「どう思ってる?」が部下を追い詰める。感情を出せない職場で、人は言葉を失っていく

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「どう思ってるの?」
「何が問題なの?」
「ちゃんと言ってくれないと、わからないよ」

職場でよく交わされる問いです。
悪気はありません。むしろ、「本音を引き出そう」「部下の話を聞こう」という
善意からの問いかもしれません。
でも、その善意が、かえって人を追い詰めてしまうことがあります。

先日、NHK Eテレ『toi-toi』を見ました。
テーマは「自分の気持ち わかりますか?」。

親との死別、家庭環境、人間関係、孤独。それぞれの事情を抱えた若者たちが、
自分の感情について語っていました。

その場で気持ちのやりとりを求められても、すぐには自分の気持ちを形にできない。
ある出演者の話を聞きながら、私は思いました。
これは職場でも起きているのではないか。

「どう思ってる?」が“圧”になる

気持ちを言葉にできない。だから、沈黙する。
すると上司は、

「考えていないの?」
「何か不満があるの?」
「不機嫌なの?」
と受け取ってしまう。

さらに、
「言ってくれないと、こっちもわからないよ」
と問いかける。

でも、本当に「言いたくない」のでしょうか。
もしかすると、本人にもまだわかっていないのかもしれません。
悲しいのか。悔しいのか。腹が立っているのか。不安なのか。
それとも、いくつもの感情が混ざり合っているのか。

自分でも整理できていない状態で、「で、どう思ってるの?」
と答えを求められる。
すると人は、とりあえずその場に合う「答え」をつくってしまうことがあります。
本音というより、その場を乗り切るための「正解らしきもの」です。

「大丈夫です」は、本当に大丈夫なのか

番組では、入院中の経験を語った出演者がいました。

周りを悲しませたくない。つらくても明るく振る舞う。
それを続けているうちに、自分の感情さえわからなくなっていった。
悲しいのか、うれしいのか、それさえわからない。

職場でも、似たことが起きているのではないでしょうか。

本当は困っている。仕事を抱え込んでいる。上司との関係に悩んでいる。
それでも、
「何か困っていることはない?」
と聞かれると、

「大丈夫です」

と答えてしまう。

迷惑をかけたくない。弱いと思われたくない。空気を悪くしたくない。
そうやって周囲に合わせ続けているうちに、自分でも自分の感情が
わからなくなることがあります。

だから、「大丈夫です」という言葉だけで、
「大丈夫なんだ」と判断してしまうことには、少し慎重であったほうが
いいと思います。
言葉になっていないものが、その後ろに隠れているかもしれないからです。

言葉にできない感情がある

自分の感情を言葉にすることは、簡単な作業ではありません。
番組では、臨床心理士の倉西ひろしさんが「感情を選べない」という
印象的な話をしていました。

たとえば、レストランでメニューを渡されても選べない人がいる。
「これが食べたい」というものがなく、「どれも違う」と感じる。

感情も同じだというのです。

悲しい。悔しい。寂しい。腹が立つ。
言葉はいくつもあります。

でも、今の自分の気持ちは、そのどれにも当てはまらないことがある。

また、俳人の夏井いつきさんの言葉も印象に残りました。

「人のこと以上に、自分のことはわからない。
言葉はそもそも不自由なもので、自分の心を100%言葉にすることなどできない。」

人の感情は、それほど単純ではありません。
にもかかわらず、職場では、

「結局、どう思ってるの?」
「結論は?」

と即答を求めてしまう。

それでは、話せない人がますます話せなくなっても不思議ではありません。
「沈黙を待ってくれると救われる」では、上司はどうすればいいのでしょうか。

「沈黙も含めて待ってくれると救われる」

番組で印象に残った一言でした。

多くの上司は、沈黙が苦手です。
部下が黙ると、「何か言わなければ」「質問を変えなければ」「アドバイスしなければ」と焦ってしまう。
早く結論を出そうとすることもあります。
でも、感情には、すぐに言葉になるものと、時間をかけなければ言葉にならないものがあります。
上司に必要なのは、沈黙を埋めることではなく、沈黙を待つことなのかもしれません。

「今、わからなくても大丈夫だよ」
「うまく言葉にしなくてもいいよ」

その一言だけで、安心して自分の感情と向き合える人もいるのではないでしょうか。

励ましや解決策が、逆効果になることもある

もう一つ大切なのは、ようやく言葉にした感情を「ジャッジしない」ことです。

励ますつもりで、
「そんなことで落ち込むなよ」
「気にしすぎだよ」
「もっと前向きに考えよう」

と言うことがあります。

言った本人は励ましているつもりです。

でも、受け取る側には、
「そんなふうに感じてはいけない」
と、自分の感情を否定されたように伝わることがあります。
すぐに解決策を差し出すことも、いつも正解とは限りません。

