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「任せない上司」が、組織を壊す。ホワイトハラスメントの本当の正体

クリーンな職場の、静かな異変

「また、新しい言葉が増えたのか」

ネットで見かけた「ホワイトハラスメント」という文字に、
私は一瞬、ノートパソコンを閉じそうになりました。
ハラスメントのインフレ。
そんな言葉が浮かぶほど、今の世の中はレッテル貼りに
躍起になっているように見えたからです。

けれど、読み進めるうちに、心のどこかにあった違和感の正体が
形を成していくのを感じました。
それは、「良かれと思って言わないこと」が、実は相手のためではなく、
自分を守るための壁になっていないか、という問いです。
過剰な遠慮が成長を阻み、関わらないことが孤立を生む。

「何を言うか」と同じくらい、「何を言わないか」が組織の体温を
奪っているのではないか。

いや、でも、本当に問題はそこにあるのか?

皆さんと一緒にこの問題を考えたく、再びパソコンに向き合いました。
それを確かめるために、まずこの数字を見てください。

中途入社1年以内の社員の56.9%がこの言葉を認知し、13.6%が実際に経験しています。さらに、その経験者の71.4%が「1年以内に転職したい」と回答しています。
出典:マイナビ「中途入社1年以内の社員に聞いた”ホワイトハラスメント”に関する調査」(2026年4月9日発表、n=1,446名)

これは単なる「優しすぎる職場」の問題ではありません。仕組みの問題です。

「優しいのに苦しい」―これは異常事態です

その「配慮」、本当に相手のためになっていますか

現場で語られている声を見てください。

「先輩が先回りして全部やってしまう」
「責任のある仕事を任せてもらえない」
「仕事が途中でも定時だから帰らされる」

これらはすべて、”配慮”として行われています。
しかし、受け取る側が感じているのは安心ではありません。
自分が必要とされていない感覚です。

ダンベルを取り上げて、何が育つのか

人は、適切な負荷の中でしか成長しません。
筋肉と同じで、壊れない程度の重みがなければ強くなりません。
ホワイトハラスメントとは、部下からダンベルを取り上げ、
「無理しなくていいよ」と言いながら、成長の機会そのものを奪う行為です。
これは優しさではありません。時間差で効いてくるキャリアの破壊です。
みんな正しい。でも、何かが足りない。

語られている。でも、届いていない。

  この問題は、すでにネット上でも議論されています。
現場の声とネット上の議論を4つに類型化すると、以下のようになります。

若手の声:
「このままで大丈夫か」
「怒られないが、正解も教えてもらえない」
「責任ある仕事を任せてもらえない」
「市場価値が上がらない気がする」
“ぬるさ”そのものが、不安になっています。

上司の声:
「何を言ってもリスクになる」
「指導したらパワハラと言われそう」
「言葉選びに疲れた」
「関わらない方が安全」
関与しないことが最適解になっています。

ネット世論:
「甘えではないか」
「贅沢な悩み」
「昔はもっと厳しかった」
「ホワイトの履き違え」
世代論・価値観論に矮小化されています。

専門家の見解:
「心理的安全性の誤解」
「ぬるま湯ではない」
「フィードバック不足」
「評価基準の曖昧さ」
優しさと放任が混同されています。

しかし、それでも何かが決定的に足りないような気がします。
すべて”現象”の説明で止まっているからです。

問題は「優しさ」ではありません

「自己保身」論の限界

よく言われるように、これは「優しすぎる問題」でもあり、
上司の「自己保身」の問題でもあります。確かにそれは正しいです。
しかし、それでもまだ浅いと言えます。

取り違えているのは「責任」の定義です。
本当の問題は、「責任とは何か」を取り違えていることです。

その「報告」、上司は安心できていますか?

