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職場の挨拶は、単なる「ビジネスマナー」ではない。—台北で出会った80代女性の教え

最近、日本では「不機嫌ハラスメント(フキハラ)」という言葉をよく耳にするようになりました。

 挨拶をしない、無視をする、不機嫌な態度で周囲を威圧する。忙しい日々の中で、そんな刺々しい空気に息苦しさを感じている人も多いのではないでしょうか。
 実は、企業研修の現場でも「最近、挨拶がない職場が増えている」という声をよく耳にします。

「朝、誰も挨拶をしないんです」
「不機嫌な空気で、声をかけにくい」
そんな悩みを、いくつもの会社で聞いてきました。

 会社の朝、エレベーターで同じ職場の人と乗り合わせても、目を合わせずスマートフォンを見る。挨拶はするけれど、そこに気持ちは乗っていない。そんな光景を、私たちはどこかで見慣れてしまっている気がします。

「なぜ、今の日本人はこれほどまでに挨拶が下手になってしまったのか」

その答えのヒントを、私は出張先の台北のホテルで見つけることになりました。

エレベーターで受け取った、魔法の一言


その日の私は、仕事の緊張と移動の疲れで、少し表情が硬くなっていたかもしれません。朝、ホテルのエレベーターに乗り込むと、そこにはアメリカから来たと思われる、80代くらいの気品ある女性が先に乗っていました。
 目が合った瞬間、彼女はごく自然に、しかし確かな温かさを込めてこう言ったのです。
「I hope you have a good day 」
(あなたが今日、良い一日を過ごせますように)

その一言を受けた瞬間、自分の中に張り詰めていた見えない糸が、ふっと解けるのを感じました。
ただの「Good Morning」よりもずっと深く、私の今日という時間を肯定し、応援してくれるような響き。見ず知らずの私に対して、これほどまでにポジティブなエネルギーを贈れる彼女の豊かさに、私はハットしたのです。

「マナー」としての挨拶、その先にあるもの


 もちろん日本には、言葉にしなくても相手の気持ちを察する文化があります。感情を強く表現するより、空気を壊さないことを大切にする。それもまた、日本人らしい優しさであり、一種の「美学」でもあります。

 しかし、挨拶がただの「型」になったとき、そこから心が抜け落ちてしまいます。そしてその隙間に、不機嫌という空気が入り込むのかもしれません。
 私にとって自由な感情表現は、どこか苦手な分野でもありました。これまでの人生で、挨拶を「間違いのないように行うべきマナー」として捉えすぎていたのかもしれません。

 そもそも、挨拶は正解を競うものでも、義務でこなすものでもありません。本来は、もっと自由に、もっと素直に、自分の心を相手に手渡していいものなのだと気づかされたのです。

 欧米の文化において、ポジティブな言葉を口にすることは、相手へのメッセージであると同時に、自分自身への「宣言」でもあります。
「私はあなたに対して友好的であり、私自身も今日を良い一日にしたい」と明確に言葉に乗せることで、自分の中のスイッチを入れているのです。

心の中で「翻訳」して放つ一言


 私は、日本人が無理に欧米のような表現を真似する必要はないと思っています。職場で「良い一日を!」と日本語で言うのは、やはりまだ少し照れ臭い人も意外に多いものです。

 大切なのは、言葉そのものではなく、その「裏側にある願い」を自覚することではないでしょうか。たとえ口から出るのが、いつもと同じ「おはようございます」であっても、心の中で 「今日も一日、お互い無事で、良い日になりますように」 と翻訳して発してみる。或は、想いを込めて発してみる。

 その小さな「願い」を込めた意図は、必ず声のトーンや表情、空気感となって自然に相手に伝わります。

微笑みの連鎖を、日本へ

 台北を去る最後の朝、私はレストランで毎朝顔を合わせていたスタッフに、自分でも驚くほど自然に、こう言葉をかけていました。

「Thank you. I hope you have a good day」

すると彼は、私の言葉を慈しむようにオウム返しに唱えたあと、
最後には私の手をぎゅっと握りしめ、
満面の笑みでこう言ってくれたのです。

「My pleasure!」

 その手の温もりと、心からの笑顔に触れた瞬間、私は確信しました。
あの日エレベーターで出会った女性から受け取った「ポジティブな種火」が、
今、確実に彼へと手渡されたのだと。
驚きとともに、私の心はこれまでにない温かさで満たされました。

日本の職場を、もっと温かい場所に

 私たちは、「おはよう」や「ありがとう」をあまりにも「義務の言葉」として使いすぎていたのかもしれません。相手をポジティブにする言葉は、巡り巡って自分自身を救います。

 わざわざ英語を使う必要はありません。
明日、隣にいる誰かに、ほんの少しの「願い」を込めた挨拶を届けてみませんか。

その一言が、誰かの、そしてあなた自身の不機嫌を溶かす特効薬になる。
台北の清々しい朝、私の手を握ってくれた彼の笑顔が、何よりの証拠です。

おわりに

 今回の台北出張は、心身ともにハードな瞬間もありましたが、だからこそ普段見過ごしていた「挨拶の温度」に気づかされました。
私自身の備忘録として、そして今、職場の空気に悩む方への一つのヒントになればと思い、綴りました。

挨拶は、ビジネスマナーという義務ではない。お互いを尊重し、応援し合うための最強のツール。パワハラが起きない空気のつくり方。台北にて

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

特に「これはパワハラなのか?」という企業現場で最も悩みが多い
ハラスメントのグレーゾーン問題に特化した研修を日本でいち早く企画・提供。
「ハラスメントにおびえて部下指導ができない管理職」を支援することをテーマに、企業研修・講演・執筆活動を行っている。
立教大学経済学部卒
産業カウンセラー

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
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