「転んで膝をすりむいて、痛かった」
と言う相手に、
「薬を塗れば治るよ」
と返す。
間違ってはいません。

でも、その人がその瞬間に求めているのは治療方法ではなく、
「痛かったね」
という一言かもしれません。

職場も同じです。
解決する前に、まず受け止める。
私は、この順番がとても大切だと思っています。

若手社員は「もっと感情を話したい」

若手社員向けの研修で、私はこう聞くことがあります。

「職場の人に感謝していることはありますか」
「反対に、嫌だったことはありますか」
すると、さまざまなエピソードが出てきます。

私がお願いするのは一つだけです。
「出来事だけではなく、そのとき自分がどう感じたのかも話してみてください」
急かしません。沈黙しても待ちます。

そして、話してくれた内容に、すぐアドバイスもしません。
すると、多くの人が少しずつ、自分の気持ちを話し始めます。

研修後のアンケートでは、
「もっと話したかった」
という声が出てきます。

私はこれを見るたびに思います。
若い人たちは「話したくない」のではないのかもしれない。
安心して話せる場所があれば、本当はもっと自分の感情を
言葉にしたいのではないか。

問題は「話さない部下」だけにあるのか

「あの部下は何を考えているかわからない」
「最近の若手は本音を言わない」

職場でよく聞く言葉です。
でも、私はここで、問いを少し変えてみたいと思います。

本当に、その人が「話さない人」なのでしょうか。
それとも、その職場が「話せなくなる場所」になってはいないでしょうか。
すぐに答えを求められる。
感情を話すと評価される。
弱音を吐くと否定される。
相談すると、すぐにアドバイスされる。
沈黙すると、不機嫌だと思われる。
そんな経験が積み重なれば、人は少しずつ言葉を失っていきます。

これは、上司個人の「聴き方」だけの問題ではありません。
職場に、弱さや迷い、言葉にならない感情を置いておける余白があるか。
そこまで考える必要があると、私は思います。

ハラスメント研修でも、似たような場面があります。

問題が起きた後、
「なぜ相談しなかったのか」
「なぜもっと早く言わなかったのか」
と問われる。

でも、本当に問うべきなのは、
「なぜ、その人は言えなかったのか」
ではないでしょうか。

相談できる制度があることと、相談できる職場であることは、
同じではありません。
1on1があることと、本音を話せることも、同じではありません。
制度をつくることは大切です。

でも、制度があるだけでは、人は話してくれない。
私は、そこに職場づくりの難しさがあると思っています。

人と組織を映すのは「沈黙」かもしれない

私はこれまで、ハラスメントは「人と組織を映す鏡」だと考えてきました。
今回の番組を見ていて、もう一つ思ったことがあります。
職場の「沈黙」もまた、人と組織を映す鏡なのではないか。

部下が黙ったとき、
「何を考えているのかわからない」
と相手の問題にするのか。

それとも、
「なぜ、この人は今、言葉にできないのだろう」
「私たちの職場は、安心して迷いや感情を出せる場所だろうか」
と、自分たちの側にも問いを向けるのか。

この違いは、とても大きいと思います。

急かさない。
沈黙を待つ。
感情を否定しない。
すぐに解決しようとしない。
そして、言葉になるまでの時間を尊重する。
部下の本音を「引き出す」ことよりも、
本音が出てくるまで待てる職場をつくること。

それが、これからの上司に求められる大切な力ではないでしょうか。

あなたの職場では、誰かが沈黙したとき、その沈黙を待てているでしょうか。
それとも、
「どう思ってる?」
と、知らず知らずのうちに答えを急かしていませんか?

この記事を書いた人

藤山晴久
株式会社インプレッション・ラーニング 代表取締役
研修プランナー/講師/産業カウンセラー

「人を追い詰めるのは、個人だけではない。」

20代の終わり、まだ駆け出しだった頃、ある取引先の経営者と昼食をともにする機会があった。60代、場数を踏んだ経営者と対等に渡り合うにはまだ早すぎる年齢だったが、その方は若輩者の自分に、惜しみなく時間を割いてくれた。その方が、昼食からいくらも経たないうちに、この世を去った。自分はその事実を、伝聞という形でしか知ることができなかった。「昨日まで隣にいた人が、今日はいない」―その事実は、今も胸に残っている。
その後、自身も深夜に及ぶ過酷な労働環境と、さまざまな立場の人間関係の中で受けた本格的なハラスメントの果てに、心身の均衡を崩した時期がある。ちょうどその頃、組織の整理に伴い、職を離れることにもなった。
この二つの経験を原点に、ハラスメントを個人の資質の問題ではなく、組織風土・ガバナンス・リスクマネジメントの視点から分析し、研修として提供している。

立教大学卒。アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにて法人研修の企画営業マネージャーとして、一部上場企業を中心にコンプライアンス研修・ハラスメント研修を企画。2009年、株式会社インプレッション・ラーニングを設立。企業研修プランナーとして、管理職向けハラスメント研修を中心に活動し、研修講師としても登壇。年間約400件の研修を企画・実施し、これまで数十万人規模が受講。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ハラスメントは、特定の個人だけの問題ではありません。
社会の変化、世代間の違い、そして組織の文化の中で生まれるものです。 このブログでは、社会・組織・個人という三つの視点から、
ハラスメントの背景や構造について考えています。
職場には、「わかっているはず」という思い込みや、
言葉にしなくても伝わるはずだという空気があります。
しかし、ときにそれは人を追い詰める
「以心伝心の暴力」 になることもあります。
このブログでは、そんな職場にある“見えにくいズレ”をほどきながら、
よりよい対話と関係を生み出すヒントを発信していきます。
職場の「わかっているはず」を、言葉に変える。
そんな思いで、このブログを書いています。

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