「責任を取る」は、実は成立しない
多くの管理職がこう言います。「私が責任を取ります」と。
その言葉には、チームを守ろうとする誠実な気持ちがあります。
それ自体は、大切なことです。

ただ、構造的に見ると少し違う側面があります。
本来の意味での「責任を取る」とは、損失を自分で被ることです。
株式会社という仕組みにおいて、それができるのは株主と投資家だけです。
経営者も管理職も、現場の社員も、損失そのものを引き受けることはできません。
つまり、私たちにできるのは
「責任を取ること」ではなく、
「責任を果たすこと」です。
この違いは、小さいようで決定的です。

2種類の「果たす責任」、あなたはどちらを果たしていますか

「果たす責任」には、2種類あります。
一つ目は、自分に課された仕事をやり遂げること。
役職も年次も関係ありません。これは働くすべての人間が負う、
最低限の責任です。

二つ目が、任された仕事について「上司が安心できる状態を作る」こと。
これをアカウンタビリティといいます。

報連相とアカウンタビリティ、ゴールが違うと気づいていますか?
報連相は、「正しく伝える手段」を教えてくれます。
いつ、何を、どう伝えるか。それ自体はとても大切なことです。

でも、アカウンタビリティが問うのは、その先です。
「伝えた結果、相手は安心できているか」。
手段を守ることと、結果を出すことは、同じではありません。
「一応、報告はしました」
「送りました、伝えました」

それは伝えただけです。

上司がしっかりと受け取ったことを確認して、上司が安心した状態でなければ、
その仕事はまだ終わったとはいえないのです。
報連相は「正しく伝える」。アカウンタビリティは「安心できる状態を作る」
この違いは、小さいようで決定的です。

「任せる・任される」の本質

 「任せる」とは、仕事を渡して終わりにすることではありません。
上司にとって「任せる」とは、部下に仕事を預けることだけではありません。
部下が安心して仕事ができる状態をつくることです。
部下にとって「任される」とは、単に仕事を受けることではありません。
報告とともに、上司が常に安心できる状態を上司に返すことです。
これが、心理的安全の本質です。
つまり、安全な職場とは、上司と部下が一緒につくる環境のことです。

部下は、失敗も成功も隠さず、情報を上げます。
上司は、事実をありのままに受け止めます。
たとえマイナスの情報であっても、人格を否定することはありません。
その安心があるから、情報は正しく流れます。

責任の連鎖が、組織を動かす

  ホワイトハラスメントは、この「任せる・任される」の本質が
互いにわかっていないところから生まれます。
本来、責任の連鎖はこう機能しています。
上司が任せる→部下がアカウンタビリティを果たす→上司が安心できる→
さらに任せる。この循環が、組織を動かしています。

しかし、任せなければその連鎖は最初の段階で止まります。
任せない→部下がアカウンタビリティを果たせない。
負荷をかけない→成長が止まる。
任せないから、正しい情報も上がらない。

見方によっては、アカウンタビリティを果たす機会そのものを
奪っているとも言えます。その結果、責任の連鎖が断ち切られます。

ホワイトハラスメントとは、責任関係の崩壊です。

信頼は「覚悟」でしか生まれない
部下が見ているのは、優しさではないとしたら?

もちろん、任せることには怖さが伴います。失敗させるリスクもあります。
だからこそ、多くの上司が無意識にブレーキをかけます。
しかし、部下が見ているのは優しさではありません。
任せてもらえるかどうかです。

任せない上司は、こういうメッセージを発しています。

「お前にはまだ無理だ」

「私は責任を負いたくない」

この二つは、必ず伝わります。その瞬間、上司はどう見えるか。
覚悟がない。
信頼できない。
プロとして見られない。

そして最後に、静かに去っていきます。

甘さではなく、責任の関係へ

ホワイトハラスメントは、新しい問題ではありません。
もちろん、すべての上司がそうだと言いたいわけではありません。
しかし、この傾向が広がっているのは事実です。
ホワイトハラスメントは、新しいハラスメントではありません。
責任を果たす関係が崩れた結果です。

本来の組織とは何か?
本来の組織とは、必要な指摘ができる、任せることができる、情報が正しく
流れるそんな「責任の連鎖」が機能している状態です。
そこでは、厳しさは暴力やパワハラではありません。機能です。
必要なのは、責任を果たす覚悟です

甘い関係は、もう終わりにしましょう。
必要なのは優しさではありません。
信頼でもありません。責任を果たす覚悟です。
任せるとは、丸投げではないです。責任を分解し、見える形にして渡す。
そして、互いに共有することです。
上司には、任せる覚悟が必要です。
部下には、任された責任を果たす覚悟が必要です。

