者をメンタル疾患に追い込み、最悪、命を奪います。
不適切な指導が人の命を奪うことがあるというリスク。そして、自分が発する部下に向ける「コトバ」をより丁寧に選ぶことは、ますます、指導者側は自覚していなければいけない- あらためてご紹介した出来事から私はそう思います。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

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#管理職
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強いふりを続けるほど、壊れていく ― 管理職の皆さん、困ったときに「助けて」と言えてますか?

相談業務は大変

 どこの企業もハラスメントの相談窓口を設置、相談担当者を育成して、「社員からの相談を聴く」一見、簡単そうに見えて、その道のプロでもなかなか難しい仕事を任されて日々、社員から寄せられる様々な相談と格闘している社員が全国にいらっしゃいます。

 一方で、現場の管理職も、ラインの責任者として、日常の業務内容に関することに限らず、職場での部下などから人間関係の悩み相談されることも多いことかと思います。大企業になると、コンプライアンスリーダー制度を設けて、コンプライアンス部門と協力して、なるべく早く現場の悩みに対応すべく、管理職がコンプライアンスリーダーを兼任して、仕方なく!?引き受けている方も少なくありません。

 相談者からの相談に対応することで、当然、その分自分の仕事の時間が減りますから、管理職といえども、日常のプレイヤーとしての仕事、マネジメントの仕事、どちらも手を抜くわけにはいきませんので、正直いくら時間があっても足りません。上司の仕事量は増えるばかりです。そのことでかえってストレスを抱えている辛さも実際に聞こえてきます。

 深刻な相談は別として、人間関係の好き嫌い、同僚同士の嫉妬、マネジメントの誤解、経験を重ねた管理職からすれば、「それくらい自分で解決してよ」と、思うような大したことないと言いたくなる悩みであっても、部下からすれば深刻です。しかし、役割上、しっかりと「傾聴」しなければならず、いつのまにか「傾聴も我慢のスキル」と誤解されるようになり、余計に我慢することが増え、比例して、これまた上司のストレスも溜まっていくのです。

なぜ、上司は相談窓口を利用しないのか?

最近、私が気になることがあります。会社では相談窓口を利用しよう!と部下に声高にPRするのは、いいのですが、なぜ肝心な管理職はPRする側になるだけで、管理職側は会社に相談しないのでしょうか?管理職の相談件数が、一般職に比べて少ない、或は、ゼロの会社もあります。

その背景に、ある特徴があります。特に、上司世代は、昔、学校や家に帰れば親から「自分ことは自分でやろう」と習って育ちました。学校や習い事、塾の先生も、今に比べれば、厳しい指導スタイル。

その価値観を疑わないまま会社に就職し、歯を食いしばって、昨日よりも明日、明日よりも明日と、苦労と我慢が自分を成長させると信じで疑わず、当時上司の(現在は80代)パワハラにも耐え、根性論で這いつくばってきた世代といえるでしょう。ある意味、80代の上司の価値観を擦り込まれてきた節はあります。

上司だってパワハラをうけている

色んな苦労を乗り越えて、成果をあげてきたからこそ管理職の立場にあることは間違いない事実であり、素晴らしいことです。しかし、その価値観で30年以上も同じ会社で、同じ風土で会社員人生を過ごすと、頑張ってもできないことや、困ったことがあっても、人に相談が出来なくなる人が、今、増えているのです。管理職だって完璧な人間ではありません。大きな声では言えませんが、部下には知られたくない苦手な仕事もあります。同僚や部下に頼ることなく、仕事の悩みを一人で抱え込むのです。ここだけは聞いて欲しいのですが、「悩み」を抱え込むのです。これは、仕事に限らず、家庭、自分、将来、病気、介護と様々です。

 部下や同僚に「助けて」と言うと、相手に迷惑をかけたり、「無能な上司」と思われたりするといった

不安にかられ、自分から言い出せないのです。上司だって、上司の上司からパワハラをうけます。役員会で怒鳴られて、精神的に追い詰められて退職を余儀なくされた部長や課長を何人も見てきました。「売上があがらないならが、いますぐ、その窓から飛び降りろ!」こんな言葉が役員会で飛び交う時代錯誤の会社がいまだにあります。

退職すれば、上司の役員は、「あいつは根性が足りない」と一蹴し、内心、敵が減ったとほくそ笑む。結局、役員自身のマネジメントの無能さを、部下の精神的な弱さにすり替えられ、「なかったこと」に置き換えられ、もみ消される。これがまだ、今でも日本で行われているのが実態です。

増える50代の自殺者数

 今、日本の特に50代の自殺者数が増えています。「助けて欲しい」この一言が言えない上司。職場では、部下の悩みは聞くとても優しい上司ですが、自分の悩みは、誰にも吐露できない上司が増えています。

もし、管理職の皆さんが、部下や同僚から助けを求められたら、仕事だから相談にはのるのかもしれませんが、一人の人間として「何か手伝えることないかな」そんな気持ちは湧き起こりませんか?

大袈裟かもしれませんが、目の前で、突然、心臓発作で苦しんでいる人がいても、あなたはその場から逃げますか? 

助けを求めても、自分の思うようにいかないこともあるでしょう。それが会社です。でも、部下にさんざん進めている相談窓口だって、ちゃんと上司である「あなた」の話を聞いてくれます。社内が恥ずかしいなら、社外でもいい。プロのカウンセラーでもいいのです。

管理職の皆さん、もう我慢するのはやめませんか? 

もっと、相談しませんか?

あなたが、本当に心の底から恥ずかしがらずに「助けて」を同僚や部下に伝えたときに、頼られた相手は、できる範囲でなんとか応えたいと思いますよ。信じてください。

我慢の限界までいくと、肉体と精神が病み、最後は自殺します。私の親戚にも、上司のパワハラで最後は癌になり、職場復帰できずに、先の見えない介護生活がはじまりました。生き地獄です。後悔していました。「勇気をもって会社を辞めればよかったと」

生活や給与、ポジションにしがみつくことで、かえってすべてを失うもの方が多かったと。生気を失った状態です。ご家族の悲痛の叫びが忘れられません。

相談することは恥ずかしいことではない

相談することは、恥ずかしいことではありません。その抱えている悩みに共感し、伴走してくれる、人には言えない悩みを吐露できる人がいる人生は最強です。会社の人間関係は、所詮、究極的には他人の集まりです。放置しておくと、内心、無関心です。

自分らしい人生を生きるためには、「相談する力」がますます、求められてきます。

人生100年時代、リスキリング、もうこういった言葉は聞き飽きました。ヘドがでます。

これから残りの人生をもっとラクに生きるためにも、そして、AI、AGIをはじめとして世の中が進化しても、やりがいや、生きがいのある人生を送るためには、是非、「相談する勇気」を身に付けて欲しいと切に願うばかりです。

読者のみなさんは、相談窓口活用していますか?

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。 
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
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言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
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