ご存じの方も多いかと思いますが、2020年1月に、noteで大ヒットしました記事「100日間おなじ商品を買い続けることで、コンビニ店員からあだ名をつけられるか?ビスコをめぐるあたたかで小さな物語(光文社)として書籍化されましたので、改めて読みました。
目次
ビスコを毎日同じコンビニで買い続ける実験
著者の着想の面白い点は、毎日同じコンビニでおなじものを買っていると「店員さんにあだ名をつけられているのではないか」と不安になりませんか? という問題提起。それを実際に実験するこの著者は覚悟が違います。詳しくは本に譲りますが、実際に自宅から通える3軒のコンビニに毎日通って「ビスコだけ」を買ってレシートをもらい続けていたのです。(ただし、出張などは除く)
はじめは顔を覚えられたときの羞恥心や、過剰な自意識を押さえて毎日通い続けていましたが、コンビニで変わる会話が
「店員とお客さんの関係で、売買契約をかわすために必要最低限の会話」から、
「人と人とのコミュニケーション」へと少しづつ変化していったのです。
少し、お客様の変化の過程を本書から引用します。
ビスコを買い続けたら、どんな変化があったのか?
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14日目 「突然、あるコンビニの店員さんから『ビスコ、好きなんですか?』と聞いてきます」
42日目「『今日の服装はかわいいですね』と声をかけられる」
74日目「『最近きてないじゃないですか!』
96日目
副店長「今日は私服なんですね」
著者「週末だから」
副店長「ちゃんと休めてます?」
著者「週に1回くらいかな」
副店長さんと親密度が一定のレベルに達した。
石の上にも3年、ビスコを買うの三ヵ月と著者。
116日目 「『お兄さんは1週間でビスコの人とあだ名はついています。でも心配していますよ。
毎日、ビスコばかりで栄養が偏らないのかな、おなか空かないのかな、とか』
100日目には、もうビスコを買いにこないことを告げると寂しいと店員から言われたとのこと。
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小さな幸福感が日々を豊かなものにする
お客様も店員も同じ人間です。でも機械やモノのように扱う人もいたと著者は言っていました。
著者の言葉で印象的だったのは、
「お店という場所によって引き合う私たちは連絡先も知らないおろか、名前も知りません。しかしそんな間柄だからこそ、無責任に明るく振舞うことができ、人を元気づけることができるのではないでしょうか?
特に会話をかわさなくても、いつもの人がいつもの場にいるだけで、ささやかな喜びを感じたりするものです。そういう小さな幸福こそが日々を豊かにします」と。
職場の廊下やトイレですれ違っても、話したことがないあの人
私たちが働く会社も、価値観も世代もの異なる他人同士が縁あって採用されて、同じ職場に集い、机を並べて同じ理念を共有して、労働契約を締結して、会社の目的を目指してチームをつくり汗水働きます。会社法の観点からみれば、会社という名のバーチャルな場に集い、何十年もそこで様々なドラマが繰り広げられるのです。
毎朝、同じ時間にエレベーターに乗り合わせる、隣の部署の名前は知らないけれど、顔だけは知っている人、違うフロアで降りる違う会社の人。ビルで働く清掃員や警備の人、食堂でご飯を盛ってくれるアルバイトの人、宅配便の人。
このように毎日すれ違うのですが、会話することはなく、コンビニに置き換えれば、名前も連絡先もお互いに知りませんが、毎日の光景と化しているのです。でもその当たり前の光景だからこそ、意外とお互いに安心できる場所にもなっているのかもしれません。
コンビニの店員とお客様も一見、客観的に見れば単なる光景に過ぎませんが、そこに、なにかがきっかけにコミュニケーションが生まれた瞬間に、当事者意識が芽生え、場が変わり、血が通う関係に変わるのです。
ある会社の研修で、毎日会社の廊下ですれ違う人、トイレでは合うけど話したことがない人を数えてもらったことがありました。結構いるんですよね。ましてや大きな会社であれば、社長の顔は入社式で一度見たきりで、知らないうちに退任していたなんてことも珍しくありません。
毎日の何気ない職場の光景に必要なこと
何気ない日常の光景に血を通わすこと、もっと、彩りを加えるために、これまで光景と化していた相手に、最初は会釈からはじめてみませんか?(ポイントはお互い気恥しいので自分から先にすること)そのうち、相手もつられて会釈するまで続けるといったことを研修でお願いしたことを思い出しました。別に、大げさな挨拶運動はしなくても構いません。初めは驚かれたり、不審がられたりするかもしれませんが、そのうち会釈や、挨拶を返してくれればしめたものです。大切なことは、最低100日続けることです。
千日回峰行(※比叡山で行われる悟りを開く天台宗の行)という発想もありますが、出来る方は千日!? 続けたら、恐らく立派な信頼関係が気づけているかもしれません。ただし、途中で相手が異動や退職をしているかもしれませんのでその点はご留意ください。
コミュニケーションは化学反応の実験の繰り返し
コミュニケーションは、大げさかもしれませんが、壮大かつ、日々のヒトと人との化学反応の実験の繰り返しなのでしょう。 例えば、指導とパワハラに悩んでいる人が、100日間、相手のいいところだけを認めフィードバックし続けたらどう認識されるか? 自分のノートに相手のいいところを100日間、書き貯めたら、どのタイミングで相手から「パワハラしない人」と認識されるのか?など、まるで夏休みの理科の宿題のように気楽に(ちなみに、私は朝顔の日記。当時は面倒だった)、みんなでやってみるのも面白いかもしれません。
ビスコの実験からお分かりにように他人でも100日かかりますから、ましてや同じ職場の同僚や、上司と部下の間で100日行ったら、恐らくですが、関係性は今よりもさらに強化するかもしれません。
注意して頂きたいのですが、あだ名をつけられることが目的ではないことを誤解しないで欲しいこと、
本当に相手が明らかにイヤそうな顔をしたり、拒否されたら、例え99日目であっても潔くスパッと途中でやめてください。あなたの意に反して、パワハラになる可能性も多いにありえます。
ビスコミュニーションしてみませんか?
リモートワークでただでさえ出勤日数が減っています。是非、出社したときくらいは、自分から声をかけることで、自分を取り巻く人との関係を改めて良いものにしていって欲しいなと思います。最近の若手の自殺の増加傾向や、中高年でさえも、リモートワークでの孤立感の高さの記事を読むたびに、このビスコのことを思い出すのです。
皆さんも、是非この本をお読みいただき、真面目に、ビスコならぬ、「ビスコミュニケーション」を初めてみませんか?
出典引用 光文社 「100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。」
ハラスメント研修企画会議 主宰 藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役、産業カウンセラー。立教大学経済学部卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修企画営業部門のマネージャーとして一部上場企業を中心にコンプライアンス、ハラスメント研修等を企画。2009年株式会社インプレッション・ラーニングを設立。起業後、企業研修プランナーとして「ハラスメントの悩みから解放されたい」「自分の指導に自信を持ちたい」「部下との関係性をよくしたい」……といったハラスメントにおびえながら部下指導に悩む管理職に年間200件のセクハラ、パワハラ研修を企画し、研修を提供。会社員時代の研修コンテンツでは決して企画することが出来なかった 「グレーゾーン問題」に特化したハラスメント研修を日本で一早く企画し実施。 起業後10年間で約2,000件、約30万人以上に研修を企画してきた。