どちらか一方では、成立しません。
その双方向の関係が機能してはじめて、職場は本当の意味で安全になります。
正しい情報が流れ、人が育ち、組織が動きます。

ホワイトハラスメントに悩んでいる方へ。
問題はあなたの感受性が強すぎるのでも、職場が優しすぎるのでもありません。
「任せる・任される」という関係の本質が、まだ共有されていないだけです。

それは、変えられます。

この記事を書いた人

藤山 晴久

ハラスメント研修企画会議 主宰

株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。
このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#ホワイトハラスメント
#パワハラ
#責任
#部下指導
#育成

“こんど”が部下を潰す!?~西武線の電光掲示板が教えてくれた、4月の職場で起きている認識のズレ~

春、4月。
新しい環境に飛び込んだばかりの人たちが、今日も職場で立ち止まっています。
上司の言葉が、届かない。

SNSで話題になったコトバの“違和感”

西武線の電光掲示板に、こんな表示があるそうです。
「こんど」「つぎ」「そのつぎ」「そのあと」
この表示をめぐって、SNS上で話題になっていました。

こんな声が上がっていました。

「『こんど』と『つぎ』は同じ意味に思える。関西人には納得しづらい表示だ」

「関西人からすると、この『こんど』という言葉には非常に違和感がある」

「日本語を学んでいる外国人にとっては、パニックになりそうな難解さだ。英語表記の方が直感的に理解しやすい」

「関東は路線の枝分かれが多く、電車の行き先が多様だから表示が複雑になる。案内を作る側も大変なのだろう」

「関西の表記に慣れていると、『そのつぎ』と『そのあと』のどちらが先に来るのか判別しにくい。もっと直接的な表現はなかったのだろうか」

記事を読んで、ふと考えました。
関西の鉄道は違います。「先発」「次発」。漢字二文字で終わり。
誰が見ても迷いません。
関東の人には「当たり前」の表示が、関西の人には「バグ」に見える。
悪意はありません。ただ、前提が違う。それだけで、言葉は機能しなくなります。

あなたの職場でも、毎日起きている

これ、職場で毎日起きています。

「なるはやで」
「いい感じにまとめて」
「こんど、やっといて」
「適当にやっておいて」
「ざっくりまとめておいて」
「早めに確認しておいて」

上司にとってはすべて、意味の明確な指示です。しかし新入社員には、解読不能
暗号です。

「なるはや」は今日なのか、明日なのか。
「いい感じ」はA4一枚なのか、十枚なのか。
「こんど」は今週中なのか、今月中なのか。

この「言葉のズレ」は、職場ではこうなります。

上司は「今日中」のつもりでした。
部下は「今週中かな」と受け取りました。
締め切りが過ぎました。
「なんでやってないんだ」
「常識で考えろ」
この瞬間、それはもう指導ではありません。

能力の問題ではない。言語のバグだ。

新入社員はまだ、その会社の「言語プロトコル」を持っていません。
「こんど」が何時を指すのか、「いい感じ」がどこまでを意味するのか、
知る手がかりがありません。

それでも仕事は進めなければならない。だから新入社員は毎日、文脈から
推測し、空気を読み、恐る恐る動きます。

そしてズレが起きるたびに叱られる。
最初は「次は気をつけよう」と思います。次第に「何をやっても怒られる」
に変わります。やがて「自分には向いていないのかもしれない」になります。

人は、悪意より無自覚なズレで壊れます。
静かに、じわじわと。

解決策は、難しくない

「なるはや」を「今日17時まで」に変える。
「いい感じ」を「この3点を入れたA4一枚」に変える。
「こんど」を「明日の午前中まで」に変える。

それだけでいいのです。

ただし、一方的に決めるだけでは足りません。
「この仕事、何のためにやるんですか」という問いを歓迎できるか。
その問いに答えられるか。

言葉をすり合わせることは、関係性をすり合わせることです。

ハラスメント防止とは、ズレを放置しないことだ

ハラスメント防止とは、怒らないことだけではありません。
世の中のハラスメント防止セミナーで解説している内容も大事ですが、

ズレを放置しないことです。

「こんど」がいつなのか。「いい感じ」がどこまでなのか。
その確認を「面倒くさい」と思った瞬間に、誰かが静かに壊れ始めます。

西武線の表示を見て笑った人も、職場では「こんど」を連発しているかも
しれません。

自分の言葉が、相手には「バグ」に見えている可能性。

その前提に立てるかどうかが、4月の分岐点です。

出典・引用元
本記事の執筆にあたり、SNS上の以下の議論を参照・引用しました。

出典元: Togetter(トゥギャッター)
記事タイトル: 「こんど」「つぎ」はどっちが先なのか…西武線の案内表示の時制がわかりにくい、特に「関西人には納得できない表示」だそう
URL: https://togetter.com/li/2681749
参照日: 2026年4月5日

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

特に「これはパワハラなのか?」という企業現場で最も悩みが多い
ハラスメントのグレーゾーン問題に特化した研修を日本でいち早く企画・提供。
「ハラスメントにおびえて部下指導ができない管理職」を支援することをテーマに、企業研修・講演・執筆活動を行っている。
立教大学経済学部卒
産業カウンセラー

最後までお読みいただきありがとうございました。

 ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ防止
#アンコンシャスバイアス
#新入社員育成

なぜ、上司の指示は「占い」みたいになるのか?

占いの言葉は、なぜ自分に当たっているように感じるのか

占い師に占ってもらうと、こんな言葉を耳にします。

「流れは悪くないですね」
「動くと運気が開けます」
「これからチャンスが来ますよ」

聞いていると前向きな気持ちになります。
ただ、よく考えるとかなり抽象的です。

「流れがいい」と言われても、何をすればいいのかは曖昧な表現がある。
「チャンスが来る」と言われても、具体的な行動は示されていない。

それでも、多くの人は「当たっている」と感じます。

なぜでしょうか。

占いの言葉が当たっているように感じるのは、
多くの場合、言葉がとても抽象的な側面があると私は思います。

「変化の年です」
「流れが来ています」
「動くと運気が開けます」

こうした言葉は、どんな状況にも当てはめることができます。

転職を考えている人には転職のチャンスに聞こえる。
恋愛中の人には恋愛の進展に聞こえる。
何もなければ「これから起きる出来事」にもできます。

つまり、聞いた人が意味を補ってその意味を自分で完成させる言葉なのです。

タロット占いも同じです。

カードが出たとしても、それ自体が答えではありません。
カードの意味をどう読み解くかは、占い師の解釈に委ねられています。

カードはヒント。
意味を完成させるのは人間です。

職場にも、占いみたいな指示がある

実は、職場にも似たことが起きています。

職場には、占いみたいな指示があります。

「方向性はいいと思う」
「もう少し詰めてみて」
「一回整理してみて」
「その方向で進めて」

言っている意味は、なんとなく分かる。
でも、何をすればいいのかは、はっきりしない。

そんな経験、ありませんか。

「もう少し詰めてみて」の正体

例えば、こんな場面です。

上司
「方向性はいいね。もう少し詰めてみて」

部下
(何を詰めればいいんだろう……)

資料を増やす。
説明を足す。
データを追加する。

そして再び上司のところへ持っていくと、こう言われます。

「うん、悪くないけど、もう少し詰めてみて」

……さっきも同じことを言われた気がします。

結局、部下は自分で考えるしかありません。

何を直せばいいのか。
どこまでやればいいのか。
どの程度が完成なのか。

つまり、上司の言葉を解釈して動くしかないのです。

実は、部下が占いを解読している

ここで気づくことがあります。

上司が占いをしているわけではありません。

部下が、上司の言葉を占いのように読み解いているのです。

「もう少し詰めてみて」と言われれば、
部下は自分なりに意味を考えます。

資料を増やすのか。
データを追加するのか。
説明を整理するのか。

どれも正解になり得ます。

もし結果が良ければ、
「だから言っただろう」となる。

もし結果が悪ければ、
「やり方が違う」となる。

言葉が抽象的であるほど、後から意味を調整できます。

なぜ上司の言葉は占いみたいになるのか

では、なぜこういう言葉が職場で生まれるのでしょうか。

一つは、仕事の複雑さです。

仕事には必ずしも正解が一つあるわけではありません。
状況も変わるし、結果も予測しきれない。

だから「細かく説明するより、方向だけ示す」というコミュニケーションが生まれます。

もう一つは、組織文化。

かつての日本の職場には「察する文化」がありました。

上司がすべてを説明するわけではない。
部下は上司の意図を読み取りながら動く。

いわゆる「以心伝心」や「背中を見て学べ」という世界です。

さらに、日本語そのものも影響しています。

日本語には、状態を表す言葉が多くあります。

「ちゃんと」
「しっかり」
「いい感じに」
「もう少し」

どれも意味は分かるのに、具体的な行動は書かれていません。

こうした言葉は、方向は示しますが、行動は示しません。

だから受け手は、自分で意味を補うことになります。

そこに圧力が加わると、問題になる。

ただし、ここに圧力が加わると、話は少し変わってきます。

「なぜ俺が言っている方向に動かないんだ」
「なぜお前はその通りに行動しないんだ」
「なんで分からないんだ」

抽象的な指示なのに、従わないことを責められる。

こうなると、受け手は強いプレッシャーを感じます。
そして時には、パワハラのような問題が起きることもあります。

もし占い師がこう言ったら

ここで少し想像してみてください。

もし占い師がこう言い始めたらどうでしょう。

「なぜ私が言った通りに動かないんですか」
「なぜ運気が良くなることを信じないんですか」
「だからあなたはうまくいかないんです」

少しおかしいですよね。

占いはあくまでアドバイスのはずです。
それなのに、信じないことを責められたり、圧力をかけられたりしたら、違和感があります。

しかも、占いの場合はお金を払っています。
それなのに、なぜ圧力まで受けなければいけないのか。

それでは本末転倒です。

占いは未来を当てるもの、指示は人を動かすもの

もちろん、すべての抽象的な言葉が悪いわけではありません。
仕事には、あえて余白を残すことが必要な場面もあります。

ただ、少なくとも一つ言えることがあります。

占いは未来を当てるものです。
しかし仕事の指示は、未来を当てるためのものではありません。

人を動かすためのものです。

もし部下が迷っているとしたら、それは努力が足りないのではなく、
もしかすると指示が「占い」になっているのかもしれません。

ちなみに

誤解のないように言っておくと、私は占いが嫌いではありません。
むしろ、占いは面白いと思っています。

ただ、上司の指示が占いみたいになると、正直困ります。
あなたの部下が、曖昧な言葉に不満が鬱積して、静かに気持ちが
離れていくことの方が心配だからなのです。
あらためて、言葉を大切にしたいものです。

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藤山 晴久

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株式会社インプレッション・ラーニング  代表取締役、産業カウンセラー。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。

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このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#上司の指示曖昧なコミュニケーション
#職場のすれ違い
#マネジメント課題
#パワハラ予防


職場の挨拶は、単なる「ビジネスマナー」ではない。—台北で出会った80代女性の教え

最近、日本では「不機嫌ハラスメント(フキハラ)」という言葉をよく耳にするようになりました。

 挨拶をしない、無視をする、不機嫌な態度で周囲を威圧する。忙しい日々の中で、そんな刺々しい空気に息苦しさを感じている人も多いのではないでしょうか。
 実は、企業研修の現場でも「最近、挨拶がない職場が増えている」という声をよく耳にします。

「朝、誰も挨拶をしないんです」
「不機嫌な空気で、声をかけにくい」
そんな悩みを、いくつもの会社で聞いてきました。

 会社の朝、エレベーターで同じ職場の人と乗り合わせても、目を合わせずスマートフォンを見る。挨拶はするけれど、そこに気持ちは乗っていない。そんな光景を、私たちはどこかで見慣れてしまっている気がします。

「なぜ、今の日本人はこれほどまでに挨拶が下手になってしまったのか」

その答えのヒントを、私は出張先の台北のホテルで見つけることになりました。

エレベーターで受け取った、魔法の一言


その日の私は、仕事の緊張と移動の疲れで、少し表情が硬くなっていたかもしれません。朝、ホテルのエレベーターに乗り込むと、そこにはアメリカから来たと思われる、80代くらいの気品ある女性が先に乗っていました。
 目が合った瞬間、彼女はごく自然に、しかし確かな温かさを込めてこう言ったのです。
「I hope you have a good day 」
(あなたが今日、良い一日を過ごせますように)

その一言を受けた瞬間、自分の中に張り詰めていた見えない糸が、ふっと解けるのを感じました。
ただの「Good Morning」よりもずっと深く、私の今日という時間を肯定し、応援してくれるような響き。見ず知らずの私に対して、これほどまでにポジティブなエネルギーを贈れる彼女の豊かさに、私はハットしたのです。

「マナー」としての挨拶、その先にあるもの


 もちろん日本には、言葉にしなくても相手の気持ちを察する文化があります。感情を強く表現するより、空気を壊さないことを大切にする。それもまた、日本人らしい優しさであり、一種の「美学」でもあります。

 しかし、挨拶がただの「型」になったとき、そこから心が抜け落ちてしまいます。そしてその隙間に、不機嫌という空気が入り込むのかもしれません。
 私にとって自由な感情表現は、どこか苦手な分野でもありました。これまでの人生で、挨拶を「間違いのないように行うべきマナー」として捉えすぎていたのかもしれません。

 そもそも、挨拶は正解を競うものでも、義務でこなすものでもありません。本来は、もっと自由に、もっと素直に、自分の心を相手に手渡していいものなのだと気づかされたのです。

 欧米の文化において、ポジティブな言葉を口にすることは、相手へのメッセージであると同時に、自分自身への「宣言」でもあります。
「私はあなたに対して友好的であり、私自身も今日を良い一日にしたい」と明確に言葉に乗せることで、自分の中のスイッチを入れているのです。

心の中で「翻訳」して放つ一言


 私は、日本人が無理に欧米のような表現を真似する必要はないと思っています。職場で「良い一日を!」と日本語で言うのは、やはりまだ少し照れ臭い人も意外に多いものです。

 大切なのは、言葉そのものではなく、その「裏側にある願い」を自覚することではないでしょうか。たとえ口から出るのが、いつもと同じ「おはようございます」であっても、心の中で 「今日も一日、お互い無事で、良い日になりますように」 と翻訳して発してみる。或は、想いを込めて発してみる。

 その小さな「願い」を込めた意図は、必ず声のトーンや表情、空気感となって自然に相手に伝わります。

微笑みの連鎖を、日本へ

 台北を去る最後の朝、私はレストランで毎朝顔を合わせていたスタッフに、自分でも驚くほど自然に、こう言葉をかけていました。

「Thank you. I hope you have a good day」

すると彼は、私の言葉を慈しむようにオウム返しに唱えたあと、
最後には私の手をぎゅっと握りしめ、
満面の笑みでこう言ってくれたのです。

「My pleasure!」

 その手の温もりと、心からの笑顔に触れた瞬間、私は確信しました。
あの日エレベーターで出会った女性から受け取った「ポジティブな種火」が、
今、確実に彼へと手渡されたのだと。
驚きとともに、私の心はこれまでにない温かさで満たされました。

日本の職場を、もっと温かい場所に

 私たちは、「おはよう」や「ありがとう」をあまりにも「義務の言葉」として使いすぎていたのかもしれません。相手をポジティブにする言葉は、巡り巡って自分自身を救います。

 わざわざ英語を使う必要はありません。
明日、隣にいる誰かに、ほんの少しの「願い」を込めた挨拶を届けてみませんか。

その一言が、誰かの、そしてあなた自身の不機嫌を溶かす特効薬になる。
台北の清々しい朝、私の手を握ってくれた彼の笑顔が、何よりの証拠です。

おわりに

 今回の台北出張は、心身ともにハードな瞬間もありましたが、だからこそ普段見過ごしていた「挨拶の温度」に気づかされました。
私自身の備忘録として、そして今、職場の空気に悩む方への一つのヒントになればと思い、綴りました。

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この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
ハラスメント研修プランナー/講師/産業カウンセラー
企業の管理職が「ハラスメントを恐れて部下指導ができない」という悩みを解決する研修を専門とする。
アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修、ハラスメント研修を企画。
2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。
企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。
年間約200件の研修を企画・実施し、これまで約30万人以上が受講。

特に「これはパワハラなのか?」という企業現場で最も悩みが多い
ハラスメントのグレーゾーン問題に特化した研修を日本でいち早く企画・提供。
「ハラスメントにおびえて部下指導ができない管理職」を支援することをテーマに、企業研修・講演・執筆活動を行っている。
立教大学経済学部卒
産業カウンセラー

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。

このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。

職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。

このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。

そんな思いで、このブログを書いています。

#パワハラ
#挨拶
